(※いわゆる「軽犯罪法ビラ貼り事件」最判)
事件番号 昭和42(あ)1626
事件名 軽犯罪法違反等被告事件
裁判年月日 昭和45年06月17日
法廷名 最高裁判所大法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第24巻6号280頁
原審裁判所名 名古屋高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日
判示事項 軽犯罪法一条三三号前段と憲法二一条一項
裁判要旨 軽犯罪法一条三三号前段は、憲法二一条一項に違反しない。
参照法条 軽犯罪法1条33号前段,憲法21条1項,憲法31条
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
弁護人桜井紀(名義)、同大矢和徳、同前島(現原山)剛三の上告趣意について。
第一審判決によれば、その確定した罪となるべき事実は、被告人両名は共謀のうえ、いずれも県道上に敷設された、A電力株式会社の所有にかかりB興業株式会社一宮営業所長の管理する稲沢幹線六一号電柱ほか一〇本、および日本電信電話公社の所有にかかりC共済会東海支部電柱広告課長の管理する電柱一二本、ならびにD農業協同組合組合長の管理する電柱一四本に、それぞれ電柱の所有者または管理者の承諾を得ず、正当な事由がないのに、「第一〇回原水爆禁止世界大会を成功させよう、愛知原水協」などと印刷したビラ(縦五四センチメートル、横一九・五センチメートルの紙)合計八四枚を、糊を使用して裏面が全面的に密着する方法ではりつけたというのであり、右所為に対し刑法六〇条、軽犯罪法一条三三号前段等を適用し、被告人両名を各拘留一〇日に処しているのである。
論旨は、まず、原判決は、軽犯罪法一条三三号前段は、結局公共の福祉を保持することを目的とするものであるから、右法条が憲法二一条一項に違反するものということはできない旨判断しているが、軽犯罪法の右法条をこのように解釈すべきものとすれば、国民の表現の自由の正当な行使であり、かつ、労働者の正当な権利の行使である本件のごときビラはり行為も一律に禁止されることになるから、右法条は憲法二一条一項に違反すると主張する。
よつて、右論旨を検討すると、軽犯罪法一条三三号前段は、主として他人の家屋その他の工作物に関する財産権、管理権を保護するために、みだりにこれらの物にはり札をする行為を規制の対象としているものと解すべきところ、たとい思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは、もとより許されないところであるといわなければならない。したがつて、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限であつて、右法条を憲法二一条一項に違反するものということはできず(当裁判所昭和二四年(れ)第二五九一号同二五年九月二七日大法廷判決、刑集四巻九号一七九九頁、同二八年(あ)第三一四七号同三〇年四月六日大法廷判決、刑集九巻四号八一九頁参照)、右と同趣旨に出た原判決の判断は正当であつて、論旨は理由がない。
次に、論旨は、軽犯罪法一条三三号前段は憲法三一条に違反すると主張するが、右法条にいう「みだりに」とは、他人の家屋その他の工作物にはり札をするにつき、社会通念上正当な理由があると認められない場合を指称するものと解するのが相当であつて、所論のように、その文言があいまいであるとか、犯罪の構成要件が明確でないとは認められないから、所論違憲の主張は、その前提を欠き、採用することができない。
その余の論旨は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
昭和四五年六月一七日
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 石 田 和 外
裁判官 入 江 俊 郎
裁判官 草 鹿 浅 之 介
裁判官 長 部 謹 吾
裁判官 城 戸 芳 彦
裁判官 田 中 二 郎
裁判官 松 田 二 郎
裁判官 岩 田 誠
裁判官 下 村 三 郎
裁判官 色 川 幸 太 郎
裁判官 大 隅 健 一 郎
裁判官 松 本 正 雄
裁判官 飯 村 義 美
裁判官 村 上 朝 一
裁判官 関 根 小 郷