(※太字は当方による)
事件番号 平成16(行コ)15
事件名 時間外勤務手当等
裁判年月日 平成19年09月27日
裁判所名・部 札幌高等裁判所 第3民事部
結果 棄却
原審裁判所名 札幌地方裁判所
原審事件番号 平成14(行ウ)26
原審結果 棄却
判示事項の要旨 公立学校の教育職員であった控訴人らが,時間外勤務及び休日勤務を行ったとして,時間外勤務等手当及び休日勤務手当の支払いを求めたが,公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置条例3条3項の規定が適用されることを理由にその請求が棄却された事例
主 文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人らが当審で追加した予備的請求をいずれも棄却する。
3 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 別紙被控訴人目録記載の各被控訴人は,それぞれ対応する各控訴人に対し,原判決別紙請求債権目録の各控訴人の合計額欄記載の金員及びこれに対する平成14年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
本件は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,道内の公立学校の教育職員であった控訴人らが,時間外勤務及び休日勤務(以下,時間外勤務と休日勤務を合わせて「時間外勤務等」という。)を行ったとして,時間外勤務手当及び休日勤務手当(以下,時間外勤務手当と休日勤務手当を合わせて「時間外勤務等手当」という。)の支払を求めて提訴した事案である。原審が控訴人らの請求を棄却したところ,控訴人らはこれを不服として本件控訴を提起し,当審において,予備的請求として,不当利得返還請求(予備的請求@)及び債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求(予備的請求A)を追加した。
いわゆる市町村合併に伴い訴訟承継が生じたが,以下において「被控訴人」と表記する場合は,訴訟被承継人を含むものとする。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 各控訴人(ただし,控訴人番号904及び905の各控訴人を除く。)は,各被控訴人が設置した北海道内の公立の義務教育諸学校等に勤務する教員ないし養護教員たる教育職員であり,平成14年条例第37号による改正前の北海道学校職員の給与に関する条例(昭和27年北海道条例第78号。以下「給与条例」という。)2条1号に規定する「学校職員」又は平成17年条例第86号による改正前の市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の給与に関する条例(昭和27年北海道条例第79号。以下「市町村立学校職員給与条例」という。)1条の2第1号に規定する「学校職員」に該当するとともに,平成16年条例第66号による改正前の公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置条例(昭和46年北海道条例第61号。以下「給特条例」という。)1条に定める「道立の義務教育諸学校等の教育職員及び市町村立の義務教育諸学校等の教育職員(市町村立学校職員給与負担法(昭和23年法律第135号)第1条及び第2条に規定する者に限る。)」に該当する者である。
控訴人番号904及び905の各控訴人は,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)37条にいうところの県費負担教育職員に該当しないことから,その給与,勤務時間その他の勤務条件については,平成15年法律第104号による改正前の地方公務員法(以下「地公法」という。)24条6項に基づいて定められた函館市立高等学校及び幼稚園教育職員の給与,勤務時間その他の勤務条件に関する条例(昭和39年函館市条例第17号)の定めによることとなる。その上で,同条例においては,給与条例及び給特条例の各規定を準用している。(弁論の全趣旨)各控訴人は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,別紙控訴人目録の控訴人欄のかっこ内に記載した学校に勤務していた。また,各控訴人は,上記の期間中,別表のとおり訂正するほか,原判決別紙「時間外・休日勤務の内訳表」記載のとおり教科,学級担任,校務分掌及び部活動を担当した。(甲421の2,484の2,940の2,弁論の全趣旨)
(2) 各被控訴人は,別紙被控訴人目録の被控訴人欄のかっこ内に記載した控訴人番号に対応する各控訴人の所属する各公立学校の設置者である。
2 法令の定め
(1) 勤務時間等について
ア 地教行法
(教育機関の職員)
第31条 前条に規定する学校に,法律で定めるところにより,学長,校長,園長,教員,事務職員,技術職員その他の所要の職員を置く。
(第2項及び第3項省略)
(職員の身分取扱)
第35条 第31条第1項又は第2項に規定する職員の任免,給与,懲戒,服務その他の身分取扱に関する事項は,この法律及び他の法律に特別の定がある場合を除き,地方公務員法の定めるところによる。
イ 地公法
(給与,勤務時間その他の勤務条件の根本基準)
第24条 (第1項ないし第5項省略)
E 職員の給与,勤務時間その他の勤務条件は,条例で定める。
ウ 平成17年条例第19号による改正前の北海道学校職員の勤務時間,休暇等に関する条例(平成10年北海道条例第21号。以下「勤務時間等条例」という。)
(1週間の勤務時間)
第3条 学校職員の勤務時間は,休憩時間を除き,4週間を超えない期間につき1週間当たり40時間とする。
(第2項及び第3項省略)
(週休日及び勤務時間の割振り)
第4条 日曜日及び土曜日は,週休日(勤務時間を割り振らない日をいう。以下同じ。)とする。(以下省略)
A 教育委員会は,月曜日から金曜日までの5日間において,1日につき8時間の勤務時間を割り振るものとする。(以下省略)
(2) 時間外勤務等,時間外勤務等手当について
ア 給与条例
(時間外勤務手当)
第14条 正規の勤務時間外に勤務することを命ぜられた学校職員には,正規の勤務時間外に勤務した全時間に対して,勤務1時間につき,第18条に規定する勤務1時間当たりの給与額に正規の勤務時間外にした次に掲げる勤務の区分に応じてそれぞれ100分の125から100分の150までの範囲内で人事委員会規則で定める割合(その勤務が午後10時から翌日の午前5時までの間である場合は,その割合に100分の25を加算した割合)を乗じて得た額に相当する金額を時間外勤務手当として支給する。
(1) 正規の勤務時間が割り振られた日(次条の規定により正規の勤務時間中に勤務した学校職員に休日勤務手当が支給されることとなる日を除く。次項において同じ。)における勤務
(2) 前号に掲げる勤務以外の勤務
(第2項及び第3項省略)
(休日勤務手当)
第15条 祝日法による休日等(勤務時間等条例第4条第1項又は第5条の規定に基づき毎日曜日を週休日と定められている学校職員以外の学校職員にあっては,勤務時間等条例第10条に規定する祝日法による休日が勤務時間等条例第5条及び第6条の規定に基づく週休日に当たるときは,人事委員会規則で定める日)及び年末年始の休日等において,正規の勤務時間中に勤務することを命ぜられた学校職員には,正規の勤務時間中に勤務した全時間に対して,勤務1時間につき,第18条に規定する勤務1時間当たりの給与額に100分の125から100分の150までの範囲内で人事委員会規則で定める割合を乗じて得た額に相当する金額を休日勤務手当として支給する。これらの日に準ずるものとして人事委員会規則で定める日において勤務した学校職員についても,同様とする。
イ 市町村立学校職員給与条例
(給与)
第2条 給料表は,中学校及び小学校の教育職員については別表の教育職給料表とし,学校栄養職員については北海道学校職員の給与に関する条例(昭和27年北海道条例第78号。以下「給与条例」という。)附則第5項において定めのあることとされる医療職給料表を,事務職員については給与条例別表第1の行政職給料表を,高等学校及び養護学校の教育職員については給与条例別表第2アの教育職給料表(1)を準用するものとし,各給料表の適用範囲は,それぞれ当該給料表に定めるところによる。
A 前項に定めるもののほか,学校職員の給与については,給与条例及び北海道学校職員の給与の臨時措置に関する条例(昭和51年北海道条例第51号<かっこ内以下省略>)の規定を準用する。(以下省略)
ウ 平成15年法律第117号による改正前の国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「給特法」という。)
(国立の義務教育諸学校等の教育職員の教職調整額の支給等)
第3条 国立の義務教育諸学校等の教育職員(かっこ内省略)のうちその属する職務の級がこれらの俸給表の1級または2級である者には,その者の俸給月額の100分の4に相当する額の教職調整額を支給する。
(第2項以下省略)
(国立の義務教育諸学校等の教育職員の正規の勤務時間を超える勤務等)
第7条 国立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間(かっこ内省略)を超えて勤務させる場合は,文部科学大臣が人事院と協議して定める場合に限るものとする。この場合においては,教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない。
A 次に掲げる日において前項の教育職員を正規の勤務時間中に勤務させる場合も,同項と同様とする。
(1) 勤務時間法第14条に規定する祝日法による休日及び年末年始の休日
(2) 給与法第17条の規定により休日給が一般の職員に対して支給される日(前号に掲げる日を除く。)
(公立の義務教育諸学校等の教職員の教職調整額の支給等)
第8条 公立の義務教育諸学校等の教育職員については,第3条及び第4条に規定する国立の義務教育諸学校等の教育職員の給与に関する事項を基準として教職調整額の支給その他の措置を講じなければならない。
(公立の義務教育諸学校等の教育職員に関する読替え)
第10条 公立の義務教育諸学校等の教育職員については,地方公務員法第58条第3項本文中(省略),「第32条の5まで」とあるのは「第32条の5まで,第37条」と,(省略)読み替えて同項の規定を適用するものとする。
(公立の義務教育諸学校等の教育職員の正規の勤務時間を超える勤務等)
第11条 公立の義務教育諸学校等の教育職員(管理職手当を受ける者を除く。)を正規の勤務時間(かっこ内省略)を超えて勤務させる場合は,国立の義務教育諸学校等の教育職員について定められた例を基準として条例で定める場合に限るものとする。次に掲げる日において当該教育職員を正規の勤務時間中に勤務させる場合も,同様とする。
(1) 勤務時間法第14条に規定する祝日法による休日及び年末年始の休日に相当する日
(2) 給与法第17条の規定に相当する条例の規定により休日勤務手当が一般の職員に対して支給される日(前号に掲げる日を除く。)
エ 地公法
(他の法律の適用除外)
第58条(第1項及び第2項省略)
B 労働基準法第2条,第24条第1項,第32条の3から第32条の5まで(省略)の規定(省略)並びにこれらの規定に基づく命令の規定は,職員に関して適用しない。(以下省略)
オ 給特条例
(義務教育諸学校等の教育職員の教職調整額の支給等)
第3条 義務教育諸学校等の教育職員のうちその属する職務の級が北海道学校職員の給与に関する条例(かっこ内省略)別表第2の教育職給料表又は市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の給与に関する条例(かっこ内省略)別表の教育職給料表の1級又は2 級である者には,その者の給料月額の100分の4に相当する額の教職調整額を支給する。
(第2項省略)
B 義務教育諸学校等の教育職員(管理職手当を受ける者を除く。第7項において同じ。)については,給与条例第14条及び第15条の規定(これらの規定を市町村立学校職員給与条例第2条第2項において準用する場合を含む。)は,適用しない。
(義務教育諸学校等の教育職員の正規の勤務時間を超える勤務等)
第7条 義務教育諸学校等の教育職員については,原則として正規の勤務時間(かっこ内省略)を超える勤務及び次に掲げる日における正規の勤務時間中の勤務(以下これらを「勤務時間外勤務」という。)は,命じないものとする。
(以下省略)
A 義務教育諸学校等の教育職員に対し勤務時間外勤務を命ずる場合は,次に掲げる義務に従事する場合で臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限るものとする。
(1) 生徒の実習に関する業務
(2) 学校行事に関する業務
(3) 教職員会議に関する業務
(4) 非常災害に関する業務
3 当事者の主張
(主位的請求)
(1) 控訴人ら
ア 公立学校の教育職員の時間外勤務等手当請求権の有無
(ア) 給与条例及び市町村立学校職員給与条例によれば,控訴人ら教育職員については,その時間外勤務等について,それぞれ時間外勤務等手当を支給する旨定められているところ(給与条例14条,15条,市町村立学校職員給与条例2条2項による給与条例の準用。),給特法8条ないし11条に基づいて制定された給特条例3条3項においては,教育職員(管理職手当を受ける者を除く。)について,給与条例14条及び15条の規定(これらの規定を市町村立学校職員給与条例2条2項において準用する場合を含む。以下同じ。)の適用を排除している。
これを文理解釈すれば,控訴人らは,どんなに時間外勤務等をしても給特条例3条1項に規定する給料月額の100分の4に相当する額の教職調整額の支払しか受けられないことになり,同調整額の支払によって無定量の時間外勤務等を義務づけられることになってしまう。その一方で,給特条例は,7条1項で教育職員については原則として時間外勤務等を命じないものとする旨定めるとともに,同条2項において,教育職員に対して時間外勤務等を命じる場合は,次に掲げる業務(@生徒の実習に関する業務,A学校行事に関する業務,B教職員会議に関する業務及びC非常災害に関する業務(以下「限定4項目の業務」という。)に従事する場合で,臨時又は緊急にやむを得ない必要がある場合に限定しているのであるから,これらの規定と給特条例3条3項の規定とを目的に照らして整合的に解釈していく必要がある。
(イ) ところで,昭和46年に給特法が制定され,また,同法を受けて給特条例が制定されたのは,当時,教育職員の多くが,無給で無定量,無制限の時間外勤務等を強いられており,この過大な時間外勤務等を解消するためであった。そこで,給特条例において,給料月額の100分の4に相当する額(文部省が昭和41年に行った教職員の勤務状況調査(以下「昭和41年文部省調査」という。)による教職員の持帰りを含まない超勤時間,すなわち,1週間当たり,小学校2時間30分,中学校3時間56分,高等学校3時間30分を勘案して定められた。)の教職調整額を支給することとする(3条1項)とともに,教育職員に対しては原則として時間外勤務等は命じないこととする(7条1項)一方で,限定4項目の業務に従事する場合で,臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限って例外的に時間外勤務等を命じることができる旨規定し(同条2項),時間外勤務等を命じることができる場合を一般の公務員の場合より限定したのである。このような給特条例の制定経過に照らせば,@給特条例7条2項によって時間外勤務等を命じられた場合,A限定4項目の業務以外の業務について,臨時の必要があるとして時間外勤務等を命じられた場合(給特法10条,労働基準法33条3項),B時間外勤務等が一過的で,量・程度・規模において少量で,その職務が複雑高度でない場合,C教育職員の自発性,創造性に基づき,もっぱらその教育職員の自由意思によって時間外勤務等が行われた場合に限って教職調整額が時間外勤務等手当を代償するものと解される(以下,上記の@ないしCの場合を「控訴人ら主張の教職調整額で賄われる場合」という。)。したがって,控訴人ら主張の教職調整額で賄われる場合以外の時間外勤務等を行った場合には,同条例3条3項の規定は適用されないものと限定的に解釈すべきであって,その結果,原則どおり給与条例14条,15条の規定が適用されて,時間外勤務等手当の支払を要するものというべきである。
そもそも,公立学校の教育職員も勤労者にほかならず,地教行法,地公法,勤務時間等条例によりその勤務は時間で管理され,これに対応して給与の支給が決定されているのであるから,給特法10条において,公立の義務教育諸学校等の教育職員につき,労働基準法の適用除外を定めた地公法58条3項の除外範囲を拡大して労働基準法37条(時間外勤務等の割増賃金)の適用も除外する旨規定していることは,同法1条及び32条が適用される趣旨に反し,ひいては憲法27条2項の趣旨にも反する。教育職員の職務の自発性,創造性という特性があるということが,何故時間外勤務等手当の支払の拒絶を合理化するのかは全く明らかにされていない。労働(勤務)を時間で計り,対価として等価値の賃金(給与)を支給するという定め方をする以上,時間外勤務等は存在し,時間外勤務等手当支払の必要があることは明白である。労働者(職員)の勤務を時間をもって拘束し,時間をもって管理し,勤務を時間で計り,給与を支給するという労働と賃金の定め方を止めることもせずに,時間外勤務等を否定し,その手当の支払を免れることは許されない。したがって,労働基準法37条の適用を除外するのであれば,それに代わる保護規定が別に存在しない限り,給特法10条は憲法27条2項に違反するといわなければならないところ,給特法8条,給特条例3条1項に基づく4%の教職調整額の支給では膨大な時間外勤務等に対する補償とは到底いえない。教職調整額の4%は,昭和41年文部省調査の結果,公立学校の教職員の校内時間外勤務等の平均は,小学校週2時間30分,中学校週3時間56分,全日制高等学校週3時間30分であったことその他を勘案して定められたのであるが,平成13年に北海道教職員組合(以下「北教組」という。)が行った調査(以下「平成13年北教組調査」という。)によると,北海道の教職員の校内時間外勤務等の平均は月37時間1分,持帰り時間外勤務等は月14時間25分の合計月51時間26分となっている。4%の教職調整額の支給によって時間外勤務等手当の支給を排除する制度が合理性を持ち得るのは,教育職員の時間外勤務等の実態が正規の勤務時間の4%,すなわち月6時間24分(週40時間×4週×0.04)の時間外勤務等に見合う場合,少なくとも,給特法制定当時に基礎資料とされた昭和41年文部省調査と大差のない場合に限られるというべきであるが,平成13年北教組調査では昭和41年文部省調査に比べ,校内時間外勤務等だけでも3倍を超える実態になっているのであるから,上記の制度の合理性は失われている。また,給特法11条,給特条例7条2項についてみても,これらの規定は限定に違反する命令によって行われた時間外勤務等に対する割増賃金の支払を義務づけた規定ではないのであるから,同様に労働基準法37条に代わる規定とはいえない。仮に,教育職員の職務と勤務態様の特殊性を強調するにしても,まずは特殊性とは何かを具体的に明らかにしない限り,労働基準法37条の適用を除外するだけの合理的理由があるか否か判断することはできない(合理的な理由がない場合は,教育職員だけが合理的な理由もなく労働者保護の規定の適用を除外されることになり,法の下の平等の原則(憲法14条)に違反する。)。勤労者の労働条件を定める諸法規は,憲法27条2項の勤労者の労働条件の保障を実定法化した最低基準である労働基準法の定める原則に反しないように解釈すべきであり,結局,給特条例3条3項については,上記のとおり,限定的に解釈するほかないものというべきである。
また,私立学校の教育職員には労働基準法37条が適用されるところ,労働基準法37条の適用について公立学校の教育職員と私立学校の教育職員を差別する合理的理由は存在しないから,給特条例3条3項について上記のような限定的な解釈を採らないとすると,給特法10条は憲法14条に違反するものというべきである。
(ウ) 実際上も,給特条例7条により教育職員に対して時間外勤務等を命じないことが原則とされたにもかかわらず,北海道の教育職員の多くは,依然として正規の勤務時間内に処理することが客観的に不可能な質と量の各種業務に従事することを強いられており,時間外勤務等が常態化しているのが現状であるところ,これは,学級編成や教育職員定数の現行法制に原因があることが明らかである。しかしながら,学校設置者である被控訴人らや教育条件整備の責務を負っている被控訴人らの教育委員会は,上記のような教育職員の時間外勤務等に関する実情を認識しながら,長年にわたって大幅な教育職員定員増等教育条件の抜本的な改善策を何ら講じなかったばかりか,給特法及び給特条例が前提とする労使間の協定を一方的に破棄する暴挙に出るに至ったのである。以上のように,教育職員の時間外勤務等が常態化している現状を前提として,給特条例3条3項を文理解釈して形式的に適用すれば,教育職員に対して無給で無定量,無制限の時間外勤務等を強いることを許容することになり,到底許されないはずである。
(エ) 以上を前提とすれば,教育職員が正規の勤務時間以外の時間にわたって,控訴人ら主張の教職調整額で賄われる場合以外の教育職員本来の業務に属する業務に従事した場合には,給特条例3条3項の規定は適用されず,原則に戻って時間外勤務等手当について規定した給与条例14条,15条の規定が適用されるから,控訴人ら教育職員は,同規定に基づく時間外勤務等手当の請求権を有するものというべきである。
イ 控訴人らの時間外勤務等
各控訴人は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,原判決別紙「時間外・休日勤務の内訳表」の時間外勤務時間数欄及び休日勤務時間数欄に記載のとおり,前記前提事実に記載のとおりの教科,学級担任,校務分掌,部活動担当について時間外勤務等を命じられ,これらの業務に従事した(以下「本件時間外勤務等」という。ただし,控訴人A5については,上記「時間外・休日勤務の内訳表」の時間外勤務時間数を,11月26日については2時間と,同月27日については4時間25分と,同月28日については3時間25分と,同月29日については1時間55分と,同月30日については3時間14分と,12月10日については3時間と,同月11日については3時間と,同月12日については3時間25分と,同月13日については2時間55分と,同月15日については55分とそれぞれ訂正し,業務内容を,11月28日についてはA,B,Dと,同月29日についてはB,Dと,同月30日についてはPと,12月1日についてはDと,同月3日についてはC,Gと,同月4日についてはD,Gと,同月9日についてはFと,同月20日についてはD,G,Hとそれぞれ訂正する。なお,各控訴人の時間外勤務等の業務内容は,同内訳表の@ないしP記載のとおりである。)。これらの業務はいずれも控訴人ら主張の教職調整額で賄われる場合以外の教育職員本来の業務に属する業務にほかならない。しかも,これらの時間外勤務等はすべて校長の黙示的な職務命令に基づくものであった。したがって,控訴人らの平成13年11月21日から同年12月20日までの期間中の上記時間外勤務等については,給特条例3条3項は適用されず,給与条例14条あるいは15条の規定が適用されるから,各控訴人は,給与支払義務者である各被控訴人に対し,時間外勤務等手当を請求できるというべきである。
ウ よって,各控訴人は,それぞれ対応する各被控訴人に対し,平成13年11月21日から同年12月20日までの間の上記時間外勤務等につき,給与条例,市町村立学校職員給与条例に基づく時間外勤務等手当の合計額である原判決別紙請求債権目録の各控訴人の合計額欄記載の金額及びこれに対する最後の給料支給日の翌日である平成14年1月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被控訴人らの主張
ア 控訴人らの主張アは争う。
給特条例3条1項により,その者の給料月額の100分の4に相当する教職調整額を支給するとしたうえ,同条3項により,時間外勤務等手当について規定した給与条例14条,15条の規定の適用が除外されていることから,時間外勤務等手当の支払を求める控訴人らの本訴請求は法律上の請求権とはいえず,何らの根拠を有しないことが明らかである。給特法及び給特条例に上記規定が制定された理由は,教育職員の職務と勤務態様の特殊性から,その勤務が自発性,創造性に期待する面が大きいなど,勤務時間あるいは勤務の在り方について,すべて一般の行政事務に従事する職員と同様な時間的計測あるいは時間管理を行うことは適当ではなく,したがって,時間計測に基づく時間外勤務等手当の制度がなじまないとの趣旨から,時間外勤務等手当の一律支給という性格の給与ではなく,勤務時間の内外を通じて包括的に教育職員の職務を再評価し,俸給相当の性格を有する金額を支給して本棒そのものの増額と同じ性質をもつ優遇措置である教職調整額の制度を新たに設け,時間外勤務等手当の規定を適用しないこととしたものである。
教育職員の職務と勤務態様の特殊性という点からみれば,公立学校の教育職員と私立学校の教育職員との間にとりたてて差違があるわけではない。
しかし,地方公務員の給与その他の勤務条件は,勤務条件法定主義の原則に基づき条例で定めることとされ,これに基づかずにはいかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならないとされている(地公法24条,25条)のに対し,私立学校の教育職員の給与等の勤務条件は,個々の学校の設置者と教育職員との雇用契約によって定まるものであり,契約の内容は,当然労働基準法の規制を受けるが,その範囲内で,職務内容や労働時間算定の方法等につき,個々の学校の実情に合わせ,労使の合意により自由に定めることができるのである。このように,公立学校と私立学校の教育職員の勤務条件の決定方式は基本的に異なるものであり,労働時間管理の在り方や時間外勤務等の取扱いの差違はこの相違に基づくものであって,何ら不合理なものではない。
控訴人らは,4%の教職調整額の支給によって時間外勤務等手当の支給を排除する制度が合理性を持ち得るのは,教育職員の時間外勤務等の実態が正規の勤務時間の4%,すなわち月6時間24分の時間外勤務等に見合う場合,少なくとも,給特法制定当時に基礎資料とされた昭和41年文部省調査と大差のない場合に限られるというべきである旨主張する。しかし,昭和41年文部省調査の結果により4%の率を算出したのは,社会教育関係活動等の服務時間内の勤務時間を服務時間外の勤務時間から差し引くなどの調整をした後の服務時間外勤務時間が年間44週にわたって行われた場合の時間外勤務手当に要する金額が時間外勤務手当算定の基礎となる給与に対し約4%に相当したためである。したがって,控訴人らの時間外勤務等の実態が月間勤務時間に4%を乗じて得られた時間に見合うか否かを比較すること,昭和41年文部省調査の結果と平成13年北教組調査の結果を比較することは意味がない。
イ 控訴人らの主張イについては認否しない。
(予備的請求@)
(1) 控訴人ら
ア 控訴人らは,正規の勤務時間内で処理することが客観的に不可能な業務に従事せざるを得ない勤務体制と勤務環境の下で本件時間外勤務等をしたものであるところ,被控訴人ら及び各校長はこの実態を日頃から知り,これを黙認していた。したがって,本件時間外勤務等は,少なくとも各校長の黙示の職務命令に基づくものであるということができる。
イ 控訴人らは,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,限定4項目の業務以外の業務のために本件時間外勤務等をしたものであるところ,被控訴人らはその対価を支払わない。
ウ 被控訴人らは,控訴人らに対し,法制上させることができない本件時間外勤務等をさせたことにより,換言すれば法律上の原因なくして,控訴人らの労務に基づく賃金相当額の利益,すなわち,原判決別紙請求債権目録記載の金額に相当する額の利得を得ており,控訴人らは同額の損失をしているところ,被控訴人らの得た利得と控訴人らの損失との間には相当因果関係がある。
エ よって,各控訴人は,それぞれ対応する各被控訴人に対し,不当利得返還請求権に基づき,原判決別紙請求債権目録の各控訴人の合計額欄記載の金額及びこれに対する最後の給料支給日である平成14年1月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被控訴人ら
控訴人らの主張は争う。
限定4項目の業務についての時間外勤務命令を除き,校長らが明示,黙示を問わず,時間外勤務命令を出した事実はなく,控訴人らが自発的に時間外に及ぶ業務を行ったとしても,そのような業務の存在は,給特法,給特条例の前提とするところであって,これに対しては教職調整額が支給されている。
したがって,被控訴人らが法律上の原因なくして控訴人ら主張の利得を得た事実はない。
(予備的請求A)
(1) 控訴人ら
ア 被控訴人らの教育委員会は,それぞれ対応する教育職員たる控訴人らの服務を監督する行政組織として,また,北海道教育委員会(以下「道教委」という。)は,これと合わせて,控訴人らの任命権者としての事務を適切に行うため,市町村教育委員会の控訴人らに対する服務の監督又は勤務時間その他の勤務条件の実施について技術的な基準を設けることができる行政組織として(前者につき地教行法43条1項,後者につき同法43条4項),それぞれ正規の勤務時間内で本来業務が完遂できる勤務条件を整備し,原則として控訴人らをして時間外勤務等をさせてはならない責任と注意義務がある。
具体的には,被控訴人らは,それぞれの学校の教育職員数を増やして控訴人らの授業時数の削減を含めて業務量を減らし,校長らの管理職員をして限定4項目の業務以外の本来業務について時間外勤務等を命じないよう指導監督すべき注意義務を負っていた。
しかしながら,被控訴人らは,上記注意義務に違反して,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,本件時間外勤務等がなされることを容認したばかりか,各校長をして明示又は黙示の職務命令を出させて本件時間外勤務等をさせた。
イ 控訴人らは,本件時間外勤務等を命じられなければ,その時間を,家庭や自由な空間でくつろぐ,家事労働に責任を負う,自己啓発や地域社会での活動のための時間に利用する,その職務の生命ともいうべき自主的な研究や教養を深める等の時間に充てることができた。また,職務による疲労を回復させるべく心身をリフレッシュし,健康に対する不安を解消すべく休養することができた。
さらに,子供たちとの人間的な触れ合いを深めるための十分な時間を確保することができた。
ウ 本件時間外勤務等を命じられたため,控訴人らはこれら自由な社会的,文化的生活時間の恩恵を享受する機会を失って,回復,復元することができないこととなった控訴人らの精神的苦痛を金銭評価すると,原判決別紙請求債権目録の各控訴人の合計額欄記載の金額を下回ることはない。
エ よって,各控訴人は,それぞれ対応する各被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として,原判決別紙請求債権目録の各控訴人の合計額欄記載の金額及びこれに対する不法行為の後である平成14年1月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被控訴人ら
控訴人らの主張は争う。
給特法,給特条例は,時間外勤務等を命じることができる場合を限定4項目の業務に限っているのであり,教育職員の自発性,創造性に基づいて行われる勤務時間外に及ぶその他の業務処理を一切否定するものではない。これらの勤務時間外に及ぶ自発性,創造性に基づく業務に対する対価は教職調整額として支給している。
また,校長らが,限定4項目の業務以外の業務について,明示又は黙示の勤務時間外勤務等を命じる職務命令を発したことはない。
第3 当裁判所の判断
1 給特法,給特条例制定の経緯等
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 昭和23年5月,政府職員の新給与実施に関する法律(昭和23年法律第
46号)が制定公布され,職務の級と号俸による職務級制度が実施された。この新給与制度への切替において,教育職員については一般公務員より高い給与切替になっていることから,超過勤務手当を教育職員には支給しないこととされたが,公立学校の教育職員には超過勤務について定める労働基準法が適用されていたので,文部省は,諸通達により教育職員には原則として超過勤務を命じないことを指導方針とした。しかし,法的には公立学校の教育職員については労働基準法が適用されていることから,教育職員の超過勤務という事実を巡ってその理解が分かれ,超過勤務手当の支給を求める訴訟が提起されるようになった。
(2) 人事院は,昭和39年8月,「給与に関する人事院の報告と勧告」(乙イ1の1)の中で,「以上のほか,最近問題となっているものに,教員の超過勤務に関する問題がある。現行制度のもとに立つかぎり,正規の時間外勤務に対しては,これに応ずる超過勤務手当を支給する措置が講ぜられるべきは当然であるが,他方,この問題は,教員の勤務時間についての現行制度が適当であるかどうかの根本にもつながる事柄であることに顧み,関係諸制度改正の要否については,この点をも考慮しつつ,さらに慎重に検討する必要があると考える。」との報告をした。
(3) 文部大臣は,昭和42年9月4日,参議院文教委員会において,「しばしば,去る国会におきましても,私は教員の勤務の実態調査をいたしましたのは,その調査に基づきまして超過勤務問題を解決するというためにやったのだということを申し上げたわけです。43年度の予算編成にあたりましては,この問題を必ず解決するということを国会でもお約束してまいりました。ただ,私が申し上げておりますのは,超過勤務を解決するというのは,超過勤務を支給する形にするか,あるいは勤務の態様において,私は先ほど申しましたかねての希望でございますように,そういう超過勤務というものを考えないで済むような教員の給与体系というものができるかどうか,その二つのうちだと思います。そういう,もし超過勤務を考えないで済むような特殊の給与体系ができますれば,その際はこれはもちろん超過勤務というのを考えないでいくべきではなかろうか。ただし,現段階におきまして,もしそれができないならば,そのできるまでの暫定においては,超過勤務というものを現行のもとにおいては考えなければいけないのじゃないかという考え方を持っておりますが,ただいまその両者につきまして,私どもとしては,43年度の予算編成を終わるまでにはそれを解決をしてまいりたいと思っております。」と答弁した。(乙イ2)
(4) 文部省は,昭和43年度予算に昭和41年文部省調査の中間報告の結果を基礎として教員給与改善措置費を計上することとし,あわせて,この予算措置に裏付けられた法律措置を講ずるため,文部省を中心に法案の検討が進められ,昭和43年3月,教育公務員特例法の一部を改正する法律案が閣議決定されて国会で審議されたが,廃案となった。
(5) 人事院総裁は,昭和45年12月17日,参議院文教委員会において,「39年の報告書に先ほどのようなことをうたいましたあとで,それをめぐっていろいろと御質疑がございました。要するに,それは前段の「超過勤務手当」云々の点は「当然であるが」ということでございますが,その後段のほうについて,教員の勤務時間そのものの根本問題を取り上げておるということが一つの問題の焦点にされたわけです。私ども,当時からお答えしておりましたのは,大体,学校の先生方の勤務というものが普通の行政職と同じような超過勤務制度というものに一体なじむものかどうかというような根本の問題もございますので,それらの点も含めて検討いたしたいということをずっと従来申し上げてきたのです。それで,今度新聞などに報道されておりますのも,まんざらうそではないんで,私ども検討しております。そして,やはりそういう基本的な勤務の性格というものに着目しながらも,まあ人事院として勧告するならば,それらしい自信がある案をまとめようという心がまえで現在おるわけでございます。」と答弁した。(乙イ3)
(6) 人事院は,昭和46年2月8日,国会及び内閣に対して,義務教育諸学校等の教諭等について,その職務と勤務の態様の特殊性に基づき,新たに教職調整額を支給する制度を設け,超過勤務手当制度は適用しないこととする等の必要があると認め,@義務教育諸学校等の教諭等に俸給月額の100分の4に相当する額の教職調整額を支給する,A教職調整額は,期末手当,勤勉手当等の算定においては,俸給と同様の取扱いとする,B教諭等には時間外勤務等手当を支給しない,C教諭等に時間外勤務等を命ずる場合については,文部大臣は,人事院と協議して,命じ得る業務の範囲を指定する等その基準を定めなければならない,などを内容とする法律を制定する必要があるとして,国家公務員法23条に基づき,「義務教育諸学校等の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する法律の制定についての意見の申出」を提出した。(乙イ1の2)
人事院は,上記の意見の申出について,次のような説明をした。(乙イ1の3)「人事院は,昭和39年に行った一般職の国家公務員の給与に関する報告の中で,教員の超過勤務に関する問題にふれ,その再検討について言及したところであるが,教員の勤務時間については,教育が特に教員の自発性,創造性に基づく勤務に期待する面が大きいことおよび夏休みのように長期の学校休業期間があること等を考慮すると,その勤務のすべてにわたって一般の行政事務に従事する職員と同様な時間管理を行うことは必ずしも適当でなく,とりわけ超過勤務手当制度は教員にはなじまないものと認められる。よって,勤務時間の管理について運用上適切な配慮を加えるとともに,教員の超過勤務とこれに対する給与等に関する現行制度を改め,教員の職務と勤務の特殊性に応じたものとする必要がある。
@ 勤務時間の管理正規の勤務時間内であっても,業務の種類・性質によっては,承認の下に,学校外における勤務により処理しうるよう運用上配慮を加え,また,いわゆる夏休み等の学校休業期間については教育公務員特例法第19条及び第20条の規定の趣旨に沿った活用を図ることが適当であると考える。
A 教職調整額の支給
教員の勤務は,勤務時間の内外を問わず,包括的に評価することとして,現行の超過勤務手当および休日給の制度は適用しないものとし,これに替えて新たに俸給相当の性格を有する給与として教職調整額を支給することとする。
教職調整額の支給額は,昭和41年度に文部省が行った教員の勤務状況調査の結果その他を勘案して,俸給月額の4%とする。教職調整額は,調整手当,特地勤務手当,期末・勤勉手当,寒冷地手当等の諸手当ならびに退職手当および退職年金等の諸給付の額の算定基礎とする。
B 時間外勤務の規制
右に関連し,適正な勤務条件を確保するための措置として,正規の勤務時間外における命令による勤務が教員にとって過度の負担となることのないよう,文部大臣は,人事院と協議して時間外勤務を命ずる場合の基準を定めるべきものとする。」
なお,教職調整額の率である4%は,次のような計算によって算定されたものである。すなわち,昭和41年文部省調査によると,8月を除く11か月の平均週当たり服務時間外勤務時間は小学校2時間36分,中学校4時間3分であり,この時間から報酬を受けて補習を行った時間及び社会教育関係活動等の服務時間内の勤務時間を差し引くと,1週平均の服務時間外勤務時間数は,小学校1時間20分,中学校2時間30分の平均1時間48分となるところ,この1週平均の服務時間外勤務を年間44週(年間52週から,夏休み4週,年末年始2週,学年末始2週の計8週を除外)にわたって行われた場合の時間外勤務手当に要する金額が,超過勤務手当算定の基礎となる給与に対し,約4%に相当したからである。(乙イ10)
(7) 人事院総裁は,上記の意見の申出に関して,昭和46年5月18日,参議院文教委員会において,@学校の先生方の勤務の実態は,普通の行政職員のような時間計測になじまない点があるから,時間計測に基づく超過勤務手当の制度もなじまず,超過勤務手当は支給しないことにする(超過勤務命令はあっても超過勤務手当は支給しないという現在の裁判官や検察官と同じ制度にする。),A時間の密度からいえば授業時間のあとは普通の行政職の場合に比べると密度が薄いが,授業時間内は非常に密度が濃いし,また,夏休みなどでは行政職とは違った時間管理がされていることや,教育というものは教員方の創意と自発性にまつところが多いことを踏まえ,勤務時間の内外を通じてその職務を再評価し,本俸の4%の調整額を設ける,Bこれは諸般の手当にはねかえるので実質的には6%となるし,退職手当等においても平均25万円のプラスになる,C調整額は,勤務時間をはみ出した分について包括的に超過勤務手当を支払うという趣旨ではない,との趣旨の答弁をした。(乙イ4)
(8) 政府は,昭和46年2月16日,給特法の政府案を国会に提出し,国会における審議を経て,同年5月28日に法律第77号として成立した。給特法の審議における主な答弁等は以下のとおりである。
ア 文部大臣は,昭和46年4月14日,衆議院文教委員会において,小学校,中学校,高等学校等の教育職員については,その職務と勤務態様の特殊性にかんがみて,超過勤務手当制度はなじまないのでその制度は適用しないこととするとともに,新たに俸給相当の性格を有する給与として教職調整額を支給することとする等の措置を講ずることが必要であるとの人事院の意見の申出が行われ,この人事院の意見に沿って必要な立法措置を講ずるためにこの法律案を提出した次第であるとの趣旨の答弁を行った。(乙イ5の1)
イ 人事院総裁は,前同日の同委員会において,教員の仕事の特殊性,これは特にさかのぼれば教育の特殊性ということになるが,教員は普通の指揮命令のもとに働いている行政職の方々とは違った面があり,教員の方々の自発性あるいは創造性という面に基づく勤務というものが相当に期待されていること,夏休み等の長期の休業期間における勤務の実態という面でも行政職がしている勤務の実態とは基本的に違うことから,特に時間的な管理という面において一般行政職と同じ扱いにするのは不合理であって,時間的な計測をもとに支払われる超過勤務手当の制度にはなじまず,教員の勤務の特殊性を正規の勤務時間の内と外にまたがって包括的にこれをとらえて再評価し,教職調整額を支給するのが望ましいということで意見の申出をしたとの趣旨の答弁をした。また,人事院総裁は,前同日の同委員会において,超過勤務手当制度は超勤命令を出して,それによって正規の勤務時間を超えて勤務をしたら,時間計測のもとに手当を支給する制度であるが,ここではこれを適用せず,超過勤務命令が出ても教職調整額でまかなうのであり,内外を問わずというのはそのことを言っているのであるとの趣旨の答弁もした。(乙イ5の2)
ウ 人事院総裁は,昭和46年5月20日,参議院文教委員会において,「教育が,特に教員の自発性,創造性に基づく勤務に期待する面が大きいということ。それから,他面,現実の面を見ますというと,夏休みのように長期の学校休業期間があるということ。あるいはまた,授業時間においてはこれは非常な高い勤務密度でありますが,同じ勤務時間の中でも授業時間以外の時間ということになると授業時間ほど密度は高いと見られないというような,非常な特殊性が,一般の行政専務の場合と比べますというとあるわけです。そうだからといって,先生方が怠けているという面には全然これはつながらない。そのお仕事の重大性がまた別にありますから。ただし,時間の面から申しますというと,行政職員の場合と,そのような点において著しく異なっておる。したがって,一般行政事務に従事する職員と同じような時間的管理を行なうということは必ずしも適当とは考えられない。とりわけ,一定の勤務時間というものを線を引いて,その線を越えた超過勤務に対する超過勤務手当制度,その線を越えて何時間,何時間というような時間計測による超過勤務手当制度というのはこれはなじまないと認めざるを得ない。したがいまして,われわれの結論は,今回御提案しましたような結論になります。これは,調整額という給与上の優遇措置ということにもつながりますし,片や,勤務時間の管理の面においても,昨日問題になりましたように,たとえば,職務の種類によっては,必ずしも学校の校内でおやりにならなくてもいいお仕事があるだろう,それを必ずしも校内にくぎづけになさる必要もないだろう,夏休みのような場合に毎日出勤せよというふうな拘束を与えるということも,いまの本質からいったらどうであろうか。そういうような面が片面にあります。それはこの説明書にあげたとおりでありますが,今回の法案に出ております9点は,それらを考慮して,勤務時間の内外を問わずに,先生方の勤務というものを再評価をして,そうして,これはいままでどおりではいけない,本俸そのままを引き上げる,4%引き上げるという形で,これはほかにはね返りますから,ほかのはね返りを含めると実質は6%の増額になる。そのほかに,退職手当にも響いてくる。退職手当で,平均25万円ふえる。あるいは年金もふえる。だから,本俸の増額そのものと同じような優遇措置をこの際とる。これは,勤務時間の内外を通じての再評価によって,その程度の優遇はなされなければいかぬだろう。それが,この推移のあらましでございます。」と答弁した。(乙イ6)
エ 文部大臣は,昭和46年4月23日,衆議員文教委員会において,「先生方の職務あるいは勤務というものの態様は,元来私は,時間的に労働を切り売りするというような考え方とはなじまないと考えておるわけでございます。その意味合いにおきまして,そういう勤務あるいは職務の態様であるがゆえに,先生方に対しては調整額という形で待遇改善の一環として今回の法案を御提出申し上げ,御審議をわずらわしておるわけでございまして,それを,これを出したからもうあとはぎゅうぎゅう勤務を命じて,そうしてやらせるんだ,こういうつもりは実は毛頭ないわけでございます。そういうことをやるということそれ自身が,いわば教職員の自主性あるいはまた創造性という性格にもとるわけであろうかと私は思うわけでございます。したがいまして,ある場合におきましてはその職務,勤務等につきまして測定可能な部面もないわけじゃないと思います。しかし,総合的に全体といたしましては,先生方の勤務あるいは職務というものは,そういう時間的な測定,量的な測定ということになじまないという形でとらえておる。」と答弁した。(乙イ9の1)
(9) 中央教育審議会は,昭和46年6月11日,第22回答申をとりまとめ,その中で,「教職は本来「専門職」でなければならないといわれる理由は,それがいわゆるプロフェッションの一つであって,次のような点において一般的な職業と異なった特質をもつことにあるといえる。すなわち,その活動が人間の心身の発達という基本的な価値にかかわるものであり,高度の学問的な修練を必要とし,しかも,その実践的な活動の場面では,個性の発達に即する的確な判断にもとづく指導力が要求される仕事だからである。このような職業にふさわしい資質は,教員の一生を通ずる不断の努力によってしだいに養われるものであって(中略)。このようなきびしい不断の修練を必要とする教員の職制・給与・処遇は,それにふさわしく改善されなければならない。」と述べている。(乙イ8)
(10) 北海道は,給特法8条の規定に基づき給特条例案を北海道議会に提案したところ,昭和46年第4回定例北海道議会において可決成立し,給特条例は昭和47年1月1日から施行された。
2 控訴人らの勤務実態等
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 教職員の時間外勤務等に関する北教組,文部省,文部科学省,道教委による調査の結果
ア 平成13年北教組調査
(ア) 北教組は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,北海道の教職員の勤務・超過勤務の実態を調査した。その結果,北海道の教職員3907名の回答者全員の平均で時間外勤務等の時間は月51時間26分(校内37時間1分,自宅14時間25分)であり,100時間を超える者が約1割の約400人,80時間を超える者が約2割ということが明らかとなった。校種別の平均では高等学校63時間22分,中学校60時間5分,小学校45時間46分,障害児学校41時間44分であり,職種別では教員が55時間8分であった。(甲共5,6,63)
(イ) 前記の時間外勤務等において控訴人ら教育職員が従事した職務の主なものは,部活動指導,教材研究・授業準備,採点業務・成績評価,学級事務,校務分掌であった。
なお,文部省は,昭和56年実施の学習指導要領や平成5年実施の学習指導要領で部活動の教育的意義を明確にし,また,部活動の教育課程上の位置づけを行っていることが認められるから,教育職員が部活動に従事した場合,それは学校教育の一環として行った行為であり,当然に教職員の職務になると捉えられている。(甲共75,甲共63)
イ 昭和41年文部省調査
給特法制定の際の基礎資料とされた昭和41年文部省調査の結果によれば,教員の時間外勤務等の時間は,小学校で週2時間30分,中学校で週3時間56分,高等学校で週3時間30分であった。(甲共38,乙イ10)
ウ 平成18年文部科学省調査
文部科学省は,平成18年7月から12月までの間,公立小中学校に勤務する教職員の時間外勤務等の全国的な実態調査を実施した。7月分の調査結果の暫定報告によれば,公立小中学校の教職員の校内時間外勤務は,全国平均で週2時間08分,持帰り勤務は,全国平均で週35分,休日勤務は,全国平均で週1時間12分,休日の持帰り勤務は,全国平均で週2時間01分であった。(甲共72)
エ 平成15年道教委調査
道教委は,平成15年5月から10月までの6月間,北海道の教育職員の時間外勤務等の実態を調査した。この調査の結果によると,全校種・全職種平均で,命令による時間外勤務が月0.91時間,命令によらない時間外の業務処理が月20.7時間であった。(甲共34)
(2) 控訴人ら教育職員が時間外勤務等を行う事情等
ア 教育職員の日常的な仕事は,授業と授業の準備(教材研究,教具・教材・資料の作成),評価・評定に関すること(テスト作成,採点,成績評価・処理),生活指導に関すること(給食指導,清掃指導,学級・学年・生徒会の活動やそのための児童生徒との話合い,相談活動,進路指導),学級事務(出席簿などの整理,教具や行事等の集金業務),部活動指導,家庭との連携(通信作成,家庭訪問),校務分掌の仕事,研修に関すること(校内研修,研究授業,研修会への参加),教職員会議や各種会議(教科,生活指導,学年,分掌),PTA活動や地域との連携に関すること,各種報告書の作成や依頼業務の処理など多岐にわたっている。(甲共63)
イ 各学校では,年間教育計画,学級担任,教科担任,校務分掌,部活動指導担当等は,学習指導要領に準拠して,その年度の反省や異動者の内定を受け,各教育職員の希望を徴したうえ,校長をはじめ全教職員が出席する年度末ないし翌年度当初の教職員会議で決定される。これらは,「・・・(学校名)の教育」などと名付けられることが多い冊子に収録され,市町村教育委員会さらには道教委に提出される。学級担任や部活動の担当を希望する者が足りないときには,校長が教育職員にお願いをして引き受けてもらうこともある。なお,校長も出席する教職員会議において討議し,学校として決定した年間教育計画には,1日の日課,1週間,1か月,1年間の各学年の教科・特別活動・道徳等の授業時間数,学校行事の計画・準備期間等が詳細に定められている。校務分掌についても同様,詳細に決められている。教育職員が勤務時間内に上記アの仕事を行い,上記のとおり割り当てられた校務分掌をこなし,部活動の指導を行うことは極めて困難であり,このことは校長も認識しており,教育職員に時間外勤務等を行うようお願いすることもある。(甲共39ないし48,50ないし63,甲7の3,96の4,636の3,証人A1,証人A2)
ウ 控訴人A3は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,a小学校(クラス数18。教員数24)に勤務し,6年1組(児童数34)を担任し,校務分掌は文化部を,PTA関係は学年委員会を担当していた。同控訴人は,上記期間中,原判決別紙「時間外・休日勤務の内訳表」のうち同控訴人分の時間外・休日勤務の内訳表記載のとおりの時間外勤務等を同表記載の業務内容のために行った。(甲290の1及び11,控訴人A3)
控訴人A4は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,b中学校(クラス数18。教職員数32)に勤務し,1年3組と1年4組の副担任をし,教科指導は週当たり1年生の国語科2クラス(各4時間),2年生の国語科3クラス(各4時間)を担当し,校務分掌は生徒会会計と1学年協議会を担当していた。同控訴人は,上記期間中,原判決別紙「時間外・休日勤務の内訳表」のうち同控訴人分の時間外・休日勤務の内訳表記載のとおりの時間外勤務等を同表記載の業務内容のために行った。(甲96の1ないし3,控訴人A4)
控訴人A5は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,c高等学校(クラス数20。教職員数56)に勤務し,3年生の学級担任をし,教科指導は社会科を担当し,校務分掌は進路指導部を,部活動は吹奏楽局とワンダーフォーゲル部を担当していた。同控訴人は,上記期間中,原判決別紙「時間外・休日勤務の内訳表」のうち同控訴人分の時間外・休日勤務の内訳表記載のとおりの時間外勤務等を同表記載の業務内容のために行った(ただし,時間外勤務時間数は,11月26日については2時間と,同月27日については4時間25分と,同月28日については3時間25分と,同月29日については1時間55分と,同月30日については3時間14分と,12月10日については3時間と,同月11日については3時間と,同月12日については3時間25分と,同月13日については2時間55分と,同月15日については55分とそれぞれ訂正し,業務内容は,11月28日についてはA,B,Dと,同月29日についてはB,Dと,同月30日についてはPと,12月1日についてはDと,同月3日についてはC,Gと,同月4日についてはD,Gと,同月9日についてはFと,同月20日についてはD,G,Hとそれぞれ訂正する。)。(甲4の1及び2,控訴人A5)
控訴人A6は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,d養護学校(クラス数11。児童生徒数25。教職員数46)に勤務し,小学部に所属して,5年生を中心に週25時間の授業を主としてティームティーチング(複数の教員が複数の児童生徒に対して指導を行う体制)で担当し,校務分掌は生徒指導部で児童生徒会活動や集会活動を担当していた。同控訴人は,上記期間中,原判決別紙「時間外・休日勤務の内訳表」のうち同控訴人分の時間外・休日勤務の内訳表記載のとおりの時間外勤務等を同表記載の業務内容のために行った(甲7の1ないし3,控訴人A6)。
控訴人A7は,平成13年11月21日から同年12月20日までの間,e中学校(クラス数12(うち1クラスは障害児学級)。教員数26。事務部職員5)に養護教員として勤務し,2学年団のメンバーであり,校務分掌は保健体育部の保健係を,部活動はバスケットボール部を担当していた。同控訴人は,上記期間中,原判決別紙「時間外・休日勤務の内訳表」のうち同控訴人分の時間外・休日勤務の内訳表記載のとおりの時間外勤務等を同表記載の業務内容のために行った。(甲636の1ないし3,控訴人A7)
3 主位的請求について
(1) 控訴人ら教育職員は,給特法及び給特条例にいうところの教育職員(前記函館市条例によって準用される場合を含む。)に該当するところ,給特法は,その10条において,労働基準法の適用除外を定めた地公法58条3項の除外範囲を拡大して,労働基準法37条(時間外勤務等の割増賃金)の適用を除外する旨定めており,これを受けて制定された給特条例は,義務教育諸学校等の教育職員(管理職手当を受ける者は除く。)につき,給与条例14条,15条の適用を除外し(3条3項),他方で給料月額の100分の4に相当する額の教職調整額を支給する旨を定める(3条1項)とともに,教育職員については原則として時間外勤務等を命じないものとし,時間外勤務等を命じることができる場合を限定している(7条)。
このような規定が制定された所以は,前記認定の人事院の勧告,意見の申出,給特法案審議の際の答弁等から明らかなように,教育職員の職務と勤務の特殊性に応じた給与体系を定める必要があったからである。すなわち,教育職員の職務は,その活動が人間の心身の発達という基本的な価値にかかわるものであり,高度の学問的な修練を必要とし,しかも,その実践的な活動の場面では,個性の発達に即する的確な判断に基づく指導力が要求され,かつ創意工夫によりどこまでも広がる可能性をもっており,本来的に教育職員の自発性,創造性に期待するところが大きいという面で,いわゆるプロフェッションの一員として,一般的な職業とは異なった特質を持つからである。
また,教育職員の職務内容は前記認定のとおりであるが,@勤務時間中の授業や授業の準備のように教育職員の本来の職務であることが明らかで,かつ時間管理を容易に行うことができるものと,自宅等での授業の準備,評価・評定に関することなどのように本来の職務であることは明らかであるが,時間管理が容易でないものがあること(自宅等で職務を行う場合は,控訴人A3の供述にもあるように,中座することがあるなど,勤務時間中に比して職務遂行の密度は高くはないから,教育職員に自宅等での勤務時間を自己申告させたとしても,それをそのまま時間外勤務等の時間として扱うことは相当ではなく,その意味で時間管理は容易ではないといわざるを得ない。),A教職員会議や各種会議への出席,研修への参加等の本来の職務に付随すると考えられるもの,部活動における指導や生活指導等の本来の職務か否かが明確ではないと考えられるもの,BPTA活動や地域との連携等の教育活動には含まれるが直ちには本来の職務に結びつかないと考えられるものまであって,その職務内容は多様であり,したがって,校長等の職務命令により義務としてなされるものから教育職員の自主的な意思によることが相当なものまで様々であり,それぞれの職務において要求される知識,経験,能力等も異なっている。さらに,教育職員の勤務形態は,夏休み等長期の学校休業期間があること,授業時間においては非常に高い勤務密度であり,かつ集中することが求められるが,勤務時間中でも授業時間以外は勤務密度はそれほど高くないこと,職務の種類によっては必ずしも学校の校内でしなくてもよい仕事があり,校内での勤務という拘束を与えることが不適切なものもあること,授業の準備のために教材研究を行う場合も,一面では教育職員に求められる自己啓発,学問的修練といった性質も合わせ持つこと(控訴人A5)といったような特徴もある。給特法,給特条例の前記各規定は,教育職員の上記のような職務と勤務の特殊性にかんがみ,教育職員の勤務のすべてについて一般の行政事務に従事する職員と同様な時間的計測あるいは時間管理を行うことは適当ではないとの趣旨から,義務教育諸学校等の教育職員について,時間外勤務等を命ずることを例外的な場合に限定して,原則としてこれを禁止し,一方で,勤務時間の内外を通じて包括的にその職務を再評価し,新たに教職調整額の制度を設け,俸給相当の性格を有する金額を支給して本俸そのものの増額と同じ性質をもつ優遇措置を設け,教育職員の高い専門性と管理指導上の責任に対応し,一般行政職よりもより高い処遇を実現するとともに,これに伴い,教育職員の勤務のすべてを時間計測することは困難であるという点から時間外勤務等手当の規定を適用しないこととしたものであって,このような制度は,教育職員の職務と勤務の特殊性に照らし極めて合理的なものと評価することができる。
そして,以上のような給特法,給特条例制定の趣旨からすると,教育職員がプロフェッションの一員であるとの自覚のもと,自主的に正規の勤務時間を超えて勤務した場合には,その勤務時間が長時間に及ぶとしても時間外勤務等手当は支給されないと解するのが相当である。しかし,時間外勤務等を行うに至った事情,従事した職務の内容,勤務の実情等に照らし,時間外勤務等を命じられたと同視できるほど当該教育職員の自由意思を極めて強く拘束するような形態で時間外勤務等がなされ,そのような時間外勤務等が常態化しているなど,給特法,給特条例が時間外勤務等を命じ得る場合を限定した趣旨を没却するような事情が認められる場合には,給与条例14条,15条,労働基準法37条の適用除外を定めた趣旨も没却しているとして,その適用を認めるのが相当である。
(2) 前記認定のとおり,控訴人ら教育職員の担任するクラス,担当する校務分掌や部活動,年間教育計画などは,予め各教育職員の希望を徴したうえ,プロフェッションの集団である校長以下の全教育職員が出席する教職員会議で決定されるのであるが,各教育職員の割り当てられた職務を全て勤務時間内に処理してしまうことは極めて困難である。してみると,各教育職員は,必然的に時間外勤務等を行うことになることを前提として,教職員会議で職務分担等を決定しているというべきであるから,各教育職員が教職員会議の決定で割り振られた職務を行う必要上時間外勤務等に及んだとしても,そのような時間外勤務等は,教育職員が自らの意思に基づいて決定したところに基づくもの,すなわち自主的に行ったものと評価するのが相当である。
なお,校長が教育職員にひたすらお願いしてクラス担任や部活動の担当を引き受けてもらうことがある(証人A1)が,このような場合も,教育職員がプロフェッションの一員であるとの自覚のもとにやむを得ず引き受けたものと考えることができるから,引き受けた教育職員の自主的な決定というべきである。
そうすると,上記のような趣旨の時間外勤務等であれば,教育職員が自主的に行ったものとして時間外勤務等手当の支給を受けることができないものというべきところ,控訴人ら主張の本件時間外勤務等も上記のような趣旨のものと認められる(控訴人A3,同A4,同A5,同A6,同A7)から,控訴人らの時間外勤務等手当の請求は理由がない(控訴人らの上記期間中の時間外勤務等が時間外勤務等を命じられたと同視できるほど控訴人らの自由意思を極めて強く拘束するような形態でなされたことを認めるに足りる的確な証拠はない。)。
(3) 控訴人らは,勤労者の労働条件を定める諸法規は,憲法27条2項の勤労者の労働条件の保障を実定法化した労働基準法の定める原則に反しないように解釈すべきであり,給特法及び給特条例が労働基準法37条の適用を除外するのであれば,それに代わる保護規定が別に存在しない限り,給特法等は憲法の趣旨に違反するから,給特法等について控訴人らが主張するような合憲限定解釈をするべきである旨主張する。
しかし,上記の給特法,給特条例の各規定は教育職員の職務と勤務の特殊性に照らし合理的なものと考えられるうえ,教職調整額の付与は,実質的には,時間外勤務等手当の不支給とは制度上裏腹のものであり,時間外勤務等命令の限定,原則的禁止化を含め,時間外勤務等手当の不支給に相応する代替措置が採られ,労働基準法の適用除外に対応する立法措置が講じられているということができる以上,給特法及び給特条例が憲法に違反するといえないことは明らかであり,控訴人らの主張するように給特法,給特条例を限定的に解釈する必要はないというべきである。
なお,控訴人らは,教職調整額は控訴人ら主張の教職調整額で賄われる場合にのみ時間外勤務等手当を代償するものである旨主張する。
しかし,前記のとおり,本件時間外勤務等はいずれも控訴人らが自主的に行ったものと評価されるのであるから,控訴人らの上記主張によっても教職調整額で代償されるものというべきである。なお,控訴人らの主張が諸般の事情から控訴人らがやむを得ずに行った時間外勤務等は教職調整額で代償されないという趣旨のものであるとするならば,そのように解する根拠は見いだしがたい。したがって,控訴人らの主張は理由がない。
(4) 控訴人らは,4%の教職調整額の支給によって時間外勤務等手当の支給を排除する制度が合理性を持ち得るのは,教育職員の時間外勤務等の実態が正規の勤務時間の4%,すなわち月6時間24分の時間外勤務等に見合う場合,少なくとも,給特法制定当時に基礎資料とされた昭和41年文部省調査と大差のない場合に限られるというべきであるが,平成13年北教組調査では昭和41年文部省調査に比べ,校内時間外勤務等だけでも3倍を超える実態になっているのであるから,上記の制度の合理性は失われている旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,教職調整額は昭和41年文部省調査の結果その他を勘案して俸給月額の4%とされたのであるが,昭和41年文部省調査と平成13年北教組調査では調査方法,調査対象等が異なる(甲共5,6,38)のであるから,両調査の結果を単純に比較して上記制度の合理性が失われているということはできないし,控訴人らの勤務実態が教職調整額の支給によって時間外勤務等手当の支給を排除する制度そのものの合理性が失われるようなものとなっている,すなわち,教職調整額を増額するか否かという議論ではなく,教職調整額に加えて時間外勤務等手当を支払わなければならないほどに合理性が失われていることを認めるに足りる資料はない。したがって,控訴人らの主張は理由がない。
(5) 控訴人らは,私立学校の教育職員には労働基準法37条が適用されるところ,労働基準法37条の適用について公立学校の教育職員と私立学校の教育職員を差別する合理的理由は存在しないから,給特条例3条3項について控訴人ら主張のような限定的な解釈を採らないとすると,給特法10条は憲法14条に違反するものというべきである旨主張する。
しかし,地方公務員の給与その他の勤務条件は,勤務条件法定主義の原則に基づき条例で定めることとされ,これに基づかずにはいかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならないとされている(地公法24条,25条)のに対し,私立学校の教育職員の給与等の勤務条件は,労働基準法の規制の範囲内で個々の学校の設置者と教育職員との雇用契約によって定まるものであり,公立学校と私立学校の教育職員の勤務条件の決定方式は基本的に異なるのであるから,労働時間管理の在り方や時間外勤務等に取扱いの差違が生じたとしても不合理なものではない。したがって,控訴人らの主張は理由がない。
4 予備的請求@について
控訴人らは,本件時間外勤務等が少なくとも各学校長の黙示の職務命令に基づくものであることを前提に予備的請求@をしているのであるが,前記のとおり,控訴人ら主張の本件時間外勤務等は控訴人らが自主的に行ったものと評価すべきであるのみならず,前記の給特法制定の経緯から明らかなように,給特法,給特条例は教育職員が限定4項目の業務以外の業務のために時間外勤務等をすることを予定している(このことは,教育職員の職務を勤務時間の内外を通じて包括的に再評価して教職調整額を新設したことから明らかである。)のであるから,控訴人らの主張は理由がなく,予備的請求@は棄却を免れない。
5 予備的請求Aについて
予備的請求Aは,被控訴人らが校長をして明示又は黙示の職務命令を出させて本件時間外勤務等をさせたことを前提とするが,前記のとおり,本件時間外勤務等は控訴人らが自主的に行ったものと評価すべきもので,校長の明示又は黙示の職務命令によるものではないから,控訴人らの予備的請求Aは理由がない。
6 なお,事案にかんがみ付言するに,前記認定の時間外勤務等の調査結果や,当審で行った本人尋問の結果から明らかなように,我が国の小学校,中学校,高等学校,養護学校における教育は,控訴人ら教育職員の長時間にわたる時間外勤務等に負うところが相当に大きいというべきである。我が国の未来を担うべき児童生徒に対する教育の充実が重要であることはいうまでもなく,そのために教育職員が授業の準備を十分にしたり,ゆとりを持って児童生徒に接することができるよう,財政事情,給源等が許す限り教育職員の定数を増やす努力を引き続き行う必要がある。現場の教育を担当する教育職員の意見を十分に汲み取るなどして,我が国の未来のために実り多い教育改革がなされることを切望する。
第4 結論
以上の次第で,原判決の結論は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がなく,控訴人らが当審において追加した予備的請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
札幌高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官 伊藤紘基
裁判官 北澤 晶
裁判官 石橋俊一