| 原告(最終)準備書面(10) | |
2005年6月7日付 被告(最終)準備書面(PDFファイル)
準 備 書 面(10) 平成15年(行ウ)第60号 損害賠償(住民訴訟)請求事件 原告 松田浩二 外24名 被告 枚方市長 中司 宏 大阪地方裁判所民事7部 御中 2005年6月7日 原 告 松 田 浩 二 印 原 告 宮 下 和 子 印 原 告 高 山 順 子 印 原 告 村 田 孝 子 印 原 告 村 田 拓 印 原 告 渡 辺 洋一郎 印 原 告 渡 辺 光 子 印 原 告 黒 田 伊 彦 印 原 告 黒 田 薫 印 原 告 山 田 光 一 印 原 告 山 本 節 子 印 原 告 山 田 淑 子 印 原 告 佐 藤 信 江 印 原 告 大 田 幸 世 印 原 告 福 山 昌 也 印 原 告 松 田 幹 雄 印 原 告 松 田 久 子 印 原 告 上 野 直 子 印 原 告 鎌 田 恵津子 印 原 告 堀 口 宏 二 印 原 告 西 山 知 子 印 原 告 土 肥 光 一 印 原 告 平 谷 知 寿 印 原 告 石 田 裕美子 印 原 告 石 田 善 彦 印 原告らは、本件住民訴訟の最終弁論を以下のように準備する。 記 はじめに 本件住民訴訟は2003年6月25日に提訴されていらい、11回の審理を重ねてきた。本件審理の期間と同時進行したこの2年間に、「日の丸・君が代」を巡る教育現場での状況は、急激な様相の変化を見せている。原告らは主に書証によってそれらを明示してきたが、東京都教委による「日の丸・君が代」強制の実態は、今年4月の入学式に関する事例で、ついに1ヶ月の停職処分を発令するに至った。事態はきわめて深刻な段階に達しているといえよう。 被告が引用する「ピアノ伴奏判決」(乙10号証の1と2)についても、また今回、原告らが提出する2005年4月26日福岡地裁判決(甲78号証)の事例についてもそうだが、さらに全国的に行われている一連の学校現場での「日の丸・君が代」の強制に関しては、例外なく学習指導要領が、その「指導」の唯一無二の根拠として異口同音に唱えられているという事実がある。本件、訴外枚方市教委による「7点指示」と「不起立教職員調査」にあっても、それはいささかも異なるものではない。 原告らは、それらの点について、特に今回の福岡地裁判決(これは通称「北九州ココロ裁判」と呼ばれているので以下「福岡地裁ココロ判決」と言う)が、北九州市教委が行った、卒業式・入学式での「日の丸・君が代」に関する「4点指導」という名の教育の不当な支配にかかわる評価と、学習指導要領の「国歌斉唱」に関する規定の拘束力について注目すべき判断を示しているので、それにも触れることとした。 原告らは、本準備書面において、すでに今までの書面で主張したことの不必要な繰り返しを避けることに留意しつつ、本件訴えの趣旨と、訴外教育長の指示で行った、枚方市教育委員会による本件不法行為について、以下の項目に整理するとともに、できるだけ簡潔にその違法性を明らかにしようとするものである。 第一 原告らの請求の趣旨(本案前の問題も含めて) 原告らの請求の趣旨は以下のとおりであることを、あらためて主張するものである。 原告らの本件訴えは、「真正怠る事実」に関する住民訴訟である。したがって、本案において、原因行為が違法の評価を受けるならば、損害賠償請求権を生じさせるものとなる。 訴外教育長中野一雄の責による不法行為、すなわち本件違法な「調査」(平成14年度入学式の国歌斉唱時、起立しなかった教職員調査。以後「本件調査」という)に対して、財務会計上の権限を有する被告枚方市長は、「本件調査」に従事した職員の(「本件調査」にかかる)給与75,000円を、それ自体は適法な行為として、減額することなく支給した。したがって、その給与の支給がそれ自体は適法な財務会計行為であったとしても、訴外中野による不法行為のために、枚方市は上記損害を被ることとなった。また「本件調査」のために使った事務用紙等の費用として、少なくとも100円以上の損害を枚方市は被った。しかしながら、被告はこれらの損害に対する損害賠償請求権の行使を怠っている(違法に財産の管理を怠る事実)。したがって原告らは枚方市に代位して、被告枚方市長が、怠る事実に係る相手方、訴外中野に対し、上記損害賠償の請求をすることを求めるものである。 参照:「S62.04.10 最高裁第二小法廷・判決 昭和55(行ツ)157 違法支出金補填(民集第41巻3号239頁)」法廷意見についての林藤之輔裁判官の補足意見。 <法二四二条一項の「公金の支出」の意義を以上のとおり解した場合、違法な公金の支出に事実上影響を及ぼしこれを実質的に決定する行為や当該公金の支出の権限を有する職員を財務会計手続とは別の観点から指揮監督する行為については、住民訴訟を提起する途がないのであろうか。もしそうだとすると、違法な公金の支出について責任を負つて然るべき者が単に当該公金の支出につき財務会計上の権限を有しないということだけで免責されてしまうのは法が住民訴訟制度を設けた趣旨を没却し不合理ではないかとの疑問が生じ得ないではない。しかし、この点については次のように考えるべきである。すなわち、そもそも住民訴訟制度は、法二四二条一項所定の違法な財務会計上の行為又は怠る事実を予防又は是正し、これによつて普通地方公共団体が損害を被る事態を回避し又はその被つた損害を回復することを目的とする制度であつて、特定の地位ないし職にある者の行政上の責任を明らかにしこれを追及することを直接の目的とする制度ではない。そして、前記のような行為はその態様によつては普通地方公共団体に対する民法上の不法行為を成立させ、当該普通地方公共団体はその行為者に対し損害賠償請求権という財産を有する場合も考えられるが、もし右債権の管理を違法に怠る事実が存在する場合には、住民は、当該「怠る事実」について、監査請求を経由した後然るべき形態の住民訴訟を提起して、右違法な「怠る事実」の是正を図るとともに当該普通地方公共団体の損害の回復を図ることが可能と解することができる。したがつて、前記のような疑問は当たらないというべきである。> 第二 事実の概要 1.「本件調査」に至る経緯 (1)訴外教育長中野の証言によれば、中野が教育長に就任した1996年4月1日の時点で、枚方市内の市立小中学校では、卒業式・入学式において「君が代」の斉唱は行われていなかった。原告らの経験からしても、そのような事実は承知していない。 (2)訴外教育長中野の証言によれば、同人が市内小中学校の校長に対し、最初に「君が代」斉唱の指示をしたのは、1999年3月(平成10年度)の卒業式についてである(1999年1月18日、平成10年度第7回定例校園長会での「3点」の指示。甲31号証5)。 (3)その後、教育長中野は校長会において、「国旗掲揚」「国歌斉唱」を実施するように頻繁に指示を行った(甲31号証の随所)。2000年1月17日の平成11年度第9回定例校長会において、教育長中野は「国旗及び国歌に関する法律を踏まえて」との前置きをつけて、「4点」の具体的な指示を出し(甲31号証14−2)、2001年1月15日の平成12年度第9回定例校長会では「6点」の具体的な指示を行った(甲79号証)。 そして、「本件調査」の直接の原因である「7点指示」が、2001年11月1日の(平成13年度)第7回定例校長会(甲8号証)と2002年4月1日の平成14年度臨時校長会・園長会で出された(乙6号証)。 (4)教育長中野は、卒業式・入学式における「7点指示」を徹底するために、7点の指示が確実に実施されるかどうかを点検する詳細な事前・事後調査を、2001年末から市内全小中学校を対象に行った。甲45号証、甲80〜84号証に見られるように、原告らが把握している限りでも、平成13年度卒業式と平成14年度入学式の「国旗掲揚・国歌斉唱」に関する事前・事後の調査は合計6回に及んでいる。当日の電話報告も含めれば8回になるであろう。なお、同種の調査は、訴外教育長中野の証言によれば、「平成10年度(1999年)の卒業式から」行っているとのことである。ちなみに、甲83、84号証は、乙3号証に示される教育長の「通知」に対応する平成14年度入学式前・後の実施状況調査結果一覧である。また、このような「7点指示」の実施状況調査は、上記調査のみによって一面的に行われたわけではなく、式に派遣された指導主事からも「実態調査」(甲6、7号証)として、複線的に報告がなされている。 2.「本件調査」の概略 (1)訴外教育長中野は、2002年4月9日付「平成14年度入学式の国歌斉唱時の起立状況について(通知)(報告」(甲4、5号証)によって、入学式の国歌斉唱時に起立しなかった教職員の「氏名と起立しなかった理由」を調査した。これは「7点指示」の3点目「教職員が国歌斉唱時に起立し、斉唱すること。・・・教職員の起立については、起立しない場合、再度起立の指示をすること。」に起因する調査である。 枚方市立全小中学校長からの報告を集計し、市教委は「平成14年度入学式の国歌斉唱時、起立しなかった教職員調査」(甲2、3号証)という標題の一覧表を作成した。(この一覧表には平成13年度卒業式での不起立教職員に関する調査結果も収録されている) (2)上記「平成14年度入学式の国歌斉唱時、起立しなかった教職員調査」に関して、原告松田浩二が「氏名を除いたすべて」を対象として公開請求をしたところ、「【根拠】枚方市情報公開条例第6条第1号に該当 起立しなかった理由(思想、信条、信仰等に関する情報)は個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものであるため」(甲9号証)との理由で2003年2月26日付で部分公開決定が通知された。これによって、市教委が、起立しなかった教職員の思想・信条・信仰に関する個人情報の収集・保管をしていることが明らかになった。 3.「本件調査」後の推移と「審査会」答申について (1)訴外市教委は「本件調査」後の卒業式・入学式についても、今日に至るまで「7点指示」を出し続けているが、不起立教職員の調査については、「起立しなかった理由」の項目を2003年(平成14年度)卒業式での調査から削除した。 (2)また、「本件調査」の当該教員である、原告福山昌也(中学校教員)、訴外堤卓雄(小学校教員)は、枚方市個人情報保護条例第18条に基づいて「氏名と起立しなかった理由」の削除を請求したが、実施機関である枚方市教委は非削除決定を行った。それに対する両名の異議申立てを受けて、市教委は枚方市情報公開・個人情報保護審査会(以下「審査会」という)に諮問を行った。諮問に対して「審査会」は2004年9月24日付で「枚方市教育委員会は、『平成14年度入学式の国歌斉唱時、起立しなかった教職員調査(小学校)(中学校)』内の異議申立人の氏名及び起立しなかった理由を削除すべきである。」との答申(甲66号証2、67号証2)を出した。枚方市教委は、個人情報保護条例第26条2項の答申尊重規定にもかかわらず、これを拒否して2004年11月19日付で非削除の最終決定(甲66、67号証)を行った。このように実施機関が「審査会」の答申を拒否した事例は、1998年に個人情報保護条例が施行されていらい、枚方市においては初めてである。 第三 被告の主張の要旨 被告の主張の要旨は、およそ次のようなものである。 1.学習指導要領に基づく「7点指示」 (1)小・中学校学習指導要領(乙第1・第2号証)の「特別活動」には、「卒業式や入学式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」との記述(以下「国旗・国歌項目」という)があり、市教委が各枚方市立小中学校長(園長も含む)に発した「7点指示」(乙6号証、甲8号証)は、この学習指導要領の「国旗・国歌項目」に基づくものである。また、学習指導要領は「法規としての性質を有する」(最小判平成2年1月18日・通称「伝習館高校事件最高裁判決」)との判例もあるため、教育課程にかかる教育委員会、学校、教職員はこれを遵守することが求められる。 2 地教行法第23条1項5号、第43条1項に基づく権限の行使 (1)教育課程の管理・執行権限 訴外市教委は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という)第23条1項5号によって「学校の組織編成、教育課程、学習指導、生徒指導及び職業指導」に関する事務を管理し、執行する権限を有している。市教委が、教育課程に含まれる特別活動である卒業式・入学式が、学習指導要領に則って適正に実施されているかどうかの(「7点指示」に関する)実施状況調査を行ったところ、学校長の指示にもかかわらず、国歌斉唱時に起立しない教職員がいることがわかった。そこで、前述の実施状況調査と同じく、市教委は、教育課程に関する事務を管理・執行する正当な権限の行使として、「本件調査」(平成14年度入学式の国歌斉唱時、起立しなかった教職員調査)を行ったものである。 (2)教職員の服務監督権限 訴外市教委は、「地教行法」第43条1項によって「市町村教育委員会は、県費負担教職員の服務を監督する」権限を有している。卒業式・入学式の国歌斉唱時に、校長の指示に従わず、起立しない教職員については服務監督上の問題があり、「本件調査」は、この服務監督権限の行使としても行ったものである。 3.「本件調査」の適法性 (1)憲法、教育基本法について 前述のように、「本件調査」は「地教行法」23条1項5号、43条1項に基づく正当な「教育課程に関する事務の管理・執行」及び「教職員の服務監督」権限の行使として行ったものである。したがって、憲法、教育基本法にも違反しない適法な「調査」である。 (2)枚方市個人情報保護条例について 「本件調査」は、教育課程の適正な実施および教職員の服務監督の観点から実施したものであり、教職員の「思想・信条・信仰を調べた」ものではないし、仮に「本件調査」により収集された情報のうちに「思想・信条・信仰に関する事項」が含まれていたとしても、「地教行法」第23条1項5号と第43条1項は、枚方市個人情報保護条例第7条2項ただし書の「法令等の定め」に該当するものであるから、「本件調査」は条例にも違反せず適法である。 第四 原告らの請求の理由(「本件調査」の違法性について) そこで、畢竟、被告は「本件調査」が、憲法、教育諸法、および枚方市個人情報保護条例に違反しない適法な行為だと言うのであるから、原告らは、被告および訴外市教委教育長中野の主張の誤りを、以下の点に即して述べることとする。 1.憲法違反 (1)思想・良心の自由の侵害について。「思想調査」の禁止。 ア)人間の精神活動における自由が、どれほど大切なものであるかということについては、ほんらい、あえて触れる必要のない自明の価値に属している。内面的精神活動としての思想・良心・信教・学問の自由。そして外面的精神活動の自由として、言論・表現・集会・結社・通信の秘密といった自由権の根底を成すこれらの精神的自由の保障は、人、あるいは個人が一個の人間として独立した人格および世界観、人生観、主義、主張や倫理規範を形成し、それを保持、発展あるいは実践するための不可欠の属性となるものである。なかんづく、思想・良心の自由は、それら精神的自由に関する諸規範の根本に位置する行動規範として、外面的精神活動の前提を成すものと捉えられている。戦前の治安維持法などによる予防拘禁も含めた思想弾圧に対する深甚の反省からも、民主主義と個人の尊重を基本原理とする日本国憲法は、これらの自由を基本的人権として、特に明文で定め、それを尊重し保障するものとなっているのである。 したがって、思想・良心の自由の保障と言う場合、以下の点が守られなければならない。@国家権力による特定の思想の強制あるいは排除の禁止。特定の思想を勧奨することも事実上、強制的な働きをする場合が多い。A思想・良心による差別や不利益な取扱いの禁止。B国家権力が思想・良心の自由を侵してはならない以上、個人の思想・良心に関する「沈黙の自由」は絶対的である。個人の思想を告白させたり推知したり、あるいは個人の思想・信条とのつながりが明らかに推知される一定の行動や交友関係、読書傾向などの調査は禁止される。 イ)そこで、「国旗・国歌(日の丸・君が代)」が思想・良心に関わる問題であるかどうかだが、1998年1月20日の大阪高裁判決(大阪市立鯰江中学校日の丸裁判控訴審・確定)「平成8年(ネ)第1143号 損害賠償請求控訴事件」は次のように判示している。 <したがって、国家や地方公共団体が、教師に対し、その職務行為の一環として、日の丸の掲揚された式典の場に出席し、その式典の事務運営をする義務を課したとしても、国旗に対し敬礼させるなど、国旗に対する一定の観念を告白させるに等しい行為を強制する場合は格別として、そのことだけで、ただちに当該教師の思想及び良心の自由を侵害する強制行為があったとすることはできないものというべきである。 もっとも、前記のとおり日の丸については、なお国民の間に激しい意見の対立があるのは事実であり、これらの対立は、個人の思想、信条にかかわる間題であるだけに、日の丸に対する敬意の強調が、思想及び良心の自由を侵害する強制とならぬよう、慎重な配慮が望まれるところである。> 「日の丸」が個人の思想・信条に関わるものであると判示する上記内容が、「国旗(日の丸)」と同じく国家のシンボルである「国歌(君が代)」についても当てはまることは疑問の余地がない。そして、原告らが準備書面(7)で一部取り上げている「国旗・国歌法」制定過程の国会答弁を通じても、このことは再三に渡って確認されている。すなわち「国旗・国歌」つまり「日の丸・君が代」を個人がどのように思い、またそれに対してどのような態度を取るのかということは、個人の思想・良心の自由に関わる重要な問題であって、決して国民に強制されるものではないということであった。 ウ)本件「7点指示」の違憲性については、ここでは繰り返さない。「本件調査」で問題となる「国歌(君が代)」の起立斉唱については、それがたんにどこかに「国旗(日の丸)」が掲揚されるというような「国旗掲揚」がもたらす一般的効果に関わる問題としてではなく、それをはるかに踏み越えて、式に参加する特定の個人に対し、「君が代」という、それが国歌という定義を持つかぎり「天皇が治める世が永久に続きますように」という正当な国語解釈上の意味以外の意味を持ち得ない歌を歌わされる、思想・良心・信条・信仰に関わる行為の「強制」の問題として立ち現れている。「君が代」が国歌という地位にあるかぎり、君が代の君は天皇以外の何者でもなく、「天皇が治める世が永久に続く」ことを祈念する意味としての属性をぬぐい去り、あるいはごまかすことは、客観的には不可能というべきなのである。したがって、「国歌君が代」を正統な日本語として読むかぎり、そこに「さまざまな解釈」があるかのような措辞を振りまいたり宣伝したりすることは、「旭川学テ最高裁判決」が戒めた「間違った知識を植えつける」行為と言っても差し支えなく、およそ詐術の類に属する行為であると言わなければならない。むしろ、さまざまに存在しうるのは、このような意味を持つ「君が代」に対して、個々人がどのような内面の位置づけをするかという、歴史認識とも相まって形成される思想・良心・信仰上の価値形成の多様さなのであって、両者を混同してはならないのである。ゆえに、原告らが準備書面(8)「『日の丸・君が代』が果たした歴史における役割と教育基本法の趣旨」で述べた歴史的事実からしても、「日の丸・君が代」とりわけ「本件調査」で問題となる「君が代」の起立斉唱については、歴史認識と結びついた、深く抜きがたい個人の人格の中心をなす思想・良心の問題として「起立斉唱」を行えない場合が当然ありうるし、それらは思想・良心の自由として、最大限に保障されるべきものとしてある。そして更に配慮しなければならない重要な点は、これから歴史や社会の仕組みを学習し、自らが社会参加していく権利主体としての子どもたちの自由な思想・良心の形成を決して阻害してはならないということであろう。また更に、国家と個人の関係をどのように捉えるかという問題が、近代国家における個人の思想・良心および社会的行動規範に深くかかわる問題としてある以上、拙速に、あるいは性急に、国家や公権力の側から「特定の態度または思想」を正当なものとして、強制するようなことは決してあってはならないということである。 エ)以上の点から考えれば、「君が代」についてどのように思うかという内面における精神活動は、思想・良心の自由にかかわる問題としてあり、「君が代」を起立斉唱し、あるいはしない行為は、それ自体は外形的行為であるとしても、個人の思想(信条)・良心の内容を直截に体現する、一体不可分の告白・表現行為そのものとなりうるということである。したがって「本件調査」は、まず「起立斉唱」を強制している点、そして指示を受けてなお起立しない思想・良心内容を持つ教員の氏名を調査した点、さらに起立しなかった教員から直接、「起立しなかった理由」として当該教員の思想・信条内容を調査した点で明らかに思想・良心の自由を侵害するものと言え、憲法第19条に違反するものである。 なお、念のため言い添えるならば、被告は、教員が全体の奉仕者である公務員である以上、その職務の公共性に由来して思想・良心の自由の内在的制約を甘受しなければならないかのように言う。しかしこのことは、公務員が全体の奉仕者であって、特定の個人や団体の利益のために仕事をするわけではないという、ごく当たり前の姿勢を言っているにすぎない。しかし、たとえ公務員であっても、個人として憲法上の価値である人権の保障が及ぶことに変わりはない。そして人権を制約する場合には、その目的の正当性、および目的と手段の関連性が、憲法が要請する他の価値との関係で厳格に問われなければならないが、被告および訴外教育長中野は、なにゆえ卒業式や入学式で「君が代」の起立斉唱をひとりの例外もなく、これほど徹底しなければならないのかという理由を、未だ学習指導要領の一点張り以上に答えることができない。そして、一定の思想や良心とつながりのある行為について、指示や職務命令に違反したという、あたかも思想・信条による差別的ないし不利益的な取扱いではないかのような名目で、規律の対象として扱うことなどは、とうてい許されることではないと言えよう。 (2)プライバシーの侵害について。 言うまでもなく、憲法第13条の「生命、自由及び幸福追求権」は、日本国憲法全体の基底的原理として捉えられている。そして日本国憲法の三大原理である平和・人権・民主主義も、それぞれが別個にあるものではなく、この「個人の尊重」という基底的原理から導き出されると考えられる。そういう意味からしても、最大限に尊重されなければならない。 「社会の変革にともない、『自律的な個人が人格的に生存するために不可欠と考えられる基本的な権利・自由』として保護するに値すると考えられる法的利益は、『新しい人権』として、憲法上保障される人権のひとつだと解するのが妥当である。その根拠となる規定が、憲法13条の『生命、自由および幸福追求に対する国民の権利』(幸福追求権)である」(芦部信喜「憲法第三版・高橋和之補訂」114頁) そしてすでに最高裁の判例によっても確立している「プライバシーの権利」は、「個人の私的領域に他者を無断で立ち入らせないという自由権的、したがって消極的なものと理解されてきたプライバシーの権利は、情報化社会の進展にともない、『自己に関する情報をコントロールする権利』(情報プライバシー権)と捉えられて、自由権的側面のみならず、プライバシーの保護を公権力に対して積極的に請求していくという側面が重視されるようになってきている。これは、個人に関する情報(個人情報)が行政機関によって集中的に管理されているという現代社会においては、個人が自己に関する情報をコントロールし、自己の情報についての閲読・訂正ないし抹消請求を求めることが必要であると考えられるようになったことに基づく」(同芦部「憲法第三版」118頁) 1970年代以降、コンピューター・ネットワークの発展に伴い、国際的には、自由な個人情報の国際流通をはかる上で、個人情報保護を担保するための基本的な枠組みが次々と打ち出されいる。1980年に出された「OECD8原則」(プライバシー保護と個人データの国際流通についての理事会勧告)は有名なものであるが、こういった国際的要請もあって、地方公共団体が先行する形で個人情報保護条例を策定するなどの個人情報保護制度が遅まきながら整備されてきた。 すなわち「プライバシーの権利」は国際的にも確立し、定着した現代社会にあっては不可欠の人権だということができる。プライバシーは法的保護に値する価値を持ち、個人情報保護条例は、その根拠を憲法第13条においている。したがって、憲法第13条に保障された人権としてのプライバシー権を具体的に保障するものとして制定された個人情報保護条例に違反する不法行為は、憲法第13条に違反するものとなる。国歌斉唱時に「起立しなかった理由」という個人の内心内容まで直接に聴取した「本件調査」が憲法第13条に反する不法行為であることは明らかであるが、枚方市個人情報保護条例違反については後述する。 2.教育基本法違反 原告らは、教育という領域における「日の丸・君が代」の強制が抱える法的または歴史的問題について、引用した西原博史氏の意見書等も含めて、すでに論じてきたので、本準備書面においては、以下の点に絞って述べるものである。 (1)学習指導要領「国旗・国歌項目」の無効。 従来、まるで金科玉条のごとく、全国各地の教育委員会によって利用されてきた学習指導要領の「国旗・国歌項目」について、「福岡地裁ココロ判決」は次のように判示している。 <しかしながら、上記の定めは、国歌を尊重する態度を育てるという教育目的に対しての具体的な指導方法を定めたものであり、また、学校において行われる様々な行事の中で、特に卒業式、入学式という特定の行事において指導を行うべきことを定めたもので、国歌に関する指導や卒業式、入学式の方法という細目についての詳細を定めるものといえ、学習指導要領中に、ほかに教育目的に対して特定の機会をとらえて指導をすべきことを定めた規定が見当たらないことからしても、上記定めは法的拘束力をもって各地方公共団体の教育委員会を制約し、又は教師を強制するのに適切な規定とはいえず、教育内容及び方法について必要かつ合理的な大綱的基準を定めたものであると解することはできない。 したがって、学習指導要領中の卒業式、入学式おける国旗、国歌の指導に関する上記の定めは拘束力を有するものとは解されず、この定めから、各学校では卒業式、入学式において国歌斉唱を実施し、個々の教員がこれを指導しなければならないという一般的な義務を負うと解することはできない。上記の定めは、学校生活に有意義な折り目を付け、また、国歌を尊重する態度を育てるための一つの方法を提示し、特別活動としての学校行事における国歌斉唱の実施を推奨する一般的な指針にすぎないものと解すべきである。(甲78号証54頁)> この「福岡地裁ココロ判決」による「国旗・国歌項目」についての判断は、教育がもっぱら子どもの利益のためにあり、また、教育が、本来人間の内面的価値に関する文化的な営みであるために、教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ、子どもの性に応じて自主的、弾力的に行われなければならず、そのために、教育内容に関する国家的介入はできるだけ抑制的でなければならないとして、学習指導要領を「大綱的基準」として位置づけた「旭川学テ最高裁判決(1976.5.21)」を、ごく正当に適用したものとして受け取ることができる。したがって、「旭川学テ判決」が懸念を示した「その中には、ある程度細目にわたり、かつ、詳細に過ぎ、また、必ずしも法的拘束力をもつて地方公共団体を制約し、又は教師を強制するのに適切でなく、また、はたしてそのように制約し、ないしは強制する趣旨であるかどうか疑わしいものが幾分含まれている」ような項目を糸口にした、教育行政機関による、教育機関と教育内容に対する不当な支配としての「君が代」斉唱の強制を考えるならば、この判示内容は大きな意味を持つ。 (2)教育委員会による「不当な支配」 さらに北九州市教委による「教育の不当な支配」について、「福岡地裁ココロ判決」は次のように論じている。 <国歌斉唱の実施及びその方法について,校長が文部省又は教育委員会の指導,助言に従わざるを得ず,その裁量を行使できない場合には,そのような教育委員会の指導,助言は,教育基本法10条1項にいう「不当な支配」にあたる。(「福岡地裁ココロ判決」66頁)> <…校長に対し、国旗を掲揚した位置、国歌斉唱の方法(ピアノ伴奏かどうか)、国歌斉唱の際に起立しなかった児童、生徒及び教職員の人数等について報告するように求め、教職員に対して職務命令を発することや不起立行為があった場合の現認体制についても指導していることからすれば、被告教育委員会は、各校長が、4点指導に従って君が代斉唱を実施しているか否か、教職員、児童、生徒が起立しているかを監督していたというべきであり、被告教育委員会が校長の任免についての権限を有していることなどをも考慮した場合には、各校長は、卒業式、入学式において、被告教育委員会の4点指導に従って国歌の指導を行った上、教職員、児童、生徒の全員を起立させなければならないという事実上の拘束をうけていたといえる。(同67〜68頁)> (3)訴外教育長中野による「不当な支配」 翻って、上記の観点から枚方市教委による「7点指示」と「本件調査」について見てみるとどうであろうか。 ア)訴外教育長中野自身の証言によっても、1999年卒業式に向けて3点の指示を出したときから、文書報告を各校長に求めている。 こういう入学式,あるいは,卒業式でも結構なんですが,入学式,卒業式についてこういう報告を求めるようになったのはいつごろからですか。 平成10年度の卒業式からです。(中野尋問調書3頁) その後、卒業式・入学式の「国旗・国歌」についての具体的指示は4点、6点、7点へと増えていき、「本件調査」が行われる2002年の卒業式・入学式については、「事実の概要1.(4)」で述べたように、事前事後、合計6回もの文書による調査、報告が執拗に繰り返されている。 しかも、調査は「7点指示」について詳細に行われ、卒業式・入学式当日の電話報告、式に派遣された指導主事からの文書報告も合わせて、入念にチェックがなされている。原告らが知る限りでも、訴外枚方市教委が行っているような詳細な調査は、大阪府内はもちろん、この当時、全国的に見ても類例のないものなのである。そして、7点の指示によって、きわめて具体的に「国旗・国歌」を徹底するための指示をしている点、そこでは舞台を主にした壇上形式への変更と、式場の配置図および国歌斉唱などが行われるときの児童・生徒・教職員・保護者の体の向きの報告まで求めている点、また、「君が代」の歌詞の栞等へのプリント、教員が司会するように指示している点、ピアノ伴奏、「国旗(日の丸)」の掲揚場所まで指示している点。そして卒業式、入学式でどこまで徹底することができたのかという集計結果は、そのつど、式後の校長会で知らされるのである(甲46、47、48、49、58号証)。そのうえ、各市立小中校長に対しては、甲31号証のあちこちに散見するように、訴外教育長中野によって、「市教委と一体となった校長」を強要していることなど、調査、報告、監視、強要と「不当な支配」の条件をすべて満たしているのである。 「職員から『従来通り』と言われて従っているようではいけません。卒業式のときのように行政の出向機関の管理職として認識を持ってもらいたい。」(甲31号証10) 「卒業式の取組みについてやっておられると思いますが、市教委の指示をやりとげるのが、校長の仕事である」「国旗、国歌については、なめられていると思われない態度で立ち向かってほしい。」「新年度から、校長が中心となった学校体制を作ってもらう意味からも、卒業式の取組みをやってもらいたい。」(甲31号証26)等々。 このように、「国旗・国歌(日の丸・君が代)」は、子どものための教育などではなく、トップダウンの管理支配体制を確立するためのもっとも有効な手段として利用されているのである。一体いつから、校長は出向機関の管理職になったのであろうか。学校という教育機関で一体何に立ち向かえと言うのであろうか。強いて「教育」と言うならば、「日の丸・君が代」を通じた指示・命令に無条件に従うことを、卒業式や入学式を通じて教育しているという以外にないであろう。 イ)「本件調査」が訴外教育長中野の権限の濫用であり、それは同時に枚方市の教育の「不当な支配」でもあることは明らかである。 卒業式,入学式に関しては教育課程の中に含まれるものであるということを先ほどお答えいただきましたね。卒業式や入学式の内容は,各学校で決めるものなんですかね。(中野尋問調書9頁) 内容につきましては校長が決定する権限を持っておりますが,教育委員会は地教行法23条5項の規定によりまして.管理執行する権限を有しておりますので,適正に行うような指示ができるものと考えております。 ということは,卒業式の内容,例えば,その国旗,国歌に限らず,ほかの細かい部分に関してもそういう指示ができるということになるわけですかね。 例えば,入学式,卒業式の場合は,儀式としての意義というものを踏まえたようなそういう雰囲気,あるいは.形式になるような,そういう状況に持っていくために指示をすることはできると思っております。 ということは,具体的に言いますと,それはどのような指示になるわけですか。やっぱり,国旗,国歌に関してということになるわけですか。卒業式,入学式というのは,いろんな式次第の中でありますよね,子供たちがいろいろ演じたりとか,歌を歌ったりとかありますよね。 はい,あります。 そういうことではなくて。 そういう,例えば子供たちの平素の活動を生かした部分というようなことは,それは各学校長が判断していくべきことですが,学習指導要領の中で,国旗,国歌,国旗を掲揚し.国歌を斉唱するように指導するものとするというような,そういう部分につきましては,教育委員会が.それが適正に行われるように指示していく,そういう立場にあると考えております。 つまり,その国旗,国歌の部分に関しては指示していく立場にあるし,それができると。 はい。できてない場合は,是正を目指していく立場だと思っております。(中野尋問調書10頁) 教育公務員は教育法令,特に具体的に教育課程を推進していく者は学習指導要領に基づくということは定められておりますから,その中身をきちっと踏まえていく,その努力をしていくということは,当然,校長以下,教職員の責務であると私は思います。だから,それが欠落しているような学校数育をしていってはならないと思って指示をしているわけです。 他の教科に閲しまして.先ほど言いましたように,何年生ではこれができるようにするというようなことが書かれてるんですよね。それについても,あなたは,その調査を行いですね,指示をしたというようなことはないわけですね。 具体的に,各授業のそういうことにつきましては.これは学校長の指示のもとに対応していくべきものでありますが,例えば、教科でも,あるいは,道徳とか.そういうような領域に関しても,最低数えるべき時間数というものが,例えば決められております。それが果たして,きちっと守られているのか,それが子供たちに保証されているのかどうか.そういうことの具体的な事実の確認はいたしております。(中野尋問調書13頁) 以上の証言からもわかるとおり、中野証言は、「7点指示」や「本件調査」が教育委員会としての適正な権限の行使であるという正当な根拠を何ひとつ示してはいない。「地教行法」第23条1項5号は「教育課程」等を管理・執行する教育行政機関としての権限を規定しているにすぎず、学校教育法施行規則第二十五条は、「小学校の教育課程については、この節に定めるもののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとする。」と定めるのみである。けっきょく、これらの規定さえあれば、教育長が重要だと思う事柄については、どのように具体的な教育内容にかかわるものであろうとも、微に入り細に渡って(指導・助言あるいは提案ではなく)指示・命令ができるという権限の濫用を正当化しているにすぎないのである。わかりやすく言えば、教育長にとってさほど重要でないものは校長に、重要なものは教育長が、教育内容に関わるかどうかに関係なく、詳細に指示・命令することができるということを意味している。その判断・権限の合理的根拠が上記法令や大綱的基準にすぎない学習指導要領以外に示されない以上、法令や学習指導要領の趣旨をどのように具体化して指示するかということは、教育長の恣意に任されるというほかはない。そのことを典型的に示すのが、以下の証言である。 よく分からなかったんですが。(中野尋問調書14頁) 本来は,校長が入学式,卒業式を決める権限を持っております。しかし,欠落している部分については,教育委員会がその是正をはかる権限を持っています。それを指示する権限を持っております。そのときに,どういう部分が重要かつ異例の事態かという,この2条2項に該当するぐらい重要であるという認識を持って.この2条2項を挙げたわけです。 だから,2条2項を挙げたということは,あなたの権限として指示したということですね。 そのぐらい重要ですから,是正を求めてくださいというニュアンスで。 ニュアンスより,そのあなたの権限として指示したということですかということをお尋ねしてるわけです。 はい,そうです。(中野尋問調書14頁) 議題にかかわらず,会議として,審議というか,話題にしなかったということですね。(中野尋問調書証言16頁) はい。 会議以外の場で,個人的に教育委員さんどうしが話合いするとか.そ ういう話合いをしたということですか。 はい,そうです。 要するに,教育委員会会議というものがありますね。地方教育行政法に基づいて,教育委員会には会議というものがありますね。その場で話題にしたということはないですか。 そういうことはございませんが.基本的に,教育長は法令に基づいて進めていくわけですから,この事務委任規定の場合でも,重要かつ異例の事態が生じたときは,これを教育長の決定にかからしめなければならないという表現がありますけれども,私自身の個人的なそういうことだけではなくて,教育委員それぞれの教育委員さんのその気持ちとかですね,やっぱり,枚方の教育をいかにしていくべきかという,その認識をしておられる部分,それが双方に一致した形で,私の決定として取り組んでいったわけです。 お尋ねしていることに答えていただきたいんですけども,先ほどお示しした枚方市教育委員会事務委任規則第2条第2項に当てはまるよう なかたちで諮ったことはありませんか。重要かつ異例の場合には,事態が生じたときには,これを委員会に諮らなければならないと。で, その前がついてたわけです。前項の規定にかかわらず,要するに,委任されている事務だから.まあ,言えば教育委員会にある意味ではいちいち報告せんでいいことやけれどもというのはね,これ,感じですわね,前項は事務委任されてると,にかかわらず,委任された事務について.重要かつ異例の事態が生じたら,委員会に諮らなければならないと,これは義務規定ですわね。これにのっとって.今の事態を,卒業式,入学式の起立の問題を諮ったことはありませんかと言うてますねん。 私自身の決定で進めていきました。(中野尋問調書17頁) 裁判長 今原告からご質問があったようなかたちから来て,委員会に諮ったということはないわけですか。 案件として諮ったことはございません。(中野尋問調書17頁) 以上の証言から、教育長中野が枚方市教育委員会事務委任規則第2条2項をどのように認識しているかということがよくわかる。各校長には「重要かつ異例の事態」として、教育長の権限ということで「指示」をしているにもかかわらず、自らの義務について問われれば、「ニュアンスで」と答えていることに驚きを禁じ得ない。教育委員会に案件として諮ることもせず、教育委員どうしの「気持ち」が「一致」しているから独断で指示を出したと言っているのである。訴外教育長中野の恣意に基づく「不当な支配」にほかならない。けっきょく、何が「重要かつ異例」であるのか、ここでも何の説明もなされてはいないのである。それは、次のような「国旗・国歌法」の自己本位な曲解にも見てとることができる。 国旗国歌法は,あなたは、起立しなければ曲げることになるんだということをおっしやってるわけですが,国旗国歌法は御存じですよね。 はい,知っております。 起立するようにということを書いてありますか。 起立するという具体的な表現はありませんけれども,学習指導要領におきまして。 いや,国旗国歌法を曲げること,それはなぜなのかと僕は聞いているんです。 法を遵守するという立場ですね,これを貫くという姿勢を示していくならば,当然,国歌斉唱のときに起立するというのは自然なかたちではないかと思います。(中野尋問調書19頁) これを国会答弁だと考えたらどうなるであろうか。学習指導要領の「国旗・国歌項目」が、「国旗・国歌法」をもしのぐ効力を持っていることに注目すべきであろう。 ウ)学校教育法の前身である「国民学校令」は次のように定めている。 <国民学校令 昭和16年勅令第148号> 第十六条 学校長及教頭ハ其ノ学校ノ訓導ノ中ヨリ之ヲ補ス 2 学校長ハ地方長官ノ命ヲ承ケ校務ヲ掌理シ所属職員ヲ監督ス 3 教頭ハ学校長ヲ輔佐シ校務ヲ掌ル 第十七条 訓導及養護訓導ハ判任官ノ待遇トス但シ学校長又ハ教頭タル訓導ハ奏任官ノ待遇ト為スコトヲ得 2 訓導ハ学校長ノ命ヲ承ケ児童ノ教育ヲ掌ル 3 養護訓導ハ学校長ノ命ヲ承ケ児童ノ養護ヲ掌ル 4 准訓導ハ学校長ノ命ヲ承ケ訓導ノ職務ヲ助ク 学校教育法で「命ヲ承ケ」という文言が削除された意味を、原告らはすでに述べてきた。しかし、あらためて歴史認識とともに銘記しておかなければならないと考える。 3.個人情報保護条例違反 (1)思想・信条・信仰に関わる情報である。 すでに「1.憲法違反(1)イ)」で述べたとおり、「国歌(君が代)」を起立斉唱するかどうかについての個人の内心内容は、思想・信条・信仰にかかわる情報である。「審査会」答申も「従来から、入学式等の式典における国歌斉唱時の各人の行動は、一般に、思想信条に関わる事項として捉えられているところである。つまり、中学校(甲67号証2では「小学校」)入学式における国歌斉唱時に起立しなかったという行動は、当該教職員の思想信条をうかがい知ることができるものであり、本件文書は、結果的に、思想信条に関する個人情報を含んだ事項が記載されていることになる。」(甲66号証2)と明確に指摘しているが、このことについては、甲9号証「部分公開決定通知書」で訴外市教委自身が認めるところである。また、被告も争う意思を示していない。 (2)条例第7条2項ただし書該当性について。 ア)「本件調査」が個人情報保護条例第7条違反であるかどうかを判断する場合、事実として「本件調査」によって当該教員の思想・信条・信仰に関する個人情報が実施機関である訴外市教委によって収集・保管された以上、それを収集する意図が訴外教育長中野にあったかどうかは別としても、条例7条2項が規定する「収集等」(収集、保管又は利用「条例第2条1項3号」甲15号証)に関するただし書要件を満たしているかどうかが問題となる。 したがって「審査会」答申も指摘するように、「本件情報は、条例7条2項に規定する情報に該当し、本件文書の保管については、『法令等の定めに基づくとき又は実施機関が審議会の意見を聴いて必要があると認めたとき』に限られる。」ことになる。「審査会」答申は、すでに収集され保管されている状態の当該情報についての削除請求に関する諮問を受けての答申であるため、「保管」に限って触れているが、条例7条2項ただし書が「収集等」、つまり収集・保管・利用すべてについての共通の要件を規定していることは言うまでもない。 (なお、訴外中野は証人尋問において、「本件調査」をすれば、思想・信条に関する個人情報が収集されることを予想したかという原告の質問に対して「予想しなかった」と答えているが、再三に渡って校長会で「国旗・国歌(日の丸・君が代)」徹底の指示を出し、あまつさえ「思想・信条の問題ではない」(甲31号証−14−2)とまで言い切り、裏返せば「日の丸・君が代」が思想・信条に関わる問題であるとの認識を訴外中野が十分に持っていたと考えられることからすれば、その証言は、にわかには信じがたいものがある。しかし、仮に予想しなかったとしたならば、それは教育長という職務にある者として、重大な過失があったと言うべきである。そして、予想しなければ不法行為をしてもよいという理屈は、当然のことながら成り立たない。) イ)そこで、被告が主張する「地教行法」第23条1項5号と同43条1項が「法令等の定め」にあたるかどうかである。「審査会」答申は次のように述べている。「しかしながら、地教行法23条及び43条1項は、あくまでも包括的な管理執行権限を定めたものであり、一般的な服務監督権を規定したものであると解するのが相当である。その趣旨・目的からみても、地教行法において思想信条に関する個人情報と認められる本件情報を保管することができる権限まで規定していると解することはできない。よって、本件情報の保管は、条例7条2項ただし書の『法令等の定めに基づくとき』に該当しない。」このように「審査会」答申は、明解に実施機関(枚方市教委)の条例違反を指摘しており、その判断には説得力がある。 しかし、訴外市教委はこの答申を拒否し、上記「地教行法23条1項5号と43条1項」が「法令等の趣旨・目的から見て、収集等ができるものと解される場合を含む」(「決定理由説明書」甲22号)場合に該当する、また、被告も「市町村教育委員会の服務監督権限を規定した地教行法第43条1項に包含された権限の行使であり、『枚方市個人情報保護条例』(甲第15号証)第7条2項但し書前段の『法令の定めに基づくとき』に該るもの」と述べているので、その点について簡単に触れておくことにする。 甲85号証は1998年10月に枚方市が作成した「情報公開及び個人情報保護事務の手引き」(以後「手引き」という)であり、実施機関が情報公開・個人情報保護条例に基づく実務を運用するのためのテキストである。ここでは条例7条2項の「法令等の定めに基づくとき」について、次のように解説している。 3 「法令等の定めに基づくとき」とは、法令等に収集できることを明文で定めている場合のほか、法令等の趣旨・目的から見て、収集ができるものと解される場合を含むものとする。例えば、次のようなものがある。 (1)禁治産者又は受刑者の本籍地の市町村長からの事実関係の通知(公職選挙法第11条3項) (2)職員採用に係る欠格条項の照会(地方公務員法第16条) (3)立候補の届出(公職選挙法第86条) これらの例示を見てもわかるように、「明文で定めている場合のほか、法令等の趣旨・目的から見て、収集ができるものと解される場合」とは、たとえば要件審査をする際に、その法令が特定の個人情報を収集することを明文で定め、あるいは予定している場合を指している。「地教行法」第23条1項5号や43条1項がこれに該当しないことは明白である。 (※なお「禁治産者」という用語については、現在は使用しておらず、法令等においても「成年被後見人」に変更されているが、「手引き」はまだ改訂されていないので、作成当時のままになっている) ウ)「審議会」への諮問 「法令等の定め」に基づかない場合、実施機関は枚方市情報公開・個人情報保護審議会(以後「審議会」という)に諮問しなければならない。それが条例第7条2項ただし書の要請である。したがって条例に限った適法性の問題として言うならば、訴外教育長中野は、「本件調査」を実施するにあたっては「法令等の定め」がない以上、「審議会」の意見を聴いて、その必要性を認める答申を得る義務を、枚方市に対しても負っていたというべきである。したがって「本件調査」については、「審査会」答申も言うように「法令の根拠もなく、審議会への諮問も行っていないことから、条例7条2項ただし書に該当しない」明らかな条例違反、不法行為と言わざるをえない。 服務調査という名目であれば、個人のプライバシーや思想・信条に関わる情報を何でも集めることができるというものではもとよりない。服務に関する調査だから、プライバシーや内心の情報ではないという理屈も筋違いである。条例第7条2項ただし書が直接に求める要件や権限は、たとえば何らかの調査を行うにあたって、当該機関にその調査全体を行う正当な権限があるかどうかというようなことではない。調査によって禁止された個人情報が収集されるような場合に、その収集が可能となるための必要な法的根拠と、必要な手続きを条例は求めているのである。それらの要件を満たすことがないならば、少なくとも条例が禁止した個人情報を収集する権限はないと知るべきである。 エ)市教委は条例を遵守する義務がある。 「地教行法」は、教育委員会がその職務を遂行するにあたって、条例を遵守しなければいけない義務を次のように定めている。 <地方教育行政の組織及び運営に関する法律> (教育委員会規則の制定等) 第十四条 教育委員会は、法令又は条例に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、教育委員会規則を制定することができる。 (事務処理の法令準拠) 第二十五条 教育委員会及び地方公共団体の長は、それぞれ前二条の事務を管理し、及び執行するに当つては、法令、条例、地方公共団体の規則並びに地方公共団体の機関の定める規則及び規程に基かなければならない。 (学校等の管理) 第三十三条 教育委員会は、法令又は条例に違反しない限度において、その所管に属する学校その他の教育機関の施設、設備、組織編制、教育課程、教材の取扱その他学校その他の教育機関の管理運営の基本的事項について、必要な教育委員会規則を定めるものとする。(以下省略) 第五 結び 以上、述べてきたように、訴外教育長中野一雄は、教育長として、日本国憲法、教育基本法および枚方市個人情報保護条例を遵守する義務を負い、また枚方市に対して、適正な教育事務を行う義務を負っていたにもかかわらず、これらの任務に違背して「本件調査」を行った。訴外教育長中野の本件不法行為によって、枚方市は原告ら請求の損害を被っている。被告枚方市長は、訴外中野に対し、「第一 請求の趣旨」記載の損害賠償請求をしなければならない。 貴裁判所が、上記内容の判決を出されることを、原告らは心底より望むものである。 以 上 添付書証 ・甲78号証 2005年4月26日「福岡地裁ココロ判決」全文(写) ・甲79号証 2001年1月15日、第9回定例校長会「6点指示」部分(写) ・甲80号証 平成13年度卒業式の実施について(平成14年2月28日現在)(写) ・甲81号証 平成13年度卒業式の実施について(平成14年3月15日/3月8日現在)(写) ・甲82号証 平成13年度卒業式の実施について(平成14年3月19日/3月13日現在 学校文書報告)(写) ・甲83号証 平成14年度小学校入学式における国旗掲揚・国歌斉唱実施状況(第1回4/2提出分、第2回4/8 提出分)(写) ・甲84号証 平成14年度中学校入学式における国旗掲揚・国歌斉唱実施状況(第1回4/3提出分、第2回4/8 提出分)(写) ・甲85号証 個人情報保護事務の手引き(P80〜81)(写) ・甲86号証 サンデー毎日記事 2005年3月27日号(写) ・甲87号証 サンデー毎日記事 2005年4月17日号(写) ・甲88号証 大阪弁護士会勧告(写) ・甲89号証 岩波ブックレットNo645「学校に自由の風を!」(原本) ・甲90号証 岩波ブックレットNo647「音楽は心で奏でたい」(原本) |