最高裁3小 判決 82.04.13 昭52(行ツ)122 不当労働行為救済命令取消 棄却
伊藤裁判官の補足
【ホテルオークラ】(民事判例集36巻4号659頁)
原審 東京高裁 77.08.09
1審 東京地裁
判示事項
ホテル従業員の労働組合の「リボン闘争」が、正当な労働組合活動にあたらないと
された事例
要 旨
ホテル業を営む会社の従業員で組織する労働組合が、ホテル内において就業時
間中に組合員たる従業員が各自「要求貫徹」等と記入したリボンを着用するというリ
ボン闘争を実施した場合において、その目的が、主として、結成後三か月の同組合の
内部における組合員間の連帯感ないし仲間意識の昂揚、団結強化への士気の鼓舞とい
う効果を重視し、同組合自身の体造りをすることにあつたなど判示のような事情があ
るときは、このリボン闘争は、就業時間中の組合活動であつて、労働組合の正当な行
為にあたらない(労働組合法7条
)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人馬場正夫、同田中庸夫、同西道隆の上告理由について
本件リボン闘争について原審の認定した事実の要旨は、参加人組合は、昭和四
五年一〇月六日午前九時から同月八日午前七時までの間及び同月二八日午前七時から
同月三〇日午後一二時までの間の二回にわたり、被上告会社の経営するホテルオーク
ラ内において、就業時間中に組合員たる従業員が各自「要求貫徹」又はこれに添えて
「ホテル労連」と記入した本件リボンを着用するというリボン闘争を実施し、各回と
も当日就業した従業員の一部の者(九五〇ないし九八九名中二二八ないし二七六名)
がこれに参加して本件リボンを着用したが、右の本件リボン闘争は、主として、結成
後三か月の参加人組合の内部における組合員間の連帯感ないし仲間意識の昂揚、団結
強化への士気の鼓舞という効果を重視し、同組合自身の体造りをすることを目的とし
て実施されたものであるというのである。
そうすると、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件リボン闘争
は就業時間中に行われた組合活動であつて参加人組合の正当な行為にあたらないとし
た原審の判断は、結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違
法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、
採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判
官伊藤正己の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。
上告理由第一点の所論は、要するに、本件リボン闘争は参加人組合の正当な争
議行為にあたるものであるし、更に、それが争議行為にあたらないとしても、労働組
合の正当な組合活動の範囲内に属するものであつて、いずれにしても、被上告人がそ
れを理由に就業規則に基づいて本件各懲戒処分をしたことは不当労働行為にあたる、
と主張するものである。これに対して、法廷意見は、本件リボン闘争は就業時間中の
組合活動であつて、参加人組合の正当な行為にあたらないと判示している。私もまた
それに同調するが、この判断は、労働組合の団体行動の正当性について重要な論点を
提起するものであるから、いささか私見を補足しておきたい。
一 労働組合の争議行為とは何かを明確に定義づけることは困難であり、恐ら
くは、労働組合の団体行動が争議行為にあたるとすることによつてどのような法的効
果を生ずるかに応じて多少とも異なる意味をもつものとして理解されるべきものと思
われるが、一般的にいえば、労働組合が、その主張の示威又は貫徹のためにその団体
の意思によつて労務を停止すること(怠業や残業拒否のように不完全な停止を含む)
が争議行為に該当すると解される。この立場にたつても、たとえば労働組合法による
民事免責等に関して、このような争議行為に随伴してされる行為(ピケ行為等)も争
議行為のうちに含ましめることはありうるが、このような随伴的行為はそれ自体とし
て争議行為とはならない。そう考えると、業務の性質によつては、リボン闘争自体が
労務の停止に等しいと考えられる場合がありえないものではないから、一切のリボン
闘争が争議行為にあたらないとすることはできないとしても、一般的には、リボン闘
争は、類型として争議行為にあたらないというべきである。原審の適法に確定した事
実によれば、本件リボン闘争は、法廷意見の示すような態様で行われたのであるか
ら、これを争議行為としてとらえることは相当ではない。したがつて、争議行為に就
業規則が適用されるかどうか、また具体的な本件リボン闘争が争議行為として正当性
をもつかどうかを判断する必要はないと考えられる。
二 それでは、本件リボン闘争を労働組合の組合活動としてとらえるときに、
その正当性を認めることができるか。いわゆるリボン闘争は、労務を停止することな
く、就業時間中に労働組合員である労働者が組合の決定に基づき一定のリボンを着用
する形態をとるものであるから、ここでは、就業時間中にこのような組合活動が許さ
れるかどうかが問題となる。
一般に、就業時間中の組合活動は、使用者の明示又は黙示の承諾があるか又
は労使の慣行上許されている場合のほかは認められないとされているが、これは、労
働者の負う職務専念義務、すなわち労働契約により労働者は就業時間中その活動力を
もつぱら職務の遂行に集中すべき義務を負うことに基づくものとされている。もしこ
の義務を厳格に解し、およそ就業時間内においては、職務の遂行に直接関連のない活
動が許されないとすれば、当然に、組合活動をすることは認められず、リボン闘争は
違法と判断されることとなる。当裁判所は、政治的内容をもつ文言を記載したプレー
トの着用行為につき、すべての注意力を職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき
義務に違反し、職務に専念すべき職場の規律秩序を乱すものであると判断している
(昭和四七年(オ)第七七七号同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一巻七
号九七四頁)。この判旨は、職務専念義務について、就業時間中には一切の肉体的精
神的な活動力を職務にのみ用いるべきであるという厳格な立場をとつたものとみられ
るが、このプレート着用が組合の活動でなかつたこと、プレートに記載された文言が
政治的な内容のものであつて、その着用が政治活動にあたること、それが法律によつ
て職務専念義務の規定されている公共部門の職場における活動であつたことにおい
て、本件とは事案を異にするといつてよい。
労働者の職務専念義務を厳しく考えて、労働者は、肉体的であると精神的で
あるとを問わず、すべての活動力を職務に集中し、就業時間中職務以外のことに一切
注意力を向けてはならないとすれば、労働者は、少なくとも就業時間中は使用者にい
わば全人格的に従属することとなる。私は、職務専念義務といわれるものも、労働者
が労働契約に基づきその職務を誠実に履行しなければならないという義務であつて、
この義務と何ら支障なく両立し、使用者の業務を具体的に阻害することのない行動
は、必ずしも職務専念義務に違背するものではないと解する。そして、職務専念義務
に違背する行動にあたるかどうかは、使用者の業務や労働者の職務の性質・内容、当
該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断されることになる。このように解すると
しても、就業時間中において組合活動の許される場合はきわめて制限されるけれど
も、およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえないであろ
う。
そこで、所論のように本件懲戒処分が不当労働行為となるためには、原審の
適法に確定した事実関係のもとにおいて、右のような見解に照らして本件リボン闘争
が正当として許されるものでなければならない。この点に関しては、原審が本件リボ
ン闘争の特別違法性として説示するところは是認することができ、したがつて、本件
リボン闘争は、参加人組合の組合員たる労働者の職務を誠実に履行する義務と両立し
ないものであり、被上告人の経営するホテルの業務に具体的に支障を来たすものと認
められるから、それは就業時間中の組合活動としてみて正当性を有するものとはいえ
ない。
三 なお、服装規定の違反に関する所論についても、一般にリボン闘争が使用
者の定める服装規定に違反して正当性を欠くものであるかどうかはともかく、原審の
適法に確定した事実関係のもとでは、本件リボン闘争が被上告人経営のホテルにおい
て服装規定に違反するものであるから正当な行為たりえないとした原審の判断は、正
当として是認することができる。
以上の理由により、私は、原審の判断は結論において正当と認めるのであり、
論旨は採用することができないと考える。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 環 昌 一
裁判官 横 井 大 三
裁判官 伊 藤 正 己
裁判官 寺 田 治 郎