(※いわゆる「国立信州大学構内神社政教分離訴訟」。なお太字は当方による)
 
東京高裁平成16(ネ)1692号 損害賠償請求控訴事件
平成16年7月14日 第5民事部判決
控訴棄却
上告(後上告取り下げ 判決確定)
原審 東京地裁平成15(ワ)21467号 平成16年3月4日判決
参照条文 憲法20条89条,国家賠償法1条,民法709条
 
控訴人      藤 原 英 夫 (※本人訴訟)
被控訴人     原審被告国訴訟承継人国立大学法人信州大学
代表者学長   小宮山   淳
指定代理人   石 川 真紀子 外5名
 
 
主  文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 
 
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金95万円及びこれに対する平成5年4月1日から支払い済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,国立信州大学本部構内の宗教法人京都伏見稲荷神社の分社である正一位白翁稲荷大明神を,同大学構外に移転せよ。
4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 
 
第2 事案の概要
 
1 事案の概要は,当審における控訴人の主張として次項のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決,2頁1行目,7行目及び12行目の各「被告」をいずれも「国」と,16行目の「被告」を「被控訴人」とそれぞれ改め,同頁19行目の末尾に,「ただし,国立大学法人法(平成15年法律第112号)の施行により,信州大学の現在の設置者は被控訴人となっている。また,同法に基づき,平成16年4月1日に国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下「国立大学法人等」という。)が成立し,これに伴い,国立大学法人等の成立の際に現に国が有する権利義務のうち,各国立大学法人等が行う業務に関するものは,その時において当該国立大学法人等が承継することとされ(国立大学法人法附則9条,同施行令附則4条),国立大学法人等の業務に係る国を当事者とする訴訟も当該国立大学法人等が承継することになり,本件訴訟も,被控訴人すなわち「国立大学法人信州大学」が承継した。」を加え,同頁20行目の「被告」を「国ないし被控訴人」と改める。)。
 
2 当審における控訴人の主張
(1)国立学校,大学の中の国有地に神社が存立し,間接的にでも国が関係することは政教分離違反であり,違法,違憲である。本件神社は,マッカーサーの占領政策で信州大学構内から一旦追放されたが,同大学佐藤元学長により,憲法に違反することを承知の上で,復元され,その後,構内の建物配置図にない「隠し神社」として,大学内外の公文書にも記載されなかったもので,それは,悪質かつ歴史に仇をなす違憲行為である。
(2)このような所業が合憲であるとするならば,文部科学省の中庭にも神社を設置することができ,靖国神社の境内も国有地にすることが可能となり,戦時中の国家神道が復活し,教育の現場に影響が及ぶことは避けられない。
(3)被控訴人は,控訴人居住の松本市旭町内会の法人会員であるが,町内にある稲荷神社の増改築に際して寄附を行い,町内会費名目で神社公民館等へ支出を行って,信教の自由,政教分離原則を侵害し,ひいては,地域住民である控訴人の人権を侵害した。
 
 
第3 当裁判所の判断
 
1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないからいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり当審における控訴人の主張に対する判断と当事者の地位の承継について加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。(ただし,原判決,3頁9行目,15行目,18行目及び20行目の各「被告」をいずれも「国ないし被控訴人」と,4頁4行目,5行目及び7行目の各「国」をいずれも「国ないし被控訴人」と,8行目の「被告の国が」を「国ないし被控訴人が」とそれぞれ改める。)。
 
2 当審における控訴人の主張に対する判断
(1)証拠(甲1,2,5ないし12,18ないし21,24,25,27ないし30,34ないし36,45,46,乙1,2〔枝番のあるものはそれを含む。〕)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。すなわち,本件神社は,江戸時代に当地の地主であった大杉家が厄除け開運の神として京都の伏見稲荷を勧請したものであり,明治40年ころに松本歩兵第五十聯隊がこの地に設置されたとき,同聯隊に受け継がれて同聯隊の守護神として祭られてきたこと,太平洋戦争終結とともに同聯隊は解散され,昭和21年,跡地に医学専門学校である松本医専(国立信州大学の前身)が転移したが,連合軍の指示で本件神社は構外に移転させられたこと,しかし,昭和31年ころ,信州大学医学部の友好団体である杏蔭会が中心になって本件神社を元々あった大学構内の場所に移し,現在に至っていること,本件神社の経費一切は杏蔭会が負担しており,本件神社に対して,公費,国費は全く支出されていないこと,控訴人は,自身の利益を得る目的ではなく,教育関係者としての立場と責任感から,国ないし被控訴人が本件神社を構内に存置させていることが悪質かつ歴史に逆行する違憲行為であって看過することができないとして本件訴訟を提起したものであること,以上の事実が認められる。
(2)以上の認定事実によれば,本件神社を信州大学構内に存置させたままにしてきている国ないし同大学の姿勢は,憲法89条の精神に明らかに反する不相当な行為であるといわざるを得ないが,そのことによって,控訴人の信教の自由が直ちに侵害されたとみることはできないし,控訴人が国ないし被控訴人から本件神社の宗教行事への参加を強制されたなど,控訴人個人の信教の自由が現実に妨害されたと認めるに足りる証拠はないから,本件神社の存在により控訴人に具体的な精神的苦痛が生じているとまでは認めることはできない。また,控訴人が国ないし被控訴人に対して本件神社を構外に移転させることを直接要求できる実体法上の権利を認めることもできない。
なお,控訴人は,松本市旭町内会の法人会員である被控訴人が,町内会費として町内にある稲荷神社の増改築に際して寄附したことや,町内会費を支出してこれが神社公民館等に使用されたことが信教の自由,政教分離原則を侵害し,ひいては控訴人の人権を侵害したことになる旨主張するが,寄附金や町内会費等の使途が仮に控訴人主張のとおりであったとしても,その支出は社会的儀礼の範囲内の行為というべきであって,このことが,直接,信教の自由や政教分離原則を侵害し,控訴人の人権を侵害するとは認めることができないから,この控訴人の主張も理由がない。
 
3 当事者の地位の承継
本件記録によれば,国立大学法人法等の施行によって信州大学の現在の設置者は国立大学法人信州大学とされ,同法等の定めるところに基づき国立大学法人信州大学が本件訴訟について原審被告国の地位を承継したことが認められる。
 
4 以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,控訴費用の負担につき民事訴訟法第67条第1項,第61条を適用して,主文のとおり判決する。
 
東京高等裁判所 第5民事部
裁判長裁判官    根 元   眞
裁判官        持 本 健 司
裁判官        片 野 悟 好
 
 
 
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