事件番号 平成11(行ツ)241 事件名 選挙無効請求事件 裁判年月日 平成12年09月06日 法廷名 最高裁判所大法廷 裁判種別 判決 結果 棄却 判例集巻・号・頁 第54巻7号1997頁 原審裁判所名 東京高等裁判所 原審事件番号 平成10(行ケ)242 原審裁判年月日 平成11年06月29日 判示事項 公職選挙法一四条、別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の合憲性 裁判要旨 平成六年法律第四七号による参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の改正の結果、選挙区間において、同二年の国勢調査による人口に基づく議員一人当たりの人口及び右改正当時における議員一人当たりの選挙人数にそれぞれ最大一対四・八一及び最大一対四・九九の較差が残ることとなったとしても、右改正をもって国会の立法裁量権の限界を超えるものとはいえず、右改正後の議員定数配分規定の下において、人口を基準とする右較差は同七年一〇月の国勢調査結果によれば最大一対四・七九に縮小し、同一〇年七月一二日施行の参議院議員選挙当時における選挙人数を基準とする右較差は最大一対四・九八であったことなどにかんがみると、公職選挙法一四条、別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は、右選挙当時、憲法一四条一項に違反していたものということはできない。(反対意見がある。) 参照法条 憲法14条1項,公職選挙法14条,公職選挙法別表第3 主    文 本件上告を棄却する。      上告費用は上告人らの負担とする。           理    由  上告人兼上告代理人山口邦明、同森徹の上告理由について  一 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の 平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解するのが相当である。しかしながら、憲法は、どのような 選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い 裁量にゆだねているのであるから、投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準 としているものではなく、投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目 的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具 体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって投票価値 の平等が損なわれることになっても、やむを得ないと解すべきである。  ところで、参議院議員選挙法(昭和二二年法律第一一号)は、参議院議員の選挙について、参議院議員二 五〇人を全国選出議員一〇〇人と地方選出議員一五〇人とに区分した上で、全国選出議員については、全 都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方、地方選出議員については、都道府県を単位とする選 挙区において選出されるものとし、各選挙区ごとの議員定数につき、憲法が参議院議員は三年ごとにその半 数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるよ うに配慮し、定数は偶数としその最小限を二人として、人口に比例する形で二人ないし八人の偶数の議員数 を配分した。昭和二五年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は参議院議員選挙法の議員 定数配分規定をそのまま引き継ぎ、その後、沖縄返還に伴い沖縄県選挙区の議員定数二人が付加された 外は、平成六年法律第四七号による議員定数配分規定の改正(以下「本件改正」という。)まで右定数配分 規定に変更はなかった。なお、昭和五七年に参議院議員が比例代表選出議員一〇〇人と選挙区選出議員 一五二人とに区分されることになったが、比例代表選出議員は全都道府県を通じて選出されるものであっ て、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の全国選出議員と同様であり、選挙区選出議員 は従来の地方選出議員の名称が変更されたにすぎない。本件改正も右のような参議院議員の選挙制度の 仕組み自体を変更するものではない。  右のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用した趣旨から、参議院議員の選出方 法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持た せようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙 区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と 実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思 を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。したがっ て、公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効 果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会にゆだねられた立法裁量権の 合理的行使として是認し得るものである。  そうである以上、その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人 口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれるこ ととなったとしても、これをもって直ちに右の議員定数の定めが憲法一四条一項等の規定に違反して選挙権 の平等を侵害したものとすることはできない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値 の平等の要求は、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準とする選挙制度の場合と比較して、一定の譲 歩を免れない。また、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき、それをど のような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求 するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務 と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。したがって、議員定数配分規定の制定又は改 正の結果、右のような選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底 看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこと、あるいは、その 後の人口異動が右のような不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれ を是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき 国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初め て議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。  以上は、最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七日大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁 (以下「昭和五八年大法廷判決」という。)、最高裁平成六年(行ツ)第五九号同八年九月一一日大法廷判 決・民集五〇巻八号二二八三頁(以下「平成八年大法廷判決」という。)、最高裁平成九年(行ツ)第一〇四 号同一〇年九月二日大法廷判決・民集五二巻六号一三七三頁(以下「平成一〇年大法廷判決」という。)の 趣旨とするところでもあって、これを変更する要をみない。  二 右の見地に立って、以下、平成一〇年七月一二日施行の参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。) 当時の公職選挙法の一四条及び別表第三の参議院(選挙区選出)議員定数配分規定(以下「本件定数配分 規定」という。)の合憲性について検討する。 【要旨】本件改正前の参議院議員定数配分規定の下で、昭和五八年大法廷判決は、昭和五二年七月一〇 日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差一対五・二六 (以下、較差に関する数値は、すべて概数である。)について、また、最高裁昭和六二年(行ツ)第一二七号 同六三年一〇月二一日第二小法廷判決・裁判集民事一五五号六五頁は、昭和六一年七月六日施行の参 議院議員選挙当時の右最大較差一対五・八五について、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等 状態が生じていたとするには足りない旨それぞれ判示していたが、平成八年大法廷判決は、平成四年七月 二六日施行の参議院議員選挙当時の右最大較差一対六・五九について、違憲の問題が生ずる程度の著し い不平等状態が生じていた旨判示するに至った。原審の適法に確定した事実関係等によれば、本件改正 は、右のような選挙区間における較差を是正する目的で行われたものであり、直近の同二年一〇月実施の 国勢調査結果に基づき、できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし、かつ、いわゆる逆転現象を解消す ることとして、七選挙区で改選議員定数を四増四減したものであり、その結果、右国勢調査による人口に基 づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は、最大一対六・四八から最大一対四・八一に縮小し、 いわゆる逆転現象は消滅することとなった。その後、本件定数配分規定の下において、人口を基準とする右 較差は、同七年一〇月実施の国勢調査結果によれば最大一対四・七九に縮小し、選挙人数を基準とする右 較差も、本件改正当時最大一対四・九九であったところ同年七月二三日施行の参議院議員選挙当時におい ては最大一対四・九七に縮小していた。平成一〇年大法廷判決は、本件改正の結果残ることとなった右の 較差について、投票価値の不平等が到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえ ず、右選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判 示している。そして、本件選挙当時における選挙人数を基準とする右較差が最大一対四・九八であったこと は、当裁判所に顕著である。  前記のとおり、参議院議員の選挙制度の仕組みの下においては、投票価値の平等の要求は一定の譲歩 を免れないところであり、また、較差をどのような形で是正するかについては種々の政策的又は技術的な考 慮要素が存在する。さらに、参議院(選挙区選出)議員について、議員定数の配分をより長期にわたって固 定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策とし て合理性を有するものと解される。これらにかんがみると、本件改正の結果なお右のような較差が残ることと なったとしても、右の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、当該選挙制度の仕組みの下にお いて投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達してい るとはいえず、本件改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえない。そして、前記のような本件改 正後の本件定数配分規定の下における議員一人当たりの人口の較差及び選挙人数の較差の推移にかん がみると、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできな い。  三 以上のとおりであるから、本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということ はできないとした原審の判断、結論において是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響のない説 示部分を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。  よって、裁判官河合伸一、同遠藤光男、同福田博、同元原利文、同梶谷玄の反対意見があるほか、裁判官 全員一致の意見で、主文のとおり判決する。  裁判官河合伸一、同遠藤光男、同福田博、同元原利文、同梶谷玄の反対意見は、次のとおりである(裁判 官遠藤光男、同福田博、同梶谷玄については、本反対意見のほか、後記の追加反対意見がある。)。  われわれは、多数意見とは異なり、本件定数配分規定は憲法に違反するものであって、本件選挙は違法 であると考える。その理由は、以下のとおりである。  一 投票価値の平等の憲法上の意義  国会議員を選挙する国民の権利の内容、すなわち投票価値が平等であるべきことは、国民の基本的人権 としての法の下の平等の当然の帰結として、また、国権の最高機関である国会を全国民の代表として構成す るための基本原理として、憲法の要求するところであり、選挙制度の決定に当たって考慮されるべき極めて 重要な基準である。  もっとも、右の投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定するに当たっての唯一、絶対の基準ではなく、 国会は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるため、他の目的ないし理由をもしんしゃく することができるのであって、国会がこれらをしんしゃくして具体的に定めた選挙制度がその裁量権の行使と して合理性を是認し得るものである限り、それによって投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを 得ないというべきである。  したがって、国会が定めた選挙制度によって投票価値の平等が損なわれることとなった場合には、それが 国会の裁量権の合理的な行使によるものといえるか否かが審査されなければならず、より具体的には、国 会は他のいかなる目的ないし理由をしんしゃくしてそのような制度を定めたのか、それらの目的ないし理由は 憲法の観点から見ていかなる地位ないし意義を認められるものであり、ことに投票価値の平等とはいかなる 関係に立つのか、投票価値の平等が損なわれた程度は右両者の関係に適切に照応しているということがで きるか等の諸点が吟味されなければならない。  二 本件仕組みと多数意見のいうその合理性の根拠  参議院議員の選挙制度の仕組みとその推移は多数意見の詳述するとおりであるが、現行の選挙区選出議 員の選挙制度の要点は、(1)総定数を一五二人とし、(2)都道府県を単位とする選挙区を設け、(3)各選挙 区にその人口の多少を問わずに二人の定数を配分し、(4)その余の定数(五八人)を一部の選挙区に二人 以上の偶数で追加配分するというところにある。  右のような仕組み(以下「本件仕組み」という。)を採用すれば、選挙区間における議員一人当たりの選挙 人数及び人口に較差が生じ、程度の問題こそあれ、投票価値の平等が損なわれることになるのは必至であ る。それにもかかわらず本件仕組みが採用されたことの合理性の根拠を、多数意見は、次のように説明す る。すなわち、本件仕組みは、(一)憲法が二院制を採用した趣旨から、参議院議員の選出方法を衆議院議 員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせる意図の下 に、(二)都道府県が歴史的、政治的、経済的、社会的に一つのまとまりを有する単位と把握し得ることから、 その住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味したものである、というのである。  三 参議院の独自性と投票価値の平等  憲法は、衆議院と参議院について、その権限及び議員の任期等に差異を設けている。このことからすれ ば、参議院における代表制の内容ないし機能に衆議院におけるそれとは異なる独自の要素を持たせること (以下「参議院の独自性」という。)は憲法の予定しているところということができよう。したがって、多数意見の いう前記二の(一)のように、参議院の独自性を確保することを目的として、その議員の選挙制度について衆 議院議員のそれとは異なった仕組みをとることも、憲法上一定の合理性を認めることができる。  しかし、参議院の独自性は憲法上予定されているところであるにしても、それ自体は投票価値の平等と対 立あるいは矛盾するものではないし、衆議院議員の選挙制度の仕組みと異なる選挙制度の仕組みは、投票 価値の平等を損なうものしかあり得ないわけでもない。参議院の独自性を確保するという目的から必然的に 本件仕組みが導かれるものではないし、まして投票価値の平等が損なわれることの当然の根拠となるもので もないのである。  四 都道府県代表的要素と投票価値の平等  本件仕組みによって投票価値の平等が損なわれたのは、多数意見のいう前記二の(二)、すなわち、平成 八年大法廷判決の表現にならえば、本件仕組みに事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素 (以下「都道府県代表的要素」という。)を加味したことの結果である。すなわち、参議院の独自性を確保する ためにいかなる要素に着目し、いかなる選挙制度を採用するかについては複数の選択肢があるところ、国会 が、それらのうちから都道府県代表的要素を選び、本件仕組みに組み込んだことによるのである。  しかし、都道府県代表的要素は、憲法に直接その地位を有しているものではなく、選挙制度の仕組みを決 定するに当たって考慮される要素として、憲法の観点からみるとき、前述のとおり極めて重要な基準である投 票価値の平等に対比し、はるかに劣位の意義ないし重みしか有しないことは明らかである。  また、参議院議員は、選挙区選出議員といえども、全国民を代表するものであることは憲法の定めるところ であって、各選挙区たる都道府県ないしその住民の利益の代弁者となるべきものではない。それにもかかわ らず、その選挙制度の仕組みに都道府県代表的要素を加味することが許されるのは、それによって各地域 の実情を国政に反映させるところに意味があると認められるからである。すなわち、国会において全国的な 施策を決するについても、各地域の実情とそれに伴う各地域住民の意向を理解しておくことが望ましく、これ を理解して国政に反映させるための一つの方策として、各都道府県からその地域に精通した議員が常に参 議院に選出されるようにしておくことが有効であると考えられるからである。しかしながら、右に関する状況 は、本件仕組みが昭和二二年の参議院議員選挙法(ただし、地方選出議員の総定数は一五〇人)によって 採用されて以来、本件改正に至るまでの間に、大きく変化した。通信、交通、報道の手段が著しく進歩し、全 国に展開したことによって、地域間の事情の相違は大幅に減少した上、国会において、選挙区選出議員の 活動によらずに、各地域の実情や住民世論の動向を知ることも容易になった。この変化に伴い、参議院議員 選出の仕組みに都道府県代表的要素を加味することの必要性ないし合理性は著しく縮小したと見るべきで ある。  五 追加配分方法とその理由  本件仕組みのうち前記二の(4)の追加配分は、参議院議員選挙法では各選挙区の人口に比例する方法 で行われたが、以来初めての改正である本件改正においては人口比例によらない方法で行われた。本件改 正の結果、後記のとおり、投票価値の著しい不平等が生じているのであるが、もし右の追加配分を徹底して 人口に比例する方法で行っていれば、この不平等の程度を有意に縮小することが可能であったことは、計算 上明らかである。  国会がいかなる目的ないし理由をしんしゃくして人口比例によらない追加配分方法を採ったのかは、必ずし も明らかでないが、本件改正の経緯からすると、定数増減の対象となる選挙区を少なくすることにその理由 があったものと推測される。そして、多数意見はこれを「議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民 の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能を持たせる」ものとして、合理性を有するものと解するごとく である。しかし、本件改正に即して考えると、それは、本来の人口比例配分によれば定数を増加されるべき 選挙区の国民の選挙権の犠牲において、本来定数を削減されるべき選挙区の国民の利害と意見を安定的 に国会に反映させることとするものであって、憲法の投票価値平等の要求に正面から違反するものである。  本件改正において人口比例によらない方法で追加配分をした理由が定数削減の対象となる選挙区を少な くすることにあったとすれば、それが憲法上正当にしんしゃくし得る目的ないし理由といえないことは明らかだ といわなければならない。  六 本件定数配分規定の下での投票価値の不平等  平成二年の国勢調査による人口を基準として、本件定数配分規定の下で、選挙区間における議員一人当 たりの人口の較差は最大一対四・八一であり、一対四を超える選挙区が他にも五区あったこと、また、定数 四人以上の選挙区間における定数二人を超える議員一人当たりの人口の較差が最大一対三・一四であり、 一対三を超える選挙区が他に二区あったことが、当裁判所に顕著である。本件定数配分規定の下で生じて いた投票価値の不平等が著しいものであったことは明らかである。  このような不平等が生じた原因は、基本的には、都道府県代表的要素を加味した本件仕組みにあるとこ ろ、右要素自体は、憲法上にその地位を有するものではなく、選挙制度を定めるに当たって極めて重要な基 準として憲法の要求する投票価値の平等に対比し、はるかに劣位にあるにすぎない。しかも、本件仕組みが 最初に採用された昭和二二年当時に比べて、右要素を加味することの必要性ないし合理性は大幅に縮小し た反面、その間の人口偏在化によって、本件仕組みを維持する限り、投票価値の不平等は拡大するほかな い状態となっていた。したがって、本件改正に当たり、本来、国会は、本件仕組みを維持するにしても、投票 価値の平等が損なわれる程度をできる限り小さくするよう、配慮するべきであった。しかるに、国会は、そのよ うな配慮をせず、かえって、追加配分について、何ら憲法上正当に考慮し得る目的ないし理由もなしに、人口 比例によらない方法を採用した結果、前示のとおり投票価値の著しい不平等が残ることとなったのである。  七 結論  以上のとおり、本件定数配分規定の下においては投票価値の平等が著しく損なわれているところ、憲法上 これを正当とすることのできる立法目的ないし理由を見いだすことはできない。本件改正における国会の裁 量権の行使は合理性を是認できるものではなく、その許される限界を超えていることは明らかであって、本件 定数配分規定は憲法に違反するものと断定せざるを得ないのである。  本件選挙は、本件定数配分規定に基づいて施行されたものであるところ、その当時の選挙人数を基準とす る最大較差は一対四・九八であり、いわゆる逆転現象が新たに生じていたことも認められる。したがって、本 件選挙には憲法に違反する定数配分規定に基づいて施行された瑕疵が存したことになるが、最高裁昭和四 九年(行ツ)第七五号同五一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二二三頁及び最高裁昭和五九年 (行ツ)第三三九号同六〇年七月一七日大法廷判決・民集三九巻五号一一〇〇頁の判示するいわゆる事情 判決の法理により、主文において本件選挙の違法を宣言するにとどめ、これを無効としないことが相当と考 える。  裁判官遠藤光男の追加反対意見は、次のとおりである。  私の意見は、前記反対意見に要約されているとおりであるが、私は、本件定数配分規定の改正方法自体 に問題があったと考えるので、その点についての私の意見を補足的に明らかにしておくこととする。  参議院の発足に際し、参議院議員選挙法は、地方選出議員一五〇人の配分を定めるに当たり、各都道府 県選挙区に対し二人ずつの定数を一律に配分した上(沖縄を除く四六都道府県の地方選出議員の総数九 二人)、残余の五八人を一定の基準に基づき特定の選挙区に対しそれぞれ偶数ずつ付加配分するものとし た。地方選出議員のうち六〇パーセントを超える部分が人口比例によることなく一律に配分され、かつ、付加 配分についても偶数配分が前提とされていたわけであって、この方式が選挙区間における議員一人当たり の人口又は選挙人数の較差増大をもたらした最大の要因となったことは否定し難いところである。  右方式は、憲法が定めた三年ごとの半数改選に対応するため導入されたものと思われるが、三年ごとの半 数改選は全国的規模においてこれをみれば足りるのであるから、改選期に選挙を実施しない選挙区が生じ ることがあっても何ら差し支えはなく、各選挙区に対する一律配分や偶数配分にこだわる必要性は全くなか ったはずである。また、そのような事態を避けようとするのであれば、都道府県を一律に一選挙区とすること 自体を改めればよく、人口の少ない選挙区を統合し、あるいは、人口の多い選挙区を分割すればよかったは ずである。  しかし、都道府県を選挙区の単位としたことは、それなりに理解し得ないことではなく、改選期に選挙を実施 しない選挙区が生じることは、当該選挙区における選挙人感情等からすると、必ずしも当を得た制度というべ きではない。したがって、参議院議員選挙法が残余の五八人につきいわゆる最大剰余方式(その内容につ いては、平成八年大法廷判決の私の追加反対意見において要約したとおりであり、一種の徹底した人口比 例配分方式である。)を採用したことにかんがみると、私は、残余議員の配分につきこのような人口比例配分 方式を維持することを前提としてのみ、前記配分方式の合理性を是認することが可能であると考える。  時代の推移とともに、大幅な人口の変動が生じ、選挙区間における議員一人当たりの人口又は選挙人数 の較差は一層増大し、平成四年七月施行の参議院議員選挙においては、その最大較差は一対六・五九に 達したが、その間改正らしい改正はほとんど行われたことがなかった。  平成六年法律第四七号による本件改正は、このような状況下において実に四七年ぶりに行われた改正で あったが、この改正が前記較差の是正を目的としてされたものである以上、その作業は、少なくとも参議院議 員選挙法施行当時の原点に立ち返り、同法が採用したのと同じ方法によりこれを行うべきであった。すなわ ち、付加配分については、前記最大剰余方式と呼ばれる人口比例配分方式によるべきであったのである。と ころが、本件改正は、このような方法によることなく、増減の対象となる選挙区をできる限り少なくするとの方 針の下に、主として逆転現象を解消することを意図し、併せこれに連動して選挙区相互間の最大較差の縮小 を図ることを目的として行われたものにすぎなかった。この結果、わずか四選挙区につき八名が増員され、三 選挙区につき八名が減員されるにとどまった。付加配分部分につき人口比例配分方式を採用したとすれば、 増減員の対象となる選挙区数及び議員数がこれよりはるかに増大することはいうまでもないが、この方式を 採用することは極めて容易なはずであり、またこの方式を採り得なかった特別の事情が何ら存しなかったに もかかわらず、この方式を採ることなく、単に目先の改善策を図ることのみを目的として法改正が行われたの であって、その手法は、正に弥縫策といわれてもやむを得ないものであった。  付加配分部分につき人口比例主義の貫徹を重視すべきであるとすれば、その結果として、当然のことなが ら付加配分がされた選挙区(定数が四人以上の選挙区)間における付加配分議員(定数二を超えた議員)一 人当たりの人口又は選挙人数の較差が適正に維持されているか否かが問題とされるべきことはいうまでも ない。  私は、そのような観点から、平成八年大法廷判決及び平成一〇年大法廷判決において、定数が四人以上 の選挙区間における定数二を超えた議員一人当たりの人口又は選挙人数の較差をみることが肝要であり、 少なくとも、その較差が三倍を超えることがあってはならず、かつ、全選挙区間における議員一人当たりの人 口又は選挙人数の最大較差が五倍を超えることがあってはならないと指摘したが、もし仮に、参議院議員選 挙法施行当時採用された人口比例配分方式に基づき本件改正が行われたとすれば、前者の較差が最大 一・八六倍、後者の較差が最大四・六三倍にとどまることが明らかである。これに対し、本件改正の結果、後 者の最大較差は六・四八倍から四・八一倍に縮小したとはいえ、前者につき、その較差が三倍を超える選挙 区が依然として三選挙区も存在するのであるから、本件定数配分規定は違憲であると考える。なお、本件選 挙当時、選挙人数を前提とした選挙区間の最大較差は四・九八倍であり、一部の選挙区間においてはいわ ゆる逆転現象が生じたほか、付加配分選挙区間における付加配分議員一人当たりの選挙人数の較差もわ ずかながらとはいえ更に増大したことが認められるから、本件定数配分規定が本件選挙当時引き続き違憲 状態にあったことはいうまでもないところである。  裁判官福田博の追加反対意見は、次のとおりである。  一 はじめに  多数意見は、要するに、選挙に関する立法については国会に広範な裁量権があり、従来の最高裁判例が 衆議院議員選挙については三倍程度、参議院(地方選出ないし選挙区選出。以下同じ。)議員選挙について は六倍程度までの最大較差を合憲としてきていることに照らせば、今回問題となっている参議院議員選挙の 最大較差は五倍未満に収まっており、当然に合憲であるというものと理解される。  このような考え方が当を得ていないことは、前記反対意見及び私が他の機会に述べた諸意見(参議院議員 選挙に関する平成一〇年大法廷判決における裁判官尾崎行信、同福田博の追加反対意見、衆議院議員選 挙に関する最高裁平成一一年(行ツ)第七号同年一一月一〇日大法廷判決・民集五三巻八号一四四一頁 における裁判官福田博の反対意見のうち参議院議員選挙にも共通する部分)で十分述べてあるが、今回 は、やや異なる視点から、最高裁判所が一連の定数訴訟に関する従来の考えを改め、投票価値の平等は 憲法に定められた基本的人権であって厳格に遵守されるべきものであり、国会が裁量によりこれを左右し得 る幅は極めて小さい旨を明らかにすることが司法の責務に沿うこと、また、その必要性は急速に高まってい ることを追加して述べることとしたい。  二 裁量の幅について  選挙によって選ばれる国会議員が自らを選出する有権者の投票価値を決定する広範な裁量権を有すると いうのは、そもそも一般の常識からいって甚だ奇妙であるが、その点をさておくとしても、本来、裁量権とは、 裁量権者がある行為をするに際し、その行為を規制する憲法や諸法令の下で、その行為の目的ないし理由 やこれに関する諸事情に照らして幾つかの選択肢が存在する場合に、その選択について認められるべきも のである。したがって、ある者(行政庁、会社取締役等)の裁量権行使の適法性(合憲性を含む。)を審査す る場合には、その裁量権者がその行為(不作為を含む。)を行った目的ないし理由やこれに関する諸事情が 具体的に問われなければならない(これを以下内容審査」という。)。国会は国権の最高機関(憲法四一条) であるが、その権威は有権者の選挙により議員が選出されるところに基づいていることは憲法前文等にいう 国民主権の原理等からも明らかである。さらに、選挙を通じてこの国民主権を具体的に行使できる場面は、 国については国会議員選挙のみであり、行政府の長の選出は含まれないというのが我が国憲法の定めであ る。そして、我が国憲法の定める代表民主制は、議員選挙及び議会における採決(この中には行政府の長 を選出することも含まれる。)双方の場にあって、多数決の原理を採用しており、その際投票の価値が異なる ことを想定していない。すなわち、国会議員選挙において国民の行使する選挙権が平等でなけれ ば、我が国憲法の規定する近代民主主義国家は具現されないこととなる。有権者に平等な機会を与えない ことを国会の「広範な裁量権」なるものをもって正当化するのは、結局のところ裁量の論理をもって内容審査 を十分にしないで合憲判断を行うことに等しい。憲法には衆参両院の選挙制度において投票価値の平等に ついて差を設けるといった明文の規定がなく、また、国会自身の選択により現実に衆参両院の選挙制度が 極めて似通ってきているにもかかわらず、ひとり投票価値の平等の問題については、「複雑かつ高度に政策 的な考慮と判断」があるとして、衆議院議員選挙の場合と参議院議員選挙の場合とで選挙区間における投 票価値の較差の許容される限度について大きな相違の存在を容認し続けているのは、その適例である。こ れでは、司法は、せっかく違憲立法審査権を付与されながらも、定数訴訟のように民主主義政治の根幹を成 す問題の合憲性を判断するに当たって、立法府の決定をほぼ自動的に追認する機関と化し、「広範な裁量 権」というブラック・ボックスに逃げ込んでいるとの批判を避けることはできない。ちなみに、平成四年七月二 六日施行の参議院議員選挙に関する平成八年大法廷判決における多数意見は、右選挙当時の最大較差 一対六・五九について、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨初めて述べたが、右 意見は、平成六年の本件改正(最大較差は五倍弱に改められた。)の後に表明されたものである。  また、そもそも違憲立法か否かを判断するに当たっては、憲法の諸規定に反しないか否かの観点から行わ れるべきことは当然であって、憲法に「選挙に関する事項は、法律でこれを定める」(四七条)とあることをもっ て国会に広範な裁量権が認められると解するならば、それは事実上その法律によって憲法の定めるところを 変更ないし譲歩させることを認めるに等しい。そうであれば、結局のところ、司法に与えられた違憲立法審査 権の行使は、憲法の中に「法律による」という規定があるか否かで内容が異なる二重の基準で行われること になる。憲法の保障する基本的人権は、憲法に「法律による」と記されているか否かを問わず、ほとんどの場 合法令によってその内容が具体化されているのが現実であり、具体的な法律が憲法に合致しているか否か の審査の基準は、憲法に「法律による」と規定されているか否かによって異なるものではない。  三 司法に憲法判断の権限が与えられていることについて  憲法は、最高裁判所が違憲立法についての判断を行う権限を有する終審裁判所であることを定める(八一 条)。このような権限は、義務を伴うことも当然であって、最高裁判所は、違憲の疑いがあるときは、たとえそ れが国会議員の地位取得に直接影響を及ぼし司法と立法府の対立を招きかねない問題であっても、厳正に 判断を行わなければならない立場にある。  参議院議員選挙において当初から二・六二倍の較差が宮城地方区と鳥取地方区の間に存在したことは、 当時の投票価値の平等の重要性についての認識の程度を示し、我が国における民主主義体制ないし基本 的人権理念の未熟性を現していたといえるが、その後の大幅な人口異動により、最大較差が六倍以上にな ったにもかかわらず、国会は、四七年間にわたり何らの是正もすることなく事態を放置し、本件改正に当たっ ても微温的な修正しか行わず、そのため五倍近くの較差が依然として残っている規定の合憲性が問われて いるのが今回の事件である。司法は、その合憲性を判断するに当たっては、立法府に許される裁量権の行 使が憲法の定める基本的人権の保障に反するものでないか等を厳格に審査することが求められる。  その審査に当たっては、例えば「過疎への配慮」などといった、後年になっていたずらに拡大していく最大較 差を放置するため考案された理由付けなど、参議院議員選挙法の制定に際して国会が考慮しなかった目的 ないし理由やこれに関する諸事情を裁判所が考慮して合憲性を認めようとすることは許されない。そのような 目的ないし理由やこれに関する諸事情を判断の根拠にすることは、その限りにおいて裁判所が国会に代わ ってある種の政策的判断を行うことになるものというべきところ、そのような政策的判断は、選挙によって選 出された構成員から成る立法府にのみゆだねられたものであって、裁判所がこれを行うことは、選挙によっ て選出されていない構成員から成る組織をあたかも第二の国会のごとく機能することを認めることにつながり かねず、憲法の予定しないところというべきである。我が国憲法において、民主的に選挙によって構成されて もいない機構である司法(最高裁判所裁判官の国民審査が選挙とは異なることは自明である。)が法令につ いて合憲か否かを判断する権限を与えられているのは、正に、代表民主制によって成り立っている立法府が 政策的配慮によって策定する法律がときとして憲法に合致していない可能性があること等を想定し、それを 判定する機構として司法制度を利用することが有用であろうとしたからにすぎない。  ちなみに、我が国憲法は、違憲立法審査を他の裁判と同様に最高裁判所を頂点とする司法にゆだねると いういわゆるアメリカ型を採用しているが、国際的にみれば、欧州大陸などを始めとして、いわゆる憲法裁判 所を他の事件を扱う裁判所とは別個に設けるものも多いことは、公知の事実である。  四 判例の変更の必要性について  先例が尊重されるべきことは、憲法にかかわる裁判であると他の裁判であると異なるところはなく、司法が 最も尊重すべき原則の一つである。それは、仮にも裁判官の考え一つにより判例が頻繁に変更されるといっ たことになれば、それは司法への信頼と社会の安定に資さないからである。しかし、ここで問われているの は、代表民主制の根幹を成す、投票価値の平等という重要な問題である。憲法が施行されて五三年、その 間における基本的人権理念の明確化は目覚ましい。加えて、国会は参議院議員選挙における投票価値の 平等が損なわれていくのを四七年間も放置し、かつ、その後行った是正の程度も甚だ微温的かつ不十分で あり、その背後には違憲立法審査権を持つ司法の長年にわたる極めて寛容な対応があったことも明らかで ある。  憲法に定める国民主権とは国民各人が平等に国政に参加する権利を有していることをも意味しており、そ の代表民主制を通じての貫徹は、国政に参加する唯一の手段である国会議員選挙において国民の投票価 値を平等とすることによってのみ具現される。法の下の平等の問題について、最高裁判所が長年にわたる先 例の積重ねにもかかわらずこれを変更して違憲と判断した先例は、尊属殺人についての法定刑の例(最高 裁昭和四五年(あ)第一三一〇号同四八年四月四日大法廷判決・刑集二七巻三号二六五頁)もあり、皆無で はない。私は、次に述べる事情もあり、定数訴訟に係る累次の最高裁判決を明示的に変更する時期が来て おり、かつ、その必要性は焦眉の急であると信ずる。  五 今日における違憲審査の在り方について  三権それぞれについて改革論議が高まる中(司法の改革についても、司法内部のみの論議にとどまらず、 現在行政の主導の下に論議が行われていることは、公知の事実である。)、二一世紀を目前に控え、我が国 の代表民主制の担い手である国会が内外の新しくかつ重大な諸問題に対し国民の信託を受けて有効に機 能していく上で、国民の投票価値の平等を確保する必要は、かつてないほど大きい。冷戦たけなわの時代に あっては、司法が定数訴訟において「広範な裁量権」の論理を用いることにより立法府に寛容な態度を示し 続けることに対し、我が国の地政学的位置等から、内外の安定の重要性を第一に考え、公職選挙法の根本 的改正につながるような事態を避けようとする考えに合致するとして黙認する風潮があったのかもしれない。 しかし、今やそのような事情は存在しない。  投票価値の平等の徹底について国会自身が消極的であることは、国会における長年にわたるこの問題の 取扱いをみれば極めて明らかである。また、議院内閣制の下にある行政は、この問題については乏しい影響 力しか持ち得ない。その中にあって、最高裁判所が定数訴訟について示す判断のみが国民の投票価値の平 等を実現し得るみちであることは、大方の意見の一致するところである。この問題について国会自身の改革 努力に期待できる時期は過ぎたといっても過言ではない。民主主義の基本である投票価値の平等の問題に ついては、司法と立法府が鋭く対立することとなっても、憲法により与えられた違憲立法審査を行う権限を適 切に行使し、立法府の「広範な裁量」を認める考えを改めることこそが、現在正に、最高裁判所に求められて いる。  我が国司法は、長年にわたり、刑事、民事、行政のいわゆる通常事件(広義)の処理に当たっては、公正で 中立な真実発見の場として、高い信頼を得てきた。また、戦後、行政の下部組織としての地位を脱し、かつ、 憲法によって違憲立法審査権を与えられたことにより、我が国司法は戦前に比して飛躍的に高い権威を得て いる。我が国憲法の定める三権分立構造の中で、司法の独立を堅持し、民主主義の基盤を成す司法の権 威、ひいては法の支配を維持、確保するには、最高裁判所は、憲法により与えられた違憲立法審査機関とし ての責任をも十分に果たしていかなければならない。司法がその地位に安住して違憲立法審査権を適切に 行使しないことは、もはや許されないのである。  裁判官梶谷玄の追加反対意見は、次のとおりである。  私の意見は、前記反対意見で述べたほか、平成一〇年大法廷判決における裁判官尾崎行信、同福田博 の追加反対意見(以下「尾崎・福田意見」という。)とおおむね一致するところであり、その詳細は、次のとおり である。  一 本件選挙における投票価値の不平等の存在  本件選挙の当時の選挙人数を基準とする投票価値の最大較差は一対四・九八(東京都選挙区と鳥取県選 挙区)であるところ、この投票価値の不平等が著しいものであったことは明らかである。なぜなら、東京都に おける選挙人約五人の票と鳥取県における一人の票とが同一の価値を持つことになり、これが平等であると は到底いえないところだからである。  そうすると、憲法上保障されている投票価値の平等をこれだけ著しく害することが国会の合理的な裁量権 の行使の範囲内として憲法上認められるかどうかが問われなければならない。  私は、そのような合理性はなく、現在の定数配分規定は、国会の裁量権の行使の範囲を著しく逸脱し、違 憲であると考える。  二 違憲の理由  1 二院制の趣旨と投票価値の平等  投票価値の平等は、憲法一四条一項の定める平等の原則によって保障される最も重要な原則の一つであ り、国民の選挙権と関係のない要素を重視して選挙権を実質的に制限することは、憲法に根拠のある原則 によってその正当性が証明されない限り、許されないものと考えられる。そして、投票価値平等の原則は、衆 議院の場合と参議院の場合とで異なるところはない。  代表民主制の下では、国民は代議員である国会議員を介して国政に参加することになるところ、国政に参 加する権利は憲法によって平等であるべきものとされており、国政参加の手段としての代議員選出の権利も また常に平等であるべきことが要請される。国民の代表である議員が公正な選挙によって効果的に選ばれ ることは、代表民主制の基本であり、これなくしては民主主義は成立しない。  憲法四三条及び四一条は、衆議院と参議院の両院の議員が等しく全国民の代表として選挙により選ば れ、国権の最高機関の構成員として高い権威と権限を付与されることを明確に定めており、その地位の根拠 は国民各自が議員を選挙する権利を平等に行使できて初めて正当化される。  憲法制定の経過等をみても、二院制の採用に当たって、職能代表制及び地域代表制の選挙方法が提案さ れたが、いれられるところとならず、今日の制度となったのであり、この制定の経過等からしても、参議院議 員の選挙制度について、地域代表制とするとの明確な考え方はなかったといわなければならない。  我が国憲法が採用した二院制は、貴族院型、連邦国家型ではなく、単一国家民主制型あるいは民主的第 二次院型としてとらえられており、その特色は強度の民主的性格と参議院の補正議院としての性格にあると され、多数決原理の抑制、多元的民意の反映、慎重審議、政治性の希薄化、急激な変動の抑止、補充的役 割などが期待されている。具体的には、第一院である衆議院における多数意思が必ずしも正しいとは限ら ず、ときには多数の専制を生むことがあり得ることにかんがみ、第二院である参議院の議員の任期を衆議院 議員のそれと異なり六年とし、かつ、解散を認めないことにより、議員が長期的な問題について検討を加え、 専門的な知識経験を深め、理性的で慎重な判断をすることを期待し、また、半数改選制と相まって、政策の 激変を防止し、社会の要請に応じて安定した中で漸進的に改革が進められることを保障し、第一院が解散な どの理由でその構成員を失って活動できなくなった場合における補充的な役割を担わせている。したがっ て、これらの二院制の趣旨を酌んで法律により参議院と衆議院の議員構成に一定の差異を持たせるとして も、それは、あくまでも前記のような平等原則に反しない限度で例外的に許容されるにすぎないものと解すべ きである。それゆえ、参議院議員と衆議院議員との間に、その選出方法について憲法上相違があるとする原 判決の考え方は、後に詳説するように誤りである。  2 現行制度の仕組みと投票価値の不平等  現行制度下における投票価値の不平等の原因は、憲法制定当時の仕組みを、その後の人口の変動にも かかわらず、そのまま(平成六年に四増四減という小改正を行ったが、基本的な仕組みの変更はない。)維 持していることにあり、その結果として、このような著しい投票価値の不平等が発生していることは明白であ る。  多数意見が投票価値の平等の原則を修正することができる合理的な理由として挙げているのは、都道府 県代表的要素と各選挙区偶数配分制の二つであるが、いずれも投票価値の平等の原則に一定の譲歩を迫 るための合理性と必要性とを具備しているものではない。  このうち、都道府県代表的要素がこのような合理性と必要性を有しないことについては前記反対意見記載 のとおりであるが、更に付言すれば、前述のように、文字どおりの地域代表制は憲法制定の経過等において 否定されていたのであり、投票価値の平等を修正する原理となり得るものではない。それゆえ、都道府県代 表的要素は、都道府県、とりわけ人口過疎地域や農村地域などの利害や意見を国会審議に反映するという 意味に解釈されるところ、そのような利害や意見の反映ということは、全議員が国民の代表として考えるべき 問題であるし、また、戦後から今日までの間の通信等の発達、地域間の事情の相違の大幅な減少により、参 議院議員選挙の仕組みに右のような意味での都道府県代表的要素を加味することの必要性ないし合理性 は憲法制定当時に比較して大きく減少したとみるべきである。したがって、都道府県を単位とする地域代表 的性格を加味したとされる参議院の選挙区選出議員の定数配分についても、その較差の許容限度は衆議 院議員の場合と異ならない程度、すなわち、最大較差一対二未満、とするのが原則であるというべきである。  次に、現在の制度が採用している各選挙区偶数配分制及び最低二人配分制は、憲法が要求するものでは なく、投票価値の平等という憲法上重要な原則が侵害される場合には変更又は廃止されるべき実務上の便 宜的な手段にすぎない。したがって、議員定数が奇数の選挙区(奇数区)があったとしても、奇数区の合計を 偶数とし全国規模で半数の議員を改選する仕組みを設定し、人口の少ない一部地域においては六年に一回 選挙を行うという手段を採ることも可能であるし、都道府県の区域を越えて選挙区割りを変更することや、い くつかの都道府県を合わせて一選挙区とするいわゆるブロック制を採用することも可能である。他方、二人を 超える選挙区の定数配分についても、奇数区を定め、又は八人を超える定数配分をすることも当然採られる べき手段である。したがって、国会は、投票価値の平等を実現するため、このような手段を早期に採るべきで あった。  3 投票価値の平等違反が違憲となる限度  以上のとおり、一人一票の枠組みを超えて一人二票以上を与えることは、投票価値の平等の見地から極 めて問題である。もっとも、憲法制定直後に制定された参議院議員選挙法においては、地域代表的性格を考 慮した上で半数改選制を実施する必要上、技術的に便宜的な方法として、各選挙区にまず二人を割り当て た結果、当時の人口を基準とする最大較差一対二・六二が生じたところである。この当時としては、較差の程 度が比較的軽微であったためにこの制度を採用したとみられるが、その後の地方から大都市への人口の異 動によって較差は著しく増大し、また、前述のように、通信等の手段が大きく進歩し、地域間の事情の相違も 大いに減少しているところである。他方、選挙権の不平等に対する国民の不満の意識は極めて強くなってい る。また、世界諸国においても、選挙権の平等については厳しい基準が設定されているところである(尾崎・ 福田意見及び最高裁平成一一年(行ツ)第七号同年一一月一〇日大法廷判決・民集五三巻八号一四四一 頁における裁判官福田博の反対意見参照)。これに加え、衆議院議員の選挙制度においてもブロック単位の 比例代表制及び小選挙区制が導入された結果、衆議院と参議院における選挙制度は類似するものとなって おり、投票価値の平等の点で参議院と衆議院との間に差が生じることは、ますます不合理となり、容認され 難いところとなっている。  したがって、当初は便宜的な措置として採用されていた定数配分方法にその後も従うことは、投票価値の 平等の原則に照らし問題があり、一対二を超える最大較差が生じたときは、投票価値の不平等が到底看過 することができない程度に達しており、立法裁量権の限界を超えたものとして違憲とみるべきであって、前記 のように選挙制度の仕組みを変えることにより根本的にその見直しを図るべきであると考える。ただし、その 合理性が立証されたときには、一対二以上の較差が許されることもあり得るところであるが、その場合でも右 較差がこの比率を大きく超えることは許されないと考える。  4 原判決の誤り  原判決は、衆議院議員の選出方法については憲法上人口比例主義が厳格に貫かれるべきことが要請さ れていると正当に判断しながら、参議院議員の選出方法については、これとは異なり、人口比例主義とは異 なる独自の方法を求めているものと解し、「参議院の存在意義」を優先させることによって選挙人の投票価値 に較差を生じさせても、それは憲法の精神に従ったもので違憲とすべき根拠とならないとする。そして、本件 選挙において四ないし五倍の較差があることにより、人口比例主義が維持されているとは到底いえないた め、「人口比例主義」か「参議院の存在価値の維持」かを対比し、後者を優先させる。しかし、この考え方は、 前述のとおり、衆議院議員と参議院議員を国民全体の代表者とし、両議員の選挙について等しく人口比例 主義を採用している憲法四三条及び一四条一項に違反し誤りである(これは多数意見の判旨にも反す る。)。また、優れた人物が議員となり、社会各部門、各職域の知識経験ある者が容易に議員になることがで きるとの「参議院の特殊性」に関する原判決の認識の点についても、その根拠とする衆議院帝国憲法改正案 委員会附帯決議は、後に成立した参議院議員選挙法において、全国選出議員の制度としてその実現が図ら れたものであって、地方選出議員に関するものではない。地方選出議員の選挙制度においては、そのような 人材の確保ではなく、地域の代表の確保を試みようとしたのであるが、前述のように、地域代表制は憲法の 趣旨に反するとして具体的には採用されるところとならず、結局、参議院の構成を衆議院とはできるだけ異 質的なものとするために、主として被選挙人の年齢、選挙区の構成等の点で衆議院の場合と異なるものと し、それによって構成上の相違を実現するほかやむを得ないという結論になったのである。したがって、原判 決の考え方は憲法の解釈を基本的に誤ったものというしかない。  三 結論  これを要するに、本件のような最大一対四・九八という投票価値の不平等が生じた原因は、基本的には、 都道府県代表的要素を加味した選挙制度の仕組みにあるところ、右要素自体は憲法上にその地位を有する ものではなく、しかも、本件仕組みが最初に採用された当時に比べて、右要素を加味することの必要性ない し合理性は縮小した反面、その間の激しい人口異動による人口の偏在化によって、本件仕組みを維持する 限り、投票価値の不平等は拡大するほかない状態となっていたものである。  このような状況を考えるとき、国会は、その最高機関性を維持するためには、その構成員の選出について は平等原則を実務上可能な限り貫徹し、選挙区間の投票価値の較差をできるだけ少なくするため、誠実な 努力を尽くすべきであり、必要と認められるときには、都道府県の区域を越えて選挙区割りを変更したり、又 は一部選挙区において六年に一回選挙を行うという手段などを採るべきであった。  しかるに、本件改正は、旧来の各選挙区偶数配分制、最低二人配分制及び都道府県選挙区制を前提とし て若干の手直し的修正を行ったにとどまり、憲法の要求する投票価値の平等を実現しているものとは到底い えない。本件改正における国会の裁量権の行使は合理性を是認できるものではなく、その許される限界を超 えていることは明らかであり、本件定数配分規定は憲法に違反するものと断定せざるを得ない。  定数配分は、議員の資格の得喪にかかわる問題であるため、その性質上、立法によっては容易に是正さ れないものであるところ、定数配分が憲法に定める選挙権の平等の原則に違反する状態に至った場合に は、これを司法が是正しなければならず、立法の広い裁量にゆだねることは許されない。本件のような著しい 選挙権の不平等の存在を多数意見のように国会の立法裁量権の限界を超えるものとはいえないとして容認 することは、あまりにも立法裁量権の優位を認めるもので、憲法によって与えられている違憲立法審査権を 適切に行使していないといわれてもやむを得ないところであり、是認することができない。 (裁判長裁判官 山口 繁 裁判官 千種秀夫 裁判官 河合伸一 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友  裁判官 福田 博 裁判官 藤井正雄 裁判官 元原利文 裁判官 大出峻郎 裁判官 金谷利廣 裁判官  北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 奥田昌道 裁判官 梶谷 玄 裁判官 町田 顯)