準備書面(4)                                                 「スミぬり裁判をすすめる会のページに戻るトップページに戻る               


■ 2004年3月5日付被告準備書面
■ 2004年3月12日付原告準備書面(5)




                       準 備 書 面(4)(求釈明申立書)

   平成15年(行ウ)第60号
                              2004年1月27日

   大阪地方裁判所民事7部 御中
                              原告 松田浩二 他29名
                              被告 枚方市長 中司 宏



                    記

第一 はじめに


 「請求の原因」である「平成14年度入学式の国歌斉唱時、起立しなかった教職員調査」(以下、「本件調査」と記す)の違法性についての弁論を行うにあたり、原告らは、まず次のことを強調しておきたいと思う。
 今日、学校現場においては、「日の丸・君が代」の強制を道具とした国家−教育委員会による教育統制が、ますます苛烈に推し進められている。
 訴外市教委も含めた、「法規の濫用」や学習指導要領の「国旗・国歌項目」を金科玉条とした「問答無用」の強制は、あたかも教職員が戦前の大日本帝国憲法下における特別権力関係にあるかのごとき様相を呈してきている。
 しかしながら、「問答」こそは、教育の本質に連なる、もっとも重要な教育の方法であり、むしろ「問答」こそが、唯一の「自主的精神に充ちた」(教育基本法第1条)、個人の自立した精神を育む手段であるはずである。そして、そのことは、民主主義を健全に機能させ、発展させる、民主主義の根幹を構成する不可欠の要素でもあるはずである。
 訴外市教委が行った「7点指示」とそれに基づく「本件調査」の実質的内容が、憲法に保障された自由権の根底に位置する「思想・良心の自由」や、個人情報保護条例が保障する「思想・信条・信仰等に関する個人情報の収集の禁止」の領域に介入しようとするものである以上、被告(ならびに訴外市教委)は、権力的な形式論を振りかざすばかりでなく、まず、憲法と教育基本法に照らした、しかるべき教育的内容をともなった正当な根拠を、自らの責任として説明しなければならない。
 
 原告らは、以下に述べるように「本件調査」の違法性にかかる問題点を整理し、求釈明を行うものである。被告の答弁を待ち、同時に各項目の詳細については、今後の準備書面において論ずるつもりであるが、後述するように、被告は2003年12月3日の東京地裁(請求棄却)判決(平成14年行ウ第51号・戒告処分取消し請求事件・乙第5号証一、二・以下、「東京地裁判決」と記す)に無条件に仮託・便乗しており、不用意のそしりをまぬがれない。よって原告らは、次回準備書面において、この判決が、援用し、あるいは便乗するに値しない水準のものであることを指摘するつもりである。あわせて、今後の弁論予定についても明らかにしていく所存である。 
  
    
第二 被告の主張の要約


 「平成15年8月19日付答弁書」ならびに「平成16年1月7日付被告準備書面」による被告の主張を要約すれば、以下のとおりである。

 1.小・中学校学習指導要領(乙第1・第2号証)には「卒業式や入学式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」と書かれており、訴外市教委が出した「7点指示」(甲8号証)はこの学習指導要領の国旗・国歌項目に基づくものである。また、学習指導要領は「法規としての性質を有する」(最小判平成2年1月18日・通称「伝習館高校事件最高裁判決」)という判例もあるため、これを遵守しなければならない。

 2.そして、訴外市教委は「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(以下、「地教行法」と記す)の第23条によって「教育課程」に関する事務を管理し、執行する権限を有し、また、同法第43条1項によって、「教職員の服務を監督する」権限を有している。
 また、校長も「学校教育法」第23条8項(中学校については同法第40条)により「校務をつかさどり、所属職員を監督する」権限を有している。

 3.したがって、訴外市教委が、学習指導要領の「国旗・国歌項目」に則って2001年11月7日に定例校長会で出した「7点指示」とそれに基づく校長による同内容の教職員への「指示」(職務命令)は正当な権限の行使である。ゆえに、その「指示」(職務命令)に従わない教職員の服務状況の調査もまた上記「地教行法」「学校教育法」に基づく正当な権限の行使であって、仮にその調査によって収集された情報の中に「思想・信条・信仰等に関する個人情報」が含まれていたとしても、それは教職員の「思想・信条・信仰等」を調べたわけではなく、地教行法第43条1項に包含される服務監督権限であり、枚方市個人情報保護条例が規定する「法令の定めがあるとき」に該当する適法な調査である。

 4.2003年12月3日の「東京地裁判決」によれば、音楽教員に「君が代」ピアノ伴奏を命じた職務命令は適法であり、「思想・良心の自由」は公務員の職務の公共性において制約を受けるものと判示されている。したがって、本件における「起立を命じた指示」(職務命令)も、「不起立教職員調査」もまた適法であり、「思想・良心の自由」を侵害したことにはならない。


第三 被告の主張は驚くべき我田引水の強弁である。 


 1.驚くべきことに、「被告準備書面」は事実のすりかえを行っている。すなわち、事実としても唯一存在していた「指示」を「職務上の命令」(1、(4)Aおよび2、(2)B)へと無造作に、あるいはなしくずしに「格上げ」し、「指示」を「職務命令」と同義のものとして論じているのである。「職務上の命令」が「職務命令」と同義であることは疑いのないところだが、「指示」と「命令」は同一・同義ではない。恣意的な豹変というべきであろう。

 2.このようなすりかえを目の当たりにすれば、素朴に次のような疑問が生じざるをえない。つまり「平成14年度第7回定例校長会指示伝達事項」(メモ)(甲10号証)には「入学式において起立をしなかった教職員…事前に直接指導を。指導については、現認者をおき、記録を残しておくよう」と明記されているのだが、「準備書面」で示すところの被告の論法によれば、ここに言う「指導」もまた「命令」と同義なのであろうかということである。

 3.思うに、枚方市においては(少なくとも本件調査が行われた2002年卒・入学式までは)事実として存在しなかった「命令」という言葉を、被告が突如として「準備書面」に折り込ませた唐突さの理由は、12月3日東京地裁判決に仮託・便乗するためであると考えざるをえない。「指示」よりも、より強力な「職務命令」であればこそ、その「命令」に従わない教職員の行為はますます許されないものとなり、東京地裁の「職務命令適法判決」を楯に、本件「7点指示」と「不起立教職員調査」が、あたかも「職務命令」に基づく適法な権限の行使であるかのように重ね合わせることができるからである。このように恣意的で、かつ我田引水の手法でもって、「地教行法」第43条1項を拡大解釈し、それが枚方市個人情報保護条例第7条2項に記された  「法令等の定めがあるとき」に当てはまるかのようなこじつけ、強弁は厳に戒めるべきであろう。

 4.そして、「地教行法」第43条2項は次のように明記されている。

2 県費負担教職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、当該市町村の条例及び規則並びに当該市町村委員会の定める教育委員会規則及び規程(前条又は次項の規定によつて都道府県が制定する条例を含む。)に従い、かつ、市町村委員会その他職務上の上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

 この条文が示すとおり、教職員は条例に従わなければならない。このことは、当然のことながら、教育委員会、校長もその権限の行使に当たっては条例に従う、あるいは条例との齟齬が生じないようにすることが当然の前提となることを意味している。したがって、同法第43条1項の「市町村委員会は、県費負担教職員の服務を監督する。」という、いわば具体性を欠く一般的規定が、個人情報保護条例第7条2項の「思想・信条に関する個人情報の収集」を可能ならしめる例外規定である「法令等の定め」がある場合にそのまま適用できるという主張は、そもそも論理構造上、成立しないのである。
 もしも、そのような主張が大手を振ってまかり通るならば、訴外市教委の「服務監督権限」はいわば万能で無限定な切り札となってしまい、その服務監督権限の具体的内容がどのようなものであろうとも、条例の但し書きをくぐり抜けることができるのである。そのようなことになれば、もはや条例の但し書きなど何の意味も持つことはなく、それどころか、条例を無視することによって、逆に、「地教行法」第43条2項に違反する結果すら招来してしまうことが論理的に導き出されるのである。

 5.さらに、「地教行法」第43条1項(服務監督権限)をもって、教育委員会が「思想・信条に関する個人情報」を収集することができるとするならば、「調べたわけではない」と言いつつも、「本件情報は…(中略)起立しなかった理由を聴取したところ当該教職員から述べられたものであり、個人情報の収集を目的としたものではないが、記録する内容を選択することは公正さを欠くことになるのでそのまま記録したものである。」(甲19・20号証非開示等決定通知書)と訴外市教委が述べている論法でもって、「思想・信条・信仰等に関する個人情報」をいくらでも収集することが可能となるのである。
 たとえば、この情報の中に、支持政党や組合に入っているかどうか、あるいは信仰する宗教名や社会的差別を誘発するおそれのある個人情報が含まれていたとしても、「公正さを欠くことになる」ので、すべて収集、保管したまま削除しないということであろうか。
 あらためて述べるまでもないが、個人情報の収集は当該本人から収集することが当然の原則であるとしても、個人情報保護条例第7条2項は、「本人が述べた」ことをもって収集可能な例外規定とはしていないのである。

 6.仮に百歩譲って、正当な「公共の福祉」のために「外部的行為」の制約が認められるとしても、「君が代の起立斉唱」がそれに該当するのかどうか、問題が「思想・良心の自由」という「合憲性審査基準」に関わる問題であるだけに、厳格審査が求められるところである。そして、さらに百歩譲って、万が一、思想・良心形成過程にある子どもたちの権利保護などよりも、学習指導要領の一細目を強権的に貫徹し、教職員の「思想・良心の自由」を制約することが、より「公共の福祉」や「利益」にかなうものであったとしても、制約されるべき個人の「思想・良心・信条・信仰等」に関する情報を収集することは、まったく別の問題であることは明らかなのである。個人の思想・良心に関する内容については、それが例えば「踏み絵」のような間接的な方法によっても、推知されることは許されないことなのである。

 7.そもそも、問題は次のように立てられるべきである。

(1)なにゆえ学習指導要領に記された「国旗・国歌項目」のみが、これほどまでに突出した形で、命令を伴い、しゃにむに強調、徹底されなければならないのか。

 ア)異常とも思える学校現場での強制、処分の実態は、とりわけ1999年の「国旗・国歌法」成立前後を境にして凄惨なまでに激烈の度を強めている。(甲23号証、山陽新聞記事・24号証、サンデー毎日記事)これは氷山の一角にすぎない。

 イ)文科省と地方教育委員会は「学習指導要領」の「国旗・国歌項目」のみを、その「指示」あるいは「職務命令」の唯一の根拠として振りかざしてきた。しかしながら、それが「思想・良心の自由」を制約する正当な根拠となりうるのかどうか、そこにおいて、問題の根本的検証は行われなければならない。

 ウ)被告が引用している「伝習館高校事件最高裁判決」で問題となった高等学校学習指導要領は1958年文部省告示のものであって、「国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」という現在の「強制表現」に文言が改訂されたのは1989年以降のことである。そして、この伝習館高校事件で問題となったのは、「国旗・国歌項目」ではなかった。

 エ)「学習指導要領」全般についての一定の理論的判断を示した最高裁判決は1976年の「旭川学力テスト事件判決・判例S51.05.21 大法廷・判決 昭和43(あ)1614 建造物侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反」(以下、「旭川学テ判決」と記す)であるが、この判決では、特に教育基本法第10条との関係で、教育に対する国家の介入や不当な支配、また、学習指導要領について論じているのだが、学習指導要領については「大綱的基準として是認できる」ものという判断を示しており、学習指導要領の一言一句、細目の一文にいたるまでが「法的拘束力」や「強制力」を持つ性格のものであると判示しているわけではない。なかんづく、「…その内容においても、教師に対し一方的な一定の理論ないしは観念を生徒に教え込むことを強制するような点は全く含まれていないのである。それ故、上記指導要領は、全体としてみた場合、教育政策上の当否はともかくとして、少なくとも法的見地からは、上記目的のために必要かつ合理的な基準の設定として是認することができるものと解するのが、相当である。」(対象となったのは1958年学習指導要領)とあるように、とりわけ「思想・良心の自由」に関わる領域に関しては、格別の注意を喚起しているのである。

 オ)したがって、「国旗・国歌法」には、もとより何らの義務規定もないこと。教育委員会が「君が代斉唱」を強制する唯一の根拠が依然として、国会の審議も議決も経ていない文部省告示にすぎないところの学習指導要領の一細目である「国旗・国歌項目」であること。そしてその学習指導要領は、最高裁(大法廷)判例(「旭川学テ判決」)においては「大綱的基準」としては是認できるものとして判示されているものとしてあり、仮にその内容において、ある程度の「法的拘束力」を持つ部分があったとしたとしても、枝葉末節の細目にいたるまで、「法的拘束力」を持つものではなく、また、どの部分が「強制的規定」であり、どの部分がそうでないのかという基準についても何ら分明ではないこと。さらに付け加えるならば、現実には、学習指導要領に掲げられた各教科の目標が、学校現場で、全ての項目において完遂されているわけでも、また、調査されているわけでもないのである。なにゆえ、「君が代の起立斉唱」のみが血眼になって強制され、調査され、処分の対象にまでされるように徹底されなければならないのか。

 カ)以上の理由から、現行学習指導要領の「国旗・国歌項目」について、個別の問題として、合憲であるのか否か、教育基本法第10条に違反していないのかどうか、また、その「国旗・国歌項目」に基づくところの「7点指示」とそれに基づくところの「本件調査」について、厳格に審査されるべきものであると考える。被告には、まず、それを明らかにする責任があるのである。


(2)「東京地裁判決」は、職務命令によって「君が代のピアノ伴奏」を本人の意志に反して強制した場合、「思想・良心の自由」に関わる問題として、憲法第19条に違反する可能性があることを認めている。そして、個人の内面における精神的活動と外部的行為との関係において、権利としての外部的行為が制約される場合がありうるとの問題設定を行った。しかしながら、学習指導要領の「国旗・国歌項目」や「教育公務員の職務の公共性」あるいは「公務員の全体の奉仕者性」といった、もっとも重要な問題について、個別具体的な合憲性審査、検証を行ってはいない。
 「法規・命令・服務監督」のみを強調するばかりで、憲法や教育基本法に基づく立論を示そうとしない被告および訴外市教委が、この「東京地裁判決」を詳細に検討したうえで「被告準備書面」に引用し、そして便乗したのかどうか、はなはだ疑わしく感じるところだが、水準の高低はともかくとして、判決であることに違いはないのである。

 上記事件については2003年12月8日に控訴手続がなされており、その判決内容の不十分さから、今後、修正されるべきものであると原告らは考えているが、被告が本件「7点指示」と「本件調査」との類似性、あるいは重複性において、被告の行為の正当性を立証するために持ち出してきた以上、原告らとしては、まず、「東京地裁判決」について検討、反論を準備するつもりであるが、より厳密を期するために、専門家による綿密な分析、意見も含めて、詳細な立証を行うことが必要不可欠であると考える。 

   
第四 求釈明申立て


 以上述べてきた理由に基づき、原告らは以下の点について、被告に誠意ある釈明を求めるものである。

 1.「指導」「指示」「命令」、それぞれは同一・同義のものであるのか明らかにされたい。同一・同義でないとすれば、それぞれの定義を明らかにしていただきたい。

 2.訴外市教委、校長が、「本件調査」が行われるまでに、卒業式・入学式の「7点指示」および「君が代の起立斉唱」に関することで、「職務命令」を発した事実があるのかどうか、具体的に証明されたい。

 3.「7点指示」について、合憲性審査基準に照らして、厳格審査に基づき、その適法性を明らかにされたい。

 4.「本件調査」について、合憲性審査基準に照らして、厳格審査に基づき、その適法性を明らかにされたい。

 5.学習指導要領のどこが指導・助言であり、また、どこが強制規定に該当するのか、その基準と合理的根拠を含めて明らかにされたい。

 6.学習指導要領の「国旗・国歌項目」について、合憲性審査基準に照らして、厳格審査に基づき、適法性を明らかにされたい。

 7.なぜ、これほどまでに学習指導要領の「国旗・国歌項目」だけが徹底されなければならないのか、その理由を明らかにされたい。

 8.教職員は特別権力関係にあるのか、明らかにされたい。
 
 9.基本的人権たる「思想・良心の自由」を制約してまでも、「君が代の起立斉唱」をひとりの例外も許さずに徹底しなければならない「教育公務員の職務の公共性」とは何であるのか、明らかにされたい。

 10.訴外市教委は「本件調査」について、「服務監督の観点から行った調査であり、思想・信条に関する個人情報を調べたのではない」と述べているが、「本件調査」の「理由」(中学校)「起立しなかったことの確認」(小学校)の中に、情報公開条例に基づいて公開できる「服務に関する」情報があるのかどうか、明らかにされたい。

 11.被告は「地教行法」第43条1項が、個人情報保護条例第7条2項の但し書き「法令の定めがあるとき」の法令にあたると主張しているが、「地教行法」第43条1項は「服務監督権限」を一般的に規定したものにすぎず、個人情報を収集する場合には、法令においても、より具体的な収集情報の指定がなされなければならない。それゆえ、訴外市教委は情報公開・個人情報保護審議会に諮問することが当然求められる妥当な手続であったはずである。なぜ、諮問しなかったのか、理由を明らかにされたい。

 12.「本件調査」を行えば、「思想・信条・信仰等に関する個人情報」が収集されるということを、訴外市教委は予想していたのかどうか、明らかにされたい。


       以  上

 



※ 添付書証

  甲23号証    2003年12月23日付 山陽新聞(共同通信配信)記事(写)
  甲24号証    「サンデー毎日」2004年1月25日号 「ここまできている『日の丸・君が代』強制の壮絶現場」(147頁〜150頁)(写)


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