(いわゆる「上尾市福祉会館事件」最判。なお太字は裁判所HP判例集表記のママ)
事件番号 平成5(オ)1285
事件名 国家賠償
裁判年月日 平成8年03月15日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
判例集巻・号・頁 第50巻3号549頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 平成5年03月30日
判示事項 何者かに殺害された労働組合幹部の合同葬に使用するためにされた市福祉会館の使用許可申請に対する不許可処分が違法とされた事例
裁判要旨 何者かに殺害されたJR関係労働組合の連合体の総務部長の合同葬に使用するためにされた市福祉会館の使用許可申請に対し、上尾市福祉会館設置及び管理条例(昭和四六年上尾市条例第二七号)六条一項一号が使用を許可しない事由として定める「会館の管理上支障があると認められるとき」に当たるとしてされた不許可処分は、右殺害事件についていわゆる内ゲバ事件ではないかとみて捜査が進められている旨の新聞報道があったとしても、右合同葬の際にまでその主催者と対立する者らの妨害による混乱が生ずるおそれがあるとは考え難い状況にあった上、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができない特別な事情があったとはいえず、右会館の施設の物的構造等に照らせば、右会館を合同葬に使用することがその設置目的やその確立した運営方針に反するとはいえないなど判示の事情の下においては、「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできず、違法というべきである。
参照法条 地方自治法244条,上尾市福祉会館設置及び管理条例(昭和46年上尾市条例第27号)6条1項,憲法21条1項
主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人水嶋晃、同奥川貴弥、同寺崎昭義、同町田正男の上告理由第一点及び第三点について
一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
1 上尾市福祉会館(以下「本件会館」という。)は、被上告人が市民の文化的向上と福祉の増進を図るために設けた施設であり、一階には、大ホール(客席一一六八席)のほか、展示場、食堂、ラウンジ及び会館事務室が、二階及び三階には、四つの披露宴室(会議室兼用)と結婚式場、写真室、着付室、結婚控室等の結婚式関係の施設が、四階には、談話室、料理教室等公民館関係の施設が、五階には、小ホール(客席一六六席)と四つの会議室が設けられており、右大ホールと二階以上の各施設とは出入口を異にしている。なお、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設はない。
2 本件会館の設置及び管理については、上尾市福祉会館設置及び管理条例(昭和四六年上尾市条例第二七号。以下「本件条例」という。)が定められており、本件条例五条によれば、本件会館を使用するについてはあらかじめ市長の許可を受けるべきものとされ、その許可要件を定める六条一項によれば、(1)会館の管理上支障があると認められるとき(一号)、(2)公共の福祉を阻害するおそれがあると認められるとき(二号)、(3)その他会館の設置目的に反すると認められるとき(三号)のいずれか一つに該当する場合は、市長は、会館の使用を許可しないものとされている。
3 被上告人は、本件条例に基づいて、本件会館の各施設を上尾市の住民に限らず、広く一般の利用に供していた。結婚式関係の施設については、年間約三〇〇組の利用客があった。被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、過去に特に功績のあった元市長の市民葬と県公園緑地協会副理事長の準市民葬に用いられたことがあったのを除き、本件会館は従来一般の葬儀のために使用されたことはなかった。
4 上告人は、いわゆるJR関係の労働者で組織する東日本旅客鉄道労働組合等の単位組合の連合体であるが、平成元年一二月二日に上告人の総務部長a(以下「a部長」という。)が帰宅途中に何者かに殺害される事件が発生したため、同人を追悼する合同葬(以下「本件合同葬」という。)を計画し、同月一六日、上尾市長に対し、本件合同葬の会場に使用する目的で、本件会館大ホールについて、平成二年二月一日、二日の両日(ただし、一日は準備のため)の使用許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。
5 本件申請に対し、その許否の専決権者である本件会館の館長b(以下「b館長」という。)は、本件合同葬のための本件会館の使用が、本件条例六条一項一号に規定する「会館の管理上支障があると認められるとき」に該当すると判断し、最終的には平成元年一二月二六日、本件申請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をしたが、その経緯は、次のとおりである。
(一) 上告人の総務財政局長c(以下「c局長」という。)は、平成元年一二月一六日に本件申請を行った際、b館長が不在のため応対にでた本件会館の職員に対し、本件合同葬が故人を追悼するための集会であるなどその内容を説明するとともに、a部長の殺害事件に関し、捜査当局が対立するセクトによるいわゆる内ゲバ事件ではないかとみて捜査を進めている旨報じている新聞記事があることを伝えた。
(二) b館長は、平成元年一二月一九日、c局長らに対し、「新聞に出ているような事柄での葬儀を執り行うことについては、本件会館を貸せない。」「合同葬は会館の使用にそぐわない。」などと述べて、本件会館の使用が本件条例六条一項一号に該当することを理由に、本件申請を許可することができない旨回答した。これに対し、c局長らは、納得せず、文書による回答を求めた。
(三) b館長は、平成元年一二月二二日、c局長らに対し、本件申請については、本件条例六条一項一号に該当するから許可することができない旨を記載した文書を手交した。これに対し、c局長らは、過去に主催した同様の合同葬において混乱が生じたことはなく、本件合同葬においてもそのような兆候はない上、自主警備や警察による警備によって混乱を予防排除することが可能であるなどと反論し、再検討を強く要請したため、b館長は、これを約束した。
(四) b館長は、平成元年一二月二五日、被上告人の助役らと協議した結果、本件合同葬のため本件会館の使用を許可した場合には、上告人に反対する者らが本件合同葬を妨害するなどして混乱が生ずることが懸念され、同会館内の結婚式場その他の施設の利用にも支障が生ずるとの結論に達し、市長の了解を得た上、翌二六日、c局長らに対し、右の理由を説明して、本件申請を不許可とする旨の最終的な判断を示した。
6 本件申請当時、平成二年二月一日及び二日の結婚式場等の使用申込みはなく、その後も申込みはなかった。また、本件合同葬は、同年一月二七日、日比谷公会堂に会場を移し各政党の国会議員も参列して行われたが、何らの妨害行為もなく終了した。
二 原審は、右の事実関係に基づき、次のように説示して、本件不許可処分が適法であると判断した。(1)本件申請当時、前記のような記事が新聞各紙に報じられていたのであるから、被上告人側において、本件合同葬の際にもa部長を殺害した者らによる妨害が行われて混乱が生ずるかもしれないと危ぐすることが根拠のないものであったとはいえない。(2)本件合同葬を大ホールで行う場合には、そのための案内や多数の葬儀参加者の出入りが他の利用客の目に触れることは避けられないから、本件会館で同時期に結婚式等を行うことは事実上困離である。(3)本件合同葬について警備が行われる場合には、その他の施設の利用客に多少の不安が生ずることも否めない。(4)被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、前記の元市長の市民葬等を除き、本件会館が従来一般の葬儀のために使用されたことはなく、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設もない。(5)以上の各事実を合わせ考えれば、本件会館内の施設のそれぞれについて設置目的に従った有効な利用を確保すべき責務のあるb館長が、本件合同葬のために大ホールを使用することが本件会館の管理に支障を生ずると認めたことには、相当の理由がある。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 本件会館は、地方自治法二四四条にいう公の施設に当たるから、被上告人は、正当な理由がない限り、これを利用することを拒んではならず(同条二項)、また、その利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条三項)。本件条例は、同法二四四条の二第一項に基づき、公の施設である本件会館の設置及び管理について定めるものであり、本件条例六条一項各号は、その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものであると解される。
そして、同法二四四条に定める普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のような集会の用に供する施設が設けられている場合、住民等は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれがある。したがって、集会の用に供される公の施設の管理者は、当該公の施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきである。
以上のような観点からすると、本件条例六条一項一号は、「会館の管理上支障があると認められるとき」を本件会館の使用を許可しない事由として規定しているが、右規定は、会館の管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて、本件会館の使用を許可しないことができることを定めたものと解すべきである。
2 以上を前提として、本件不許可処分の適否について判断する。
(一) 本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、上告人に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずると懸念されることを一つの理由としてされたものであるというのである。しかしながら、前記の事実関係によれば、b館長が前記の新聞報道によりa部長の殺害事件がいわゆる内ゲバにより引き起こされた可能性が高いと考えることにはやむを得ない面があったとしても、そのこと以上に本件合同葬の際にまで上告人に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずるおそれがあるとは考え難い状況にあったものといわざるを得ない。また、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、前示のような公の施設の利用関係の性質に照らせば、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られるものというべきである。ところが、前記の事実関係によっては、右のような特別な事情があるということはできない。なお、警察の警備等によりその他の施設の利用客に多少の不安が生ずることが会館の管理上支障が生ずるとの事態に当たるものでないことはいうまでもない。
(二) 次に、本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、同時期に結婚式を行うことが困難となり、結婚式場等の施設利用に支障が生ずることを一つの理由としてされたものであるというのである。ところで、本件会館のような公の施設の供用に当たって、当該施設の設置目的を専ら結婚式等の祝儀のための利用に限るとか、結婚式等の祝儀のための利用を葬儀等の不祝儀を含むその他の利用に優先して認めるといった運営方針を定めることは、それ自体必ずしも不合理なものとはいえないものというべきところ、被上告人は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、一部の例を除き、本件会館は従来一般の葬儀のために使用されたことはなかったというのである。しかし、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設は設けられていないものの、結婚式関係の施設のほか、多目的に利用が可能な大小ホールを始めとする各種の施設が設けられている上、一階の大ホールと二階以上にあるその他の施設は出入口を異にしていること、葬儀と結婚式が同日に行われるのでなければ、施設が葬儀の用にも供されることを結婚式等の利用者が嫌悪するとは必ずしも思われないこと(現に、市民葬及び準市民葬が行われたことがある。)をも併せ考えれば、故人を追悼するための集会である本件合同葬については、それを行うために本件会館を使用することがその設置目的に反するとまでいうことはできない。そして、前記の事実関係によっても、本件会館について、結婚式等の祝儀のための利用を葬儀等の不祝儀を含むその他のための利用に優先して認めるといった確固たる運営方針が確立され、そのために、利用予定日の直前まで不祝儀等のための利用の許否を決しないなどの運用がなされていたとのことはうかがえない上、上告人らの利用予定日の一箇月余り前である本件不許可処分の時点では、結婚式のための使用申込みはなく、現にその後もなかったというのである。
以上によれば、本件事実関係の下においては、本件不許可処分時において、本件合同葬のための本件会館の使用によって、本件条例六条一項一号に定める「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできないから、本件不許可処分は、本件条例の解釈適用を誤った違法なものというべきである。
四 そうすると、以上に判示したところと異なる見解に立って、本件不許可処分が適法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決はこの点において破棄を免れない。そして、本件については、上告人の主張する本件不許可処分に基づく損害の有無、その額等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すのが相当である。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 根 岸 重 治
裁判官 大 西 勝 也
裁判官 河 合 伸 一
裁判官 福 田 博