(いわゆる「『落日燃ゆ』謝罪広告等請求事件」東京高判。なお太字は当HP作者による。)
 
事件番号 昭和52(ネ)1829
事件名 謝罪広告等請求控訴事件
裁判年月日 昭和54年3月14日
法廷名 東京高等裁判所 第15民事部
裁判種別 判決
結果 棄却
 
原審裁判所名 東京地方裁判所
原審事件番号 昭和50(ワ)7430
原審裁判年月日 昭和52年7月19日
 
参照条文 民法709条・710条・711条・723条
(掲載 判例時報918号)
 
主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 
 
事   実
 控訴代理人は、
「1 原判決を取り消す
2 被控訴人は、その費用をもって、控訴人のために、別紙掲載の内容の謝罪広告を、見出しと記名宛名は14ポイント活字をもって、本文その他の部分は8ポイント活字をもって、株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞、株式会社日本経済新聞社(東京本社)発行の日本経済新聞の各朝刊全国版社会面に、三日間継続して掲載せよ。
3 被控訴人は、控訴人に対し、金100万円及びこれに対する昭和50年9月12日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決並びに右三項につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
 原判決5枚目表1行目の「昭和」を「大正」に改め、同8枚目表10行目の「数年」を削除し、同9枚目裏5行目の「相当因果」の次に「関係」を加え、同10行目の「関係」を「身分関係のあるもの」に改める。
(控訴代理人の陳述)
 故意又は過失により死者の名誉を毀損した場合においても、行為者において当該行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出たもので、その事実が真実であることを証明しないかぎり、不法行為が成立するものと解すべきである。死者の名誉毀損であるからといって、虚偽虚妄をもって名誉が毀損された場合にかぎり違法行為となると解するのは相当でない。(証拠関係省略)
 
理   由
 当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべきであると考える。その理由は、次に付加、訂正するほか原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。
 原判決12枚目表3行目、同19枚目表7行目の各「原告」をいずれも「原審及び当審における控訴人」に改める。
 同12枚目表5行目の「三男」を「五男」に改め、同13枚目裏3行目から同14枚目表10行目までを削除する。
 同14枚目裏1行目の「乙第4号証」の前に「甲第17号証」を、同行目の「証人日高信六郎」の次に「当審証人塩崎観三」を、同7行目の「12月」の前に「大正元年」を各挿入する。
 同16枚目表冒頭に「また、」を加え、同3行目の「弁論の全趣旨」を「当審証人塩崎観三の証言」に、同8行目の「及び被告」を「弁論の全趣旨により成立を認める乙第13ないし第15号証、当審証人萩原忠三の証言、原審及び当審における被控訴人」に各改める。
 同17枚目表2行目の「広田の」の次に「オランダ公使時代の」を、同18枚目裏4行目の「人妻」の次に「(外交官夫人と報じたものもあった)」をそれぞれ挿入し、同8行目の「噂を聞いたことはあるが、」を「噂があったかもしれないが、」に改め、同末行の「原告自身」から同19枚目表1行目の「同証人は」までを削除する。
 同19枚目表8行目の「信用できず、」から同裏6行目までを次のとおり改める。「信用できない。なお、佐分利貞男は、原審の認定を引用したように外務省の要職を歴任しただけでなく、大正7年5月には東宮御学問所御用掛に任命されているし、また成立に争いのない甲第16号証によれば、貞男の妻文子も大正7年6月と大正14年1月にそれぞれ皇后宮職御用掛に任命されていることが認められるところ、控訴人は、これらの事実、特に佐分利夫妻が右の宮内省の要職に任命された事実に徴しても本件文章中佐分利貞男に関する部分が虚偽であることは明らかであると主張するもののようであるが、右の事実からただちに控訴人の右主張のように断言できるものでもなく、他に本件文章中佐分利貞男に関する部分が虚偽であることを認めるに足りる的確な証拠はない。
 以上認定したところに基づき本訴請求の当否につき検討する。
 まず死者の名誉ないし人格権についてであるが、刑法230条2項及び著作権法60条はこれを肯定し、法律上保護すべきものとしていることは明らかである。右のほか、一般私法に関しては直接の規定はないが、特に右と異る考え方をすべき理由は見出せないから、この分野においても、法律上保護されるべき権利ないし利益として、その侵害行為につき不法行為成立の可能性を肯定すべきである。しかし、この場合何人が民事上の請求権を行使しうるかについてはなんらの規定がなく、この点につき著作権法116条あるいは刑事訴訟法233条1項を類推してその行使者を定めるとすることもたやすく肯認し難い。結局その権利の行使につき実定法上の根拠を欠くというほかはない。
 ただ本訴は、死者に対する名誉毀損行為により控訴人自らが著しい精神的苦痛を蒙ったとして、控訴人に対する不法行為を主張するものと解されるのであるから、前記のような請求権者の問題はない。そして故人に対する遺族の敬愛追慕の情も一種の人格的法益としてこれを保護すべきものであるから、これを違法に侵害する行為は不法行為をを構成するものといえよう。もっとも、死者に対する遺族の敬愛追慕の情は死の直後に最も強く、その後時の経過とともに軽減して行くものであることも一般に認めうるところであり、他面死者に関する事実も時の経過とともにいわば歴史的事実へと移行して行くものということができるので、年月を経るに従い、歴史的事実探求の自由あるいは表現の自由への配慮が優位に立つに至ると考えるべきである。
 本件のような場合、行為の違法性の判断にあたり考慮されるべき事項は必ずしも単純ではなく、被侵害法益と侵害行為の両面からその態様を較量してこれを決せざるを得ないが、その判断にあたっては、当然に時の経過に伴う前判示の事情を斟酌すべきである。
 ところで佐分利貞男は昭和4年11月29日に死亡しているところ、本件文章はその死後44年余を経た昭和49年1月に発表されたものである。かような年月の経過のある場合、右行為の違法性を肯定するためには、右説示に照らし、少なくとも摘示された事実が虚偽であることを要するものと解すべく、かつその事実が重大で、その時間的経過にかかわらず、控訴人の故人に対する敬愛追慕の情を受忍し難い程度に害したといいうる場合に不法行為の成立を肯定すべきものとするのが相当である。
 しかして、前認定によれば、本件文章に記載された問題の個所が虚偽の事実と認めることはできないから被控訴人の行為について違法性はなく、控訴人主張の不法行為の成立を認めることはできない。」
 よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。
 
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官   安  岡  満  彦
裁判官   内  藤  正  久
裁判官   堂  薗  守  正
 
 
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