最 高 裁 判 所 判 例 集 判 決 全 文 表 示 ◆ H09.12.18 第一小法廷・判決 平成8(オ)1361 通行妨害排除 判例 H09.12.18 第一小法廷・判決 平成8(オ)1361 通行妨害排除(第51巻10号4241頁) 判示事項:   いわゆる位置指定道路の通行妨害と妨害排除請求権 要旨:   建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する。 参照・法条:   民法1条ノ2,民法198条,民法199条,建築基準法42条1項5号 内容:  件名  通行妨害排除 (最高裁判所 平成8(オ)1361 第一小法廷・判決 棄却)  原審  H08.02.20 東京高等裁判所 主    文      本件上告を棄却する。      上告費用は上告人らの負担とする。           理    由  上告人らの上告理由について  一 建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定(以下「道路位置指定」という。)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。  けだし、道路位置指定を受け現実に開設されている道路を公衆が通行することができるのは、本来は道路位置指定に伴う反射的利益にすぎず、その通行が妨害された者であっても道路敷地所有者に対する妨害排除等の請求権を有しないのが原則であるが、生活の本拠と外部との交通は人間の基本的生活利益に属するものであって、これが阻害された場合の不利益には甚だしいものがあるから、外部との交通についての代替手段を欠くなどの理由により日常生活上不可欠なものとなった通行に関する利益は私法上も保護に値するというべきであり、他方、道路位置指定に伴い建築基準法上の建築制限などの規制を受けるに至った道路敷地所有者は、少なくとも道路の通行について日常生活上不可欠の利益を有する者がいる場合においては、右の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、右の者の通行を禁止ないし制限することについて保護に値する正当な利益を有するとはいえず、私法上の通行受忍義務を負うこととなってもやむを得ないものと考えられるからである。  二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。  1 原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、昭和三三年ころ本件土地周辺が大規模な分譲住宅団地として開発された際、各分譲地に至る通路として開設された幅員四メートルの道路であり、昭和三三年一月一三日、川崎市長から道路位置指定を受けた。  2 本件土地は、右の道路位置指定以後三〇年以上にわたり、被上告人らを含む近隣住民等の徒歩及び自動車による通行の用に供されている。  3 被上告人らは、肩書の住所に居住し、自動車を利用する者である。被上告人らがその居住地から自動車で公道に出るには、公道に通じる他の道路が階段状であって自動車による通行ができないため、本件土地を道路として利用することが不可欠である。  4 上告人らは、昭和六一年一二月九日、贈与により本件土地の所有権(持分各二分の一)を取得した。  5(一) 上告人らは、平成三年九月ころ、被上告人らを含む本件土地近辺の住民に対し、同年一二月末日までに上告人らと本件土地の通行に関する契約を締結しない車両等の本件土地の通行を禁止するという趣旨のビラをまいた。  (二) 上告人らは、右(一)と前後して、専ら被上告人らの自動車通行をやめさせる意図の下に、本件土地に簡易ゲート等を設置した。その結果、被上告人らは、自動車で本件土地を通行するたびに、いったん下車して右簡易ゲートを取り除かなければならなくなり、通行を妨害されている。  (三) 上告人らは、平成四年二月八日、被上告人らの所属する自治会に対し、同年一二月末日をもって本件土地の通行を不可能にする工事を施工することがある旨を通知した。  三 右事実関係に基づいて検討する。  被上告人らは、道路位置指定を受けて現実に道路として開設されている本件土地を長年にわたり自動車で通行してきたもので、自動車の通行が可能な公道に通じる道路は外に存在しないというのであるから、本件土地を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているものということができる。また、本件土地の所有者である上告人らは、被上告人らが本件土地を通行することを妨害し、かつ、将来もこれを妨害するおそれがあるものと解される。他方、右事実関係によっても、上告人らが被上告人らの右通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情があるということはできず、他に右特段の事情に係る主張立証はない。  したがって、被上告人らは、上告人らに対して、本件土地についての通行妨害行為の排除及び将来の通行妨害行為の禁止を求めることができるものというべきである。  四 以上と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。  よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。      最高裁判所第一小法廷          裁判長裁判官    藤   井   正   雄             裁判官    小   野   幹   雄             裁判官    遠   藤   光   男             裁判官    井   嶋   一   友             裁判官    大   出   峻   郎 裁判集の裁判書画像データ