2008年12月15日「北九州ココロ裁判」福岡高裁判決
【判決要旨】
事件番号 平成17年(行コ)第13号戒告処分取消請求控訴事件
判決言い渡し日 平成20年12月15日
当事者(1)一審原告 Aほか15名
(2)1審被告 北九州市教育委員会ほか12名
同訴訟代理人弁護士 河原一雄ほか1名
同指定代理人弁護士 桑山裕司ほか3名
裁判所 福岡高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 丸山昌一
裁判官 川野雅樹
裁判官 中園浩一郎
判決主文
1 一審被告北九州市教育委員会の控訴に基づき、原判決中同一審被告部分を取り消す。
2 一審原告A、同B及びCの一審被告北九州市教育委員会に対する請求をいずれも棄却する。
3 一審被告原告らの本件控訴をいずれも棄却する。
4 一審原告Dの当審における一審被告北九州市教育委員会に対する訴えを却下し、同北九州市に対する請求を棄却する。
5 一審原告E及び同北九州がっこうユニオン・ういの当審に対する請求をいずれも棄却する。
【要旨】
1 君が代は、国旗国歌法の制定前においても、国歌としての地位にあったものであり、君が代を国歌とすることが憲法前文、1条に違反するとはいえない。[原判決引用部分]
2 平成元年3月、文部省告示第24号、告示第25号により改正された「小学校学習指導要領」、「中学校学習指導要領」のうち、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」旨を定めた条項(国旗国歌条項)は、法規としての性質を有する学習指導要領の一部をなすものであるうえ、同条項の趣旨及び規定内容等に照らして、普通教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的な大綱的基準を定めたものと解することができるから、法的拘束力を有する。
3 一審被告北九州市教育委員会(一審被告教育委員会)の4点指導は、その目的は合理的なものであり、その内容についても、国旗国歌条項の趣旨、儀式的行事において参列者に要請される態度等に照らすと、相応なものということができるし、その内容以外の点については、各学校の自主的な判断に委ねられていたから、国旗国歌条項の趣旨及び内容を逸脱するものとは解されない。一審被告教育委員会が平成11年ころにかけて行った各校長に対する指導などは、当時の入学式及び卒業式の状況に照らすと、その必要があったものであり、学習指導要領の国旗国歌条項の趣旨に沿ったものであるから、不当、不合理なものとはいえない。
したがって、一審被告教育委員会の通知及び指導等をもって、教育基本法(平成18年法律第120号による改正前のもの)10条1項にいう「不当な支配」ということはできない。
4 各校長が北九州市立の小中養護学校の教職員に対し入学式や卒業式において君が代斉唱の際に起立してこれを斉唱するよう命じた職務命令(本件職務命令)は、君が代が過去の我が国において果たした役割に係わる教職員の歴史観ないし世界観自体を直ちに否定するものとは認められないこと、入学式や卒業式に参列者が起立して君が代を斉唱するという行為それ自体は公立の小中養護学校の教職員にとって、通常想定されるものであって、当該教職員が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難であり、特に職務上の命令等や上司の職務上の命令に従わなければならない立場にあり、本件職務命令は学習指導要領の国旗国歌条項の趣旨に適うものであり、その目的及び内容において不合理であるということはできないから、本件職務命令は憲法19条に違反するということはできない。また、本件職務命令は同様の理由により、20条1項・2項に違反するということはできない。そして、各校長は、本件職務命令をその裁量に基づいて決定したものであるから、本件職務命令を違法・無効ということはできない。
5 懲戒処分の相当性について
(1)個人一審原告らは、小中養護学校の入学式や卒業式という児童、生徒、保護者、来賓等が多く参列している行事の場において、本件職務命令に違反し、国歌斉唱の際に不起立行為を行ったものであり、厳粛かつ清新な雰囲気の中で行われるべき儀式的行事の雰囲気を乱し、保護者、来賓等に対し、学校の運営についての不安や学校教育に対する不信感を抱かせ、儀式的行事の円滑な進行に対する妨げとなるおそれを生じさせたものであるから、不起立行為によって式の進行が積極的に妨害されたことがなかったことを考慮しても、個人一審原告らの不起立行為は、本件職務命令に違反するとともに、公務員の職に対する信用を傷つける行為に当たるものであり、地方公務員法32条及び33条に違反し、同法(平成11年法律107号による改正以前のもの)29条1項1号及び3号に該当する、したがって、個人一審原告らの不起立行為に対し懲戒処分をもって臨むことが不相当であるとはいえない。
(2)戒告処分については、関係個人一審原告らは、同種の職務命令違反を繰り返し、既に厳重注意、文書訓告を受けたことがあること、戒告は地方公務員法上の処分として最も軽い処分であることを考慮すると、裁量権の範囲を逸脱、濫用したものということはできない。
(3)減給処分については、関係個人一審原告らは、同種の職務命令違反を繰り返し、既に厳重注意、文書訓告を受け、さらに、複数回にわたり戒告処分を受けたことがあることなどを考慮すると、社会観念上著しく妥当性を欠くものとまでは言い難く、裁量権の範囲を逸脱、濫用したものということはできない。
6 個人一審原告らに対する本件職務命令、戒告処分、減給処分、指導は適法であり、違法なものということはできないから、個人一審原告らの損害賠償請求は理由がない。(原判決引用部分・一部修正)
(*この「判決要旨」は福岡高裁が作成したものです。)