01 贋作
ホームズが登場するパスティーシュとパロディ
2001-11 【78】
『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』
『シャーロック・ホームズのクロニクル』
『シャーロック・ホームズのジャーナル』
『シャーロック・ホームズのドキュメント』
ジューン・トムスン
(創元推理文庫)
贋作ホームズの最高峰シリーズ、現四作です。
真贋は別として、限りなくホームズ物語のオリジナルに近い内容の原稿が詰まったブリキの箱を見つけたという女性が披露する、という趣向で書かれているシリーズで、どの作品も非常にレベルが高く、冊数を重ねるごとに面白くなっていくという希有な存在です。大抵は、前半で力を使い果たしてしまうようなのですが……。
作者のトムスンは、英国で活躍するバリバリの推理作家で、このシリーズと同じく創元推理文庫から『ときのかたみ』などの作品を上梓しています。また、こちらも創元推理文庫から出ている『ホームズとワトスン──友情の研究』という研究書を著わすほどの、優秀なシャーロキアンでもあります。
本格的なホームズ物語の他に、2人目のワトスン夫人に関する考察(ジャーナル)や、ボヘミア王の正体を探る小論(ドキュメント)などが併録されています。
トムスンが長編を書いてくれないものだろうか、と期待しています。
『恐怖の研究』
エラリー・クイーン
(ハヤカワ文庫)
1988年、ロンドン中を恐怖させていた《切り裂きジャック》による連続殺人事件。このような問題に対して、ホームズが興味を持たないこと自体がおかしいということで、本作にはやっぱりホームズがこの事件を解決していたということが書いてあります。しかも、ワトスンによって記録された事件の始終が、80年後にエラリー・クイーンの手元に届き、2人の名探偵が殺人犯の真の姿を明らかにする、というたまらない構成……。良いですよ、この本は。
『薔薇の名前 上下』
ウンベルト・エーコ
(東京創元社)
僕は創元社が好きなんですが、一つだけ気に入らない点があります。それは、『薔薇の名前』をなかなか文庫化してくれないということです。1990年に出版され、映画化もされているこの作品は、イタリア人で世界的な記号学者であるウンベルト・エーコの代表作です。確か、今世紀を代表するような作品、といった評価がなされていたような気がします。文学としても優れていて、エンターテイメント作品としても優れている、凄い本なわけですね。
そんな本が、どうしてホームズ関係の一冊として、ここに挙げられているのか。理由は、簡単なものが2つです。一つは、登場する人間がバスカヴィル出身であること。バスカヴィルのウィリアム、などと呼ばれています。もう一つは、バルカヴィル出身の人間が出ているからなのか、ノリリン(法月綸太郎)がこの本を「ホームズのパスティーシュ」と言い切ってしまったからからです。どこで言い切っていたのかは、もう忘れてしまいましたが……。
ホームズ関係の本は、本当に多種多様です。
『シャーロック・ホームズの災難 上・下』
エラリー・クイーン/編
(ハヤカワ文庫)
確か、ドイルの著作権管理者(息子のエイドリアンかも)から出版の差し止めを受けたことがある? というエピソード付きの、名アンソロジー集です。記憶違いかもしれませんが(笑)。
クイーンという人は、もしくはその片割れという人は、相当な贋作ホームズの蒐集家だったそうです。今でもどこかに、大量のコレクションが眠っているんでしょうか。
上巻には、[探偵小説作家篇]と[著名文学者篇]が収録されています。前者には、クリスティ、バウチャー、スタリット、そしてクイーンが、後者には、トウェインやО・ヘンリーなどが含まれています。下巻は、[ユーモア作家篇][研究者その他篇]となっています。
『シャーロック・ホームズの新冒険 上・下』
グリーンバーグ&ウォー/編
(ハヤカワ文庫)
読みごたえ抜群のアンソロジーです。
上巻には、短編の専門家ホック、シャーロキアンのハードウィックといったお馴染の名前が。下巻も、ハードボイルド作家のエルスマン、英国本格のラヴゼイ、人気作家キング、モリアーティを主人公とする作品を著わしたガードナー、と豪華な顔触れです。
本当に才能のある多くの人たちが、ホームズ物を書いています。思わず贋作を書きたくなってしまう理由や魅力が、ホームズ譚にはあるっていうことですよね。
『シャーロック・ホームズの功績』
アドリアン・コアン・ドイル
ジョン・ディクスン・カー
(ハヤカワ・ミステリ)
ドイルの嗣子であるアドリアン・コナン・ドイルと、アメリカ本格探偵小説の巨匠であり、ドイル研究の大家でもあるカーによって書かれた、正統派パスティーシュです。消えたフェリモア氏の事件など、聖典に登場する12の語られざる事件が、半ダースは2人で、残りはアドリアンによって書かれています。
カーによって書かれた作品には、お得意の不可能犯罪物が含まれます。本格ミステリの、しかも不可能犯罪物をホームズが手がけるというのは、本格ミステリファンのシャーロキアンとしては、たまらないものがあります。
『知られざる名探偵物語』
ジュリアン・シモンズ
(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ミステリ作家として評者として知られるジュリアン・シモンズによって描かれた、名探偵の語られざる物語を集めた異色の短篇集です。『ホームズの隠遁生活はいかに妨げられたか?』が収録されています。他には、ミス・マープル、ネロ・ウルフ、エラリイ・クイーン、メグレ警視、エルキュール・ポワロ、フィリップ・マーロウとたる名探偵が並んでいます。
ハヤカワ文庫には珍しい? カラーイラストが添えられていて、とても美しい本です。
『カー短篇集5 黒い塔の恐怖』
ディクスン・カー
(創元推理文庫)
ホームズものの『コング・シングルトン卿文書事件』を収録しています。脚本の形式で書かれた、ショートショートです。他には、ラジオドラマや怪奇譚、推理小説論などを愉しむことができます。さらには、江戸川乱歩による《カー問答》が併録されています。
『シャーロック・ホームズ クリスマスの依頼人』
日暮雅通/訳
(原書房)
クリスマスとホームズ。お祭りごとを楽しむような人間ではなさそうなホームズですが、『青い紅玉』では、ハドスンさんの調理したガチョウを愉しむなど、以外なほどクリスマスとの関係は良好なようです。本書は、クリスマスに関する事件ばかりを集めたアンソロジーです。
エドワード・D・ホック、アン・ペリー、ウィリアム・L・デアンドリア、レジナルド・ヒルらが書いています。
『シャーロック・ホームズ 四人目の賢者』
日暮雅通/訳
(原書房)
アンソロジー集《クリスマスの依頼人》の第二段です。
ピーター・ラヴゼイ、エドワード・D・ホック、アン・ペリー、といった大物たちのホームズ譚を堪能することができます。特に、注目すべきはアン・ペリーでしょうか。ヴィクトリア時代を舞台とする歴史ミステリのシリーズを2つ抱えている作家で、その才能は希有なものです。短編の専門家で、間違いなくこの分野で最高の作家であるエドワード・D・ホックの作品も見逃せませんよ。
『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』
M・W&W・ウェルマン
(創元SF文庫)
H・G・ウェルズによる古典SFの傑作『宇宙戦争』を題材に、ホームズとチャレンジャー教授というコナン・ドイルの二大キャラクターが活躍する、《火星人の来襲》劇です。ホームズが古物商で手に入れた水晶の卵に謎の映像が映し出され、チャレンジャー教授に意見を聞きに行ったところ、二人が一致した見解というのが火星人の来襲、これだけで面白くないですか?
『蜜の味』
H・F・ハード
(ハヤカワ・ミステリ文庫)
主人公の私は、田舎での生活を求め、サセックス丘陵? に越してきた青年。そこには蜂蜜を売る一見の家があり、その家の夫人が蜂に刺されて死んでしまうという事故が起こります。そんな時、マイクロフトを名乗る老人と出会った私は、彼の口から訓練された毒蜂によって人を殺す方法があるのだと聞かされ、共に犯人を追うことに……。
《ホームズ引退後の事件》です。
『ホームズ贋作展覧会』
各務三郎 編
(河出文庫)
クリスティ、トウェイン、バウチャー、ダーレス、スタリットなどの作品を収録しているアンソロジーです。61番目の聖典とも騒がれた──結局はドイルが書いたのではなく贋作だとされた──『指名手配の男』を読むことが出来ます。
クイーンによるアンソロジー『シャーロック・ホームズの災難』と重なってしまっている作品が多いです。
『エドウィン・ドルードの失踪』
ピーター・ローランド
(創元推理文庫)
文豪ディケンズが残した未完の大作? ミステリ『エドウィン・ドルードの謎』の真相を、シャーロック・ホームズが解明します。このアイデアだけでも、大成功です。僕は『エドウィン・ドルードの謎』を未読の状態でこの本を読んだのですが、特に支障はありませんでした。でも、先に読んでいれば、別の楽しみ方が出来て、余計に面白かったのかもしれません
『シャーロック・ホームズの愛弟子』
ローリー・キング
(集英社文庫)
シリーズの第1作です。一般的なホームズ学による年齢よりも、キング独自の設定によって若返っているホームズが登場します。彼は、サセックスの丘陵地で暮しているのですが、ある日15歳の少女メアリ・ラッセルに踏みつけられてしまいます。その少女には、優れた探偵としての素質があるということに気がついたホームズは、彼女に自分の探偵としての技術を教えて、もう一人の犯罪捜査のパートナーとするのですが……。
あとは、読んでのお楽しみ。捜査官ケイトシリーズと並ぶ、ローリー・キングの長編のシリーズです。
『女たちの闇』
ローリー・キング
(集英社文庫)
シャーロック・ホームズの愛弟子シリーズの第2作です。
オックスフォードで学んでいるメアリ・ラッセルは、21歳の誕生日を迎えて、探偵としての師であり、共に事件を解決したパートナーでもあるホームズを、さらに男性として意識するようになっています。
ワトスンやハドスンさんも登場。ネロ・ウルフ賞を受賞しています。
『マリアの手紙』
ローリー・キング
(集英社文庫)
シリーズの第3作。
ホームズと結婚したメアリの元に、旧友ラスキンが訪れる。彼女は、《マグダラのマリア》の手紙と思われるものを持っていて、メアリらはその真贋を確かめようとするのだが、その前にラスキンが殺されてしまう。
今回はマイクロフトや、元ベイカー街遊撃隊のビリーが登場しています。ただ、ビリーっていう少年は、ホームズの雇っていた給仕だったような……。隊に入っていたという設定なのかもしれません。
『バスカヴィルの謎』
ローリー・キング
(集英社文庫)
ダートムアの領主館に滞在していたホームズは、メアリを電報で呼び出します。折しもその館の周囲では、鉱山労働者が殺害された事件、魔犬と幽霊馬車の登場と、奇妙な事件が繰り返されていて……。
シャーロック・ホームズの愛弟子シリーズ、第四弾です。今回の事件は、題名が魅力的に示している通りなのですが、舞台をダートムアに移して展開していきます。注目すべきは、ヴァイオレットという名前の女性を登場させていることでしょうか。原作をよく読み込んで、そこから新しいものを作りだそうと苦心しているのだろうと想像させられます。このシリーズは、作者にとってもお気に入りの作品? というよりはライフワークともいうべきものなのでしょう。続いて第五弾と第六弾の出版が計画されているとのことです。
『リュパン対ホームズ』
モーリス・ルブラン
(創元推理文庫)
訳ではホームズとなっていますが、原作に登場する英国の名探偵の名は、ヘルロック・ショルメス。あからさまにホームズなのですが、感情に配慮した? ルブランがショルメスと名前を変えていた話は有名です。2作の中篇が収録されています。リュパンに登場するホームズは、ちょっとばかり横暴で柄が悪く、人が変わってしまっているような印象を受けます。
『奇巌城』
モーリス・ルブラン
(創元推理文庫)
リュパンシリーズの傑作とされている作品です。ホームズが登場してはいるのですが、17歳の高校生探偵が登場してリュパンと推理合戦を繰り広げるなど、影が薄いような……。マリー・アントワネットが残した紙切をきっかけに、巨万の財宝が隠されているという古城を舞台に繰り広げられる冒険譚です。
『怪盗紳士リュパン』
モーリス・ルブラン
(創元推理文庫)
リュパンシリーズの処女作品です。そんな最初からホームズ──ぽい?──探偵が登場してたんですね。題名だけで、後々の酷い扱いが良くわかる(笑)『遅かりしシャーロック・ホームズ』が収録されています。
『ワトスン君、もっと科学に心を開きたまえ』
コリン・ブルース
(角川書店)
物理学者の作者による、12の科学ミステリです。不合理に見える犯罪を、《近代物理学の諸法則を駆使して》解決するという、魅力的なんだけど、とても難解そうな趣向の本です。なのですが、とてもわかりやすくて、読後にはいつの間にか科学を学んでしまっているという……。
異色のミステリとしても、ホームズの贋作としても、素晴らしい一冊です。
『シャーロック・ホームズの謎』
マイケル・ハードウィック [著]
日暮雅通/北原尚彦 [訳]
(原書房)
副題は、《モリアーティ教授と空白の三年間》。大空白時代とも呼ばれることもある、『最後の事件』でホームズが消えてしまってから『空家の冒険』で再登場するまでの三年間。この時期には、ホームズは英国政府の依頼を受けて、ある人物と共に行動していた、という設定で書かれた作品です。
凝りに凝った本で、本文には写真などの資料がふんだんに挿入されていて、編集者や翻訳の2人──もっとも活動的なホームズ翻訳者が揃ってしまった──に気合いが入っていたのか、《最強のライバルと「わが人生最大の犯罪」》という、なかなかなキャッチコピーまでがつけられています。
『ホワイトチャペルの恐怖 上・下』
エドワード・D・ハナ
(扶桑社ミステリー)
上下巻の構成となっている、長編ミステリです。ホームズとワトスンが、ホワイトチャペル界隈で、娼婦ばかりを狙って実行された連続殺人事件の犯人を追います。著者は高名なシャーロキアンということなのですが、本作にはあまりホームズ学的なペダンティックさが抑えられていて、好感が持てます。シャーロキアンが、ホームズ譚を書くと、どうしても知識のお披露目という側面を持ってしまうのですが、それゆえにミステリつまらないということも多いですよね。ジャーナリストという職業柄なのか、性格なのか、綿密な時代考証を行って書かれた作品だそうで、この点からも高く評価することができると思います。
『新シャーロック・ホームズ 魔犬の復讐』
マイケル・ハードウィック
(二見文庫)
1902年の英国を舞台に、かのクロムウェルの遺骨が発掘されるなど、歴史をベースにした展開が進むのですが、一方では中国人ボーイが殺されるなど、ケレン味が強いミステリです。ホームズの時代といえば、コナン・ドイルの描いた部分だけが事実になってしまっているというか、《霧》のようにデフォルメされたイメージが強くて、本当にあった時代なのに、半ば架空の時代のような感じがします。この作品では、歴史的な事実を扱うことで、虚構のホームズが暮らした実在の英国に、少し現実味を足すことに成功しています。
『シャーロック・ホームズの優雅な生活』
M&M・ハードウィック
(創元推理文庫)
映画作品が、シャーロキアン夫妻によって小説化されたという作品です。カナダに住むワトスンの子孫という人間が銀行にやってきて、ご先祖の預けていた箱を開くと、中には未発表の原稿が詰まっていて、同席していた銀行の人間がシャーロキアンだったことから発表されたという設定。ネッシーが出てきたり、ホームズがワトスンに対して、小説に登場する虚構の自分が本来とは違う、とクレームをつけているシーンが笑えます。
『ロンドンの超能力男』
ダニエル・スタシャワー
(扶桑社ミステリー)
脱出王との異名をとる奇術師フーディーニは、あまりにも見事な脱出劇を演じることから、超能力の持ち主であると考えれていたそうです。コナン・ドイルもその一人……。
この作品では、フーディーニの妻がホームズに夫の保護を依頼します。ですが、ホームズはその依頼を断ってしまい、別の事件でフーディーニはヤードに逮捕されてしまいます。
皇太子が登場するなど、実在の人物を登場させる歴史ミステリでもあるのですが、フーディーニはドイルと共にしょっちゅう小説に登場しているせいなのか、まるでホームズ譚に登場するキャラクターのように感じられてしまいます。
『シャーロック・ホームズ対オカルト怪人』
ランダル・コリンズ
(河出文庫)
副題──あるいは「哲学者の輪」事件──
社会学者? と思われる作者による奇作です。ケンブリッジを舞台として、哲学者ヴィトゲンシュタインや、天才数学者ラマヌジャン、経済学のケインズ、オカルトの帝王クロウリーなどが登場してホームズと邂逅、知を競い合います。特にヴィトゲンシュタインが魅力的で、彼について興味を抱いた記憶があるのですが……、特に何も読んでいません(笑)。
『シャーロック・ホームズ対ドラキュラ』
ローレン・D・エルスマン
(河出文庫)
副題──あるいは血まみれ伯爵の冒険──
ホームズとワトスンが、ヘルシング教授らと共に、吸血鬼ドラキュラ伯爵と対決していた、という怪作です。ホームズとヘルシング教授は、多くを語る必要なく共通の結論に達することが出来るという推理力の持ち主で、お互いの能力を自負する自身からか、少し緊張感のある関係を保って、伯爵を追うことになります。
上記の『〜オカルト怪人』もそうなのですが、表紙のデザインがなかなかに秀逸です。
『シャーロック・ホームズを訪ねたカール・マルクス』
アレクシス・ルカーユ
(中央公論社)
1871年の4月に、資本論を書き上げようとしていたマルクスが、若きホームズ──54年に生まれたという説が一般的なので、17歳?──を訪ねていた……。
マルクスはビスマルクらの放った暗殺者に追われていて、ホームズは彼を助けるべくパリに向かいます。そこでは、ある女性との出会いが待っていて、彼の性格に見られる例の陰りが、この出会いに起因していたという、わかりやすいお話です。
『シャーロック・ホームズの恋』
セナ・ジーター・ナスランド
(ハヤカワ文庫 ミステリアス・プレス)
ホームズ亡きあと、伝記を書くために資料を集めていたワトスンは、何故か奇怪な事件に巻き込まれてしまう。その捜査に乗り出した彼の目前には、ホームズの悲劇的な恋と、悲劇のバイエルン国王ルートヴィヒ二世を巻き込む陰謀が浮かび上がってきて……、という設定です。
意外な結末が待ち受ける傑作、ということなのですが、ちょっとトンデモ本的な面白さも持ってしまっているように思えます。
『ヘッド・ダウン』
スティーブン・キング
(文芸春秋)
『ワトスン博士の事件』が収録されています。ホームズの死後からすでに40年以上もの月日が流れていて、ワトスンも100歳に近く、物忘れも激しくなっているという設定で、レストレイドも登場します。年老いたワトスンから見たホームズ像というのは、なかなか新鮮で、彼らの友情を感じさせてくれます。
本のサイズが一回り大きいハードカバーで、値段が3000円と高い。キングだからって、文芸春秋に殿様商売をされている、と思いながら本屋でお金を支払った記憶があります(笑)。ちなみに、ハヤカワ文庫の『シャーロック・ホームズの新冒険』の下巻にも、同じ作品が収録されていました……(TωT)。
『日本版 ホームズ贋作展覧会 上・下』
(河出文庫)
上巻には、柴田錬三郎、加納一朗、星新一、鮎川哲也、小栗虫太郎、山村正夫らの作品が並び、下巻には、山田風太郎、赤川次郎、清水義範、深町眞理子、都筑道夫、徳川夢声、と豪華な顔触れのアンソロジーです。
同じく河出文庫には『ホームズ贋作展覧会』という海外版のホームズ・パロディのアンソロジーがありますが、日本版の方が多彩さの点で勝っていると思います。様々な着想で描かれたホームズ像に、異論のあるファンもいるかもしれませんが、それもホームズの胡散臭い魅力の一つだと思います。
『真説ルパン対ホームズ』
芦部拓
(原書房)
副題が《名探偵博覧会》というこの本では、ドイル、ホームズ、ルパンなどが登場するだけではなく、黄金時代の本格探偵小説に登場して大活躍をしてみせた、ファイロ・ヴァンスなどの探偵たちが登場する作品も収録されています。全8作。
『シャーロック・ホームズの決闘』
伊吹秀明
(幻冬社)
ホームズが謎の格闘技《バリツ》を駆使し、5人の敵と対峙する書き下ろし作品です。帯には、贋作ミステリーという紹介がありますが、ミステリというよりは、アクション小説としてのホームズの冒険譚という感じ。ホームズの贋作にお馴染の単語が頻出していて、解説が東山あかね……ということは、完全なシャーロキアンによる作品のようです。
『バトル・ホームズ 誰がために名探偵は戦う』
梶研吾
(集英社 スーパーダッシュ文庫)
ワトスンと出会う前のホームズは格闘家だったという設定で、作者によれば、なんでもありのエンターテイメント小説、だそうです。著者の紹介を読んで、ちょっとひいてしまったのですが、内容は若いホームズが活躍するアクションで、次回作が書かれるなれば読んでみたいと思いました。浅田弘幸の描くホームズもいいですよ。
『バトル・ホームズ2 名探偵、大西部を征く』
梶研吾
(集英社 スーパーダッシュ文庫)
若きホームズは格闘家だった。
──という設定で書かれた異色のホームズ譚、第2作です。前作と同様に、なんでもありの冒険活劇風な展開が楽しめます。柔術、カンフー、銃撃と、様々な戦闘シーンが描かれています。前作では、続編を書きたいとのコメントが作者のあとがきありましたが、今回はない。2までて終わってしまうんでしょうか。
『地球人のお荷物』
『くたばれスネイクス』
ポール・アンダースン
ゴードン・アール・ディクスン
(ハヤカワ文庫)
ホーカシリーズの2作です。
ホーカとは、トーカ星に暮している体長1メートルほどの知的生命体で、外見は金色の毛並みを持ったテディベアに驚くほど似ています。彼らは、他の文化に対して強い好奇心を持っていて、一度学習をするや否や、民族の全体で新たな文化を吸収し、個々が役割を担いながら、一斉に新しい文化を演じはじめてしまうという特性を持っています。そんな彼らが、地球人の青年アレックスと出会い、彼の庇護を受けながらも、ドタバタと活動的なところを見せてくれる、可愛らしくて面白いシリーズです。
ホーカのホームズは、第1作の『地球人のお荷物』に登場して、『バスカヴィル家の宇宙犬』事件を見事に解決します。
第2作では、チラリと名前が出てきて、大きな役割を陰ながら果しているという役どころとなっています。
最近なって、やっと重版されました。読まないと損ですよ。
『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』
ニコラス・メイヤー
(扶桑社ミステリー)
重いコカイン中毒患者となってしまったホームズを救うべく、友人のワトスンが考えた手立てとは、宿敵モリアーティーを餌にホームズを誘いだし、ウィーンまでやってきたところをフロイト博士に任せてしまうという作戦だった。
長編パロディの嚆矢として評価の高い作品で、自身の脚本によって映画化されています。またメイヤーは、共同脚本・監督としてスター・トレック2と6に参加しています。
『ウェストエンドの恐怖』
ニコラス・メイヤー
(扶桑社ミステリー)
メイヤーによる続編です。今回は、ロンドンの演劇界が舞台となっていて、バーナード・ショウ、オスカー・ワイルド、ブラム・ストーカーらが登場します。前作と同様に、メイヤーが編者として冒頭に登場して、あくまでワトスンによる未公開手記であるという主張する、という趣向で書かれています。
『シャーロック・ホームズ リオ連続殺人事件』
J・ソアレス
(講談社)
下品あり、美女あり、美味しそうな料理あり……。ブラジルの皇帝に呼ばれて、南国にやってきたホームズが、「この事件のことだけは書かないでくれ!」とワトスンに嘆願したという、ドタバタ喜劇のユーモア・ミステリです。
ソアレスという人は、俳優、コメディアン、脚本家、劇作家、コラムニスト、造型作家、そして作家、という多彩な才能を誇るブラジルの有名人だそうです。
『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』
A・アーノルド
(新潮文庫)
映画作品のノベライズです。ワトスン少年はロンドンのとある私立学校に入学し、16歳のホームズと出会います。ホームズ少年が、連続怪死事件の謎を追って、謎の邪教集団ラメ・テップや、吹き矢を使う暗殺者と対決します。基本的にワトスンの方が年上のはずなのですが、この作品ではホームズが年長となっています。
『ゴルファー/シャーロック・ホームズの冒険』
ボブ・ジョーンズ
(ベースボール・マガジン社)
18のショートストーリーで構成された、名探偵であると同時にゴルフの達人でもあるというホームズの活躍を描いたパロディです。設定が面白い物なので、紹介しておきます。古いゴルフクラブのクラブハウスには、古めかしいロッカールームが残されていて、そこには《ホームズ》と記されたプレートが付けられていました。中には、ゴルフ日記や賭け金帳などが当時のまま収められていて、そこから推測するに、ホームズは捜査の合間に空き時間が出来ると、ワトスンの目を盗んでプレーしていたらしい……。この作品には、続編もあるようです。
『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』
島田荘司
(光文社文庫)
イギリスへ留学生として赴き、その滞在期間中に随分と凹んでしまったという漱石。彼は下宿での幽霊騒ぎに悩み、やたらとエキセントリックなシャーロック・ホームズと、彼を献身的にサポートしているワトスン医師らに相談を持ちかけるのですが、このことがきっかけとなって、ホームズの抱えている事件の解決に力を貸すことになります。
ホームズが徹底的におかしな人間として書かれているのですが、視点の持ち主が夏目漱石であることを考えると、彼の英語力が不完全で誤解していたんだとか、神経がまいってしまっていたのかもしれない、というような解釈も可能となります。島田荘司の才能を感じてしまいます。
集英社からハードカバーで出版されていたものが、文庫になりました。
『世紀末ロンドン・ラプソディ』
水城嶺子
(角川書店)
第10回横溝正史賞優秀作を受賞したホームズ・パロディ譚です。
ベーカー街221bに日本の女の子が時空を越えてやってきて、ホームズ譚『ソア橋』で触れられている未解決事件『ジェイムズ・フェリモアの失踪』の解決に挑戦する。このような着想と、既出のミステリに対するアンチテーゼ性が高く評価されての受賞だったようです。
この年、横溝正史賞は受賞作に該当無しという結果に終わったようですが、優秀賞を本作と争った作品が凄い。賞は上げられないけど、賞なしでもプロとしてやっていける。と選考委員からことごとく言い切られている『ゴーストライター』の作者は、吉村達也。ミステリなのかホラーなのかと意見が分かれたという『リング』は、鈴木光一。この2人の名前を見るだけで、『世紀末ロンドン・ラプソディ』の価値もわかるような気がします。
『探偵の冬 あるいはシャーロック・ホームズの絶望』
岩崎正吾
(東京創元者 創元クライム・クラブ)
落馬事故で記憶を失った男は、何故かシャーロック・ホームズになっていた。刑事はレストレイドと呼ばれ、医師は経歴を真似てワトスンと名乗ることをしているという、おかしなノリのパロディ・ミステリです。
文明開化後の? モダンで魅力的な横浜が舞台となっている『光頭倶楽部』や『バスかビル家のイヌ』と等といった事件の謎が解明されていきます。
『奇想小説集』
山田風太郎
(講談社 大衆文学館)
ホームズのパロディ『黄色い下宿人』を収録しています。山田風太郎は、戦中を医学生として過していたそうです。なんとなく、医師であるドイルと重なってしまいます。彼は、忍者の登場するエンターテイメントや、明治を舞台とした歴史物ですが、日本の本格ミステリで確固たる地位を築いた、偉大なミステリ作家でもあります。
『贋作館事件』
芦部拓 編
(原書房)
西澤保彦、二階堂黎人、柄刀一といった面々による、9つの贋作譚が収録されたアンソロジーです。柄刀によるホームズの贋作『緋色の紛糾』は、ホームズを日本に登場させるやり口が、しらじらしくて可笑しいパロディです。ホームズの他に、ミス・マープル、ブラウン神父、ルパン、といった探偵たちの贋作を楽しむことができます。
『ちぐはぐな部品』
星新一
(角川文庫)
『シャーロック・ホームズの内幕』を収録。柄の悪いホームズがお金に困っていて、人の良さそうなワトスンにお金を無心しています。貧乏貴族のジョン・クレーなる人物から、200ポンドもの大金をせしめるのですが……、とにかく赤毛の質屋が関係しています。
『天国探偵局』
加納一朗
(ソノラマ文庫)
ブラウン、ホームズ、ポワロ、という名探偵が登場します。加納一朗は、謎の英国紳士ホック氏が登場するミステリ作品を書いているのですが、この作品はかなりドタバタとしている喜劇です。
『怪盗ジバコの復活』
北杜夫
(新潮社)
ミステリ、サスペンス界の大物ヒーローたちを登場させる、パロディシリーズの続編です。ジバコがタイムスリップして19世紀のロンドンにやってきて、自らの活躍を描いた作品を送りつけてはホームズを混乱させる、『禿頭組合』という話が収録されています。オリジナルの探偵やスパイたちが、変な名前の怪盗に一杯食わされる光景が気に入らないので、僕はあまりジバコと北杜夫が好きではありません(笑)。
『シャーロック・ホームズ 大陸の冒険』
水野雅士
(青弓社)
著者の水野雅士は、おそらく、近年もっとも活発にホームズ譚関連の著作を発表されている作家さんではないでしょうか。
前作のホームズは、タイムマシンが絡む事件を手がけていましたが、今回はヨーロッパを舞台に、なかなかに大掛かりな活躍を披露してくれます。ホームズ自身が語る事件が含まれているあたりが、シャーロキアンらしい。それもそのはず、作者は日本シャーロック・ホームズ・クラブのメンバーだったんですね。
『影よ踊れ』
──シャーロック・ホームズの異形──
服部正
(東京創元社)
副題がこれほど忠実に作品の在りようを正確に顕していることも珍しいでしょう。この作品は、間違いなく《異形》のシャーロック・ホームズ物語です。第一話で、コナン・ドイルは父リチャード・ドイルを訪ねて病院を訪れます。そこで出会うのが、ホームズとワトスン。彼らは病院の襲った『悪魔の足』のような事件を解決するための調査を開始するのですが、この事件は一見してまるっきり『悪魔の足』なのですが、事実は似て非なるもの。どこかがおかしいのです。
この作品で見られるような形での、シャーロック・ホームズの危機というのは、他には一つとしてないのではないでしょうか。あえて挙げるとするならば、山田正紀の『エイダ』が近いのかもしれませんが……。
『エイダ』
山田正紀
(ハヤカワ文庫)
メアリ・シェリーの人造人間、コアン・ドイルのシャーロック・ホームズ。物語の登場人物が、現実に存在しはじめ、物語が現実を侵食していく世界を描いた本格SFの大傑作です。山田正紀は、SFが不遇の時代にも頑張っていた作家の一人だと認識していたのですが、最近は本格ミステリよりな作家活動を続けています。『エイダ』で一区切りついてしまったのかもしれません、山田正紀にとっても、日本のSF界にとっても。
『大沢在昌のバスカビル家の犬』
大沢在昌
(講談社)
冒険小説の傑作たちを、日本の作家たちが翻案するという趣向で組まれたシリーズの第一作品目が、大沢在昌による『バスカビル家の犬』です。他には、菊池秀行による『吸血鬼ドラキュラ』や逢坂剛による『奇巌城』などが顔を揃えています。
表紙を見ただけではわからないのですが、このシリーズはジュブナイルです。開けばすぐにわかるのですが、文字が大きいので……。内容としては、よくまとめられている、といったところでしょうか。
『犯罪王モリアーティの生還 上下』
ジョン・ガードナー
(講談社文庫)
ホームズと共にライヘンバッハの滝に消えたと思われていたモリアーティは、見事な生還を遂げる。だが、配下モラン大佐の指揮下に置かれていた組織は、ずさんな管理からボロボロに……。再び暗黒街の帝王となるべく、障害となるものを排除しながら、着実に理想を追及していく。
人気の高い作品で、古本では高値で取引されています。高い場合は15000円ということも。ここまで高価なってしまっているのですから、講談社も河出に任せるなどして、復刻を薦めてくれればいいのですが。
このシリーズには、もう一組の作品があります。
『犯罪王モリアーティの復讐 上下』
ジョン・ガードナー
(講談社文庫)
前作『犯罪王モリアーティの生還』に続く、シリーズ第2作です。シャーロキアンの間では、高値で取引されている人気の作品で、生還よりも復讐の方が手に入れにくいようです。
この作品は、裏切りによって自らの犯罪組織を破壊されてしまったモリアーティが、自ら復讐するというピカレスク(悪漢小説)です。追われる立場にある犯罪王が、追う立場になって計画を実行していくコンゲーム小説ということもできるでしょう。
ホームズも登場していますが、主にモリアーティを追跡している探偵は、スコットランドヤードのクロウ警部です。
『レストレード警部の三人のホームズ』
(新潮文庫)
『霧の殺人鬼』
『クリミアの亡霊』
(ハヤカワ文庫)
M・J・トロー
レストレイド警部が活躍する、《レストレイド警部の冒険》シリーズです。この作品に登場するホームズは、ただの変人であり、警官レストレイドの頭を悩ませる迷惑な存在となっています。ファースト・ネームがわからず、Gなどと表記されることも多いレストレイドですが、この作品ではショルトーという名前を得て、ハード・ボイルド的な活躍をしています。
『ドラキュラ紀元』
『ドラキュラ戦記』
『ドラキュラ崩御』
キム・ニューマン
(創元推理文庫)
ストーカーによる不朽の名作『ドラキュラ』の続編というシリーズです。既にヘルシング教授は亡く、ドラキュラによって支配された英国では、多くの吸血鬼が暮しています。史実と虚構を混淆した作品で、巻末には登場人物事典が付せられています。
『〜紀元』では、マイクロフト・ホームズらが結成した調査機関ディオゲネス・クラブの諜報員ボウルガードが、吸血鬼の娼婦ばかりを狙った連続殺人事件の犯人《切り裂きジャック》を追います。レストレイドは吸血鬼となっていて、どうやらホームズは獄中死しているようです。
『〜戦記』では、英国で失脚したドラキュラが、ドイツを手中に収め、吸血鬼戦闘空挺団によるパリ空襲を決行しています。ディオゲネス・クラブの諜報員ウィンスロット、そして、ドイツ皇帝の指示を受けたエドガー・アラン・ポーが空挺団の本拠地を目指します。
『エキセントリック・ゲーム』
『ファントム・ルート』
『アサシン』
『スリーピング・ビューティー』
『ゲーム・オブ・チャンス』
真瀬もと
イラスト 山田睦月
(新書館 ウイングス文庫)
《シャーロキアン・クロニクル》シリーズです。政府転覆を企てる扇動者シャーロック・スコット・ホームズや、秘密機関《樽》を組織するマイクロフトや、ランデール・パイク、ジョン・H・ワトスン、アイリーン・アドラー、そして若きモリアーティ教授が登場しています。
作者のもとさんにうかがったところ、全12冊での完結となるそうです。もしそうなれば、日本では、もっとも巻数の多いホームズ・パロディシリーズとなるのではないでしょうか。
『わが愛しのワトスン』
マーガレット・P・ブリッジズ
(文藝春秋)
シャーロック・ホームズは、実はルーシーという女性だった! という大胆な設定による異色作品です。彼女が対峙するのは、かのモリアーティ教授の娘で、ワトスンを巡る争いが勃発します。
『わが愛しのホームズ』
ロヘイズ・ピアシー
(白泉社)
ワトスンの死後100年を過ぎて、ようやく公開されることになったある事件の記録。彼らが生きている以上、門外不出とすることを定められたこの手記には、明かすことの出来ない秘密が書かれていた。それは、ホームズに対するワトスンの隠された愛……。
『極秘捜査』と『最後の事件』の2編が収録され、坂田靖子のイラストが掲載されています。
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