最 高 裁 判 所 判 例 集 判 決 全 文 表 示


S31.07.18 大法廷・判決 昭和25(オ)206 国籍不存在確認請求


判例 S31.07.18 大法廷・判決 昭和25(オ)206 国籍不存在確認請求(第10巻7号890頁)

判示事項:
  旧国籍法第七条第二項第五号に違反する帰化許可の効力。

要旨:
  内務大臣が認定を誤り旧国籍法第七条第二項第五号に反して帰化を許可しても、その許可は無効ではない。

参照法条:
  旧国籍法(明治33年法律66号)7条

内容:
 件名  国籍不存在確認請求 (最高裁判所 昭和25(オ)206 大法廷・判決 破棄差戻)
 原審  東京高等裁判所


主    文

     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差戻す。
         
理    由

 上告人指定代理人石井良三、同堀内恒雄の上告理由について。
 記録によれば、被上告人の本訴請求の要旨は、被上告人は明治三九年三月一日岡山市において英国人Aの長男として生れ英国籍を取得し爾来引続き日本に居住するうち、昭和一六年一二月八日太平洋戦争の勃発に遇い、その本国である英国と日本とが戦争状態にあつた同一七年五月頃、内務大臣に対し帰化の申請をなし、その翌一八年二月六日これが許可を与えられたものであるが、この許可処分は原判決事実摘示掲記の(一)の(イ)乃至(ホ)の五事由により法律上無効であり被上告人は形式上許可処分あるに拘わらず日本国籍を取得しなかつたのであるから、その日本国籍を有しないことの確認を求めるというのであつて、これに対し原判決は「本件帰化申請並にその許可処分のあつた当時施行されていた国籍法(明治三二年法律六六号、以下旧国籍法という。)七条二項五号の規定によれば、帰化の申請を許可せんとするには、その申請人が無国籍者であるか又は日本の国籍を取得することに因つて自動的に従来そのものの有した外国籍を失うべきことを、必須の条件としている。それは旧国籍法を貫く二重国籍禁止の精神に基ずくものであつて、この条件の充足は帰化申請に対する許可処分の有効要件をなすものと解するのを相当とする。従つてかゝる条件を具備しないものの帰化申請を許容しても、かゝる許可処分はその有効要件を欠き法律上当然無効といわざるを得ない。然るに英国においては判例法上戦時中英国人が敵国に帰化しても英国籍を失わないものとせられているのであるから、太平洋戦争中になされた本件帰化の許可処分は、被上告人をして英国籍を喪失せしめることなく、従つて前示旧国籍法七条二項五号の要請するその有効要件を欠缺することゝなり法律上当然無効たるに帰着し、被上告人は結局日本国籍を取得し得なかつたものである」旨判示して、被上告人の本訴請求を認容したのである。
 しかし、旧国籍法七条一項によれば、「外国人ハ内務大臣ノ許可ヲ得テ帰化ヲ為スコトヲ得」たのであり、同条二項の規定はこの内務大臣のなすべき許可処分につき通常の場合における帰化の条件を定めているのである。すなわち内務大巨は法律に別段の定めのない限り(同法八条、九条、一〇条、一一条、一四条等参照)同条項一号乃至五号所定の条件を具備するか否かを審査し、その条件を具備すると認めた者に対してのみその帰化を許可すべきものであることはその法文に照らして明白である。しかしながら、一旦内務大臣がかゝる条件を具備するものと認定してその帰化申請を許可した以上、仮りにその認定に過誤があり、客観的には該条件を具備しない申請人に対して帰化を許したことゝなるような場合においても、かゝる瑕疵を理由として取消の問題を生ずるか否かは格別少くともその許可処分を目して法律上当然無効となすべきいわれはない。けだし国家機関の公法的行為(行政処分)はそれが当該国家機関の権限に属する処分としての外観的形式を具有する限り、仮りにその処分に関し違法の点があつたとしても、その違法が重大且つ明白である場合の外は、これを法律上当然無効となすべきではないのであり、そして前示認定上の過誤の如きものが、こゝにいわゆる重大且つ明白なる違法といゝ得ないこと勿論だからである。(まして仮りに認定上の過誤ありとしても外国判例法上の解釈問題を包含する本件許可処分については、これを当然無効たらしむべき明白な違法ありとなし得ないこと一層明白であろう。)旧国籍法七条二項五号の規定が二重国籍の関係の発生を抑制せんとする法意に出でたものであることは多言を要しないところであるけれど、同法は必ずしも二重国籍の成立を絶対的に排除していないことは同法一一条の規定の存することによつても窺い得るのであるから、二重国籍関係の発生を理由として、法文上単に併列的に掲記されているに過ぎない一号乃至五号所定の条件中特に五号掲記の条件のみを捉えてこれを許可処分の有効要件と解することはできない。
 それ故原審が前説示のような見地に立つて、たやすく被上告人の請求を認容したことは違法であり、原判決は全部破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて民訴四〇七条一項に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官田中耕太郎、同栗山茂、同小谷勝重、同斎藤悠輔、同谷村唯一郎、同本村善太郎の少数意見がある外その余の裁判官全員一致の意見である。
 裁判官田中耕太郎、同栗山茂、同小谷勝重、同斎藤悠輔、同谷村唯一郎、同本村善太郎の少数意見は次のとおりである。
 帰化の申請を許可せんとするには、旧国籍法七条二項五号の規定により、その申請人が無国籍者であるか又は日本の国籍を取得することに因つて自動的に従来その者の有した外国籍を失うべきことを許可処分の有効要件と解するを相当とする旨、竝びに、本件では控訴人は原判示のごとく英国籍を失うものではなく、従つて、右の有効要件を欠き帰化の許可は当然無効である旨の原判決の判示は正当であると考える。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
 裁判官藤田八郎は出張につき、署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎



裁判集の裁判書画像データ