TS-830の調整と外部VFOなどの製作 Ver.1.0 '07/07/20 Ver.1.1 '07/08/06 Ver.1.2 '07/08/23 Ver.1.3 '08/04/29 Ver.1.4 '08/05/07 Ver.1.5 '10/01/28 All rights reserved JA3OOK 中村 利和 私としては久しぶりとなるトリオ製マシン---『TS-830V』を某オークションで最近落札した。 TS-830の仕様を振り返ってみると、一つ前のモデルである『TS-820』は、SSBの黎明期からの主流で あったコリンズタイプ・ダブルスーパーを超えるアーキテクチャーとして、PLL制御による局部発振 コントロールを行い中間周波数に8.83MHzという比較的高い周波数を採用したシングルスーパーであ る。 TS-830はこのTS-820をベースに、さらに進化した混信対策として、 ・第二中間周波として455KHzを復活させ選択度の向上 ・画期的な中間周波帯域幅の可変化(VBT:バリアブル・バンドワイズ・チューン) ・第二中間周波での切れの良いノッチフィルター を実現している。(IFシフトはTS-820にも存在) この他、 ・WARCバンドにも対応 ・10MHzを基準周波数とするPLLを採用し、周波数デジタル表示を標準で実装 した先進のマシンであり、当時、100W機の定価は180,000円である。(10W機は166,000円) 送信部ドライバーに12BY7A、出力段に6146B×2(10W機は×1)の真空管が使用されており、その 他は半導体である。 性能面で現代でも十分有効な前述の混信対策(もちろん冬のローバンドやコンテストステーショ ンでの極限の運用では最新機種には劣るが・・・)やWARCバンド対応、操作が楽な周波数デジタル 表示、アナログ回路が多く、部品や基盤の実装も比較的低密度で手入れが容易な構造、など魅力的 なリグであり今も人気が高い。 私もこれらの魅力に引かれて本機をオークションで落札したのである。 参考にTS-830のブロックダイヤグラムはこれ(取扱説明書より) 届いたTS-830を早速開封してみると、年式の割には外観や中身が非常にきれいで驚いた。錆びは 全く無く、ホコリも殆どない。出品者が言っていたように確かにあまり使われていなく、大切に保 管されていた様子がうかがえる。
本機を使用しながら、再調整したり、見つかった問題に対処してきたので、その内容を以下に記 す。 なお、参考にした資料は本体添付のTS-830の取扱説明書と別途インターネットで入手した Service manual、Survival Guide、およびTS-520のOPERATING MANUALなどである。 1.内部の基本電圧の確認 Service manualに基づきAF UNITの安定化電源部の出力電圧9Vと3.6Vを調べたが、 許容誤差の範囲であったので触らなかった。 2.カウンタ基準周波数の較正 取扱説明書に基づき10.0MHzのWWVで調べると数100Hzずれていたので較正。 3.終段のアイドリング電流 本機は100Wに変更済みであることは承知していたが、アイドリング電流が30mAであった。 取扱説明書に基づき60mAに調整。 出力は調整前も後も110W出ており問題はない。 4.CWサイドトーンの音量 特にヘッドホーンの時大きすぎるので、取扱説明書に基づき小さめに設定。 5.Sメーター 実質的な受信感度には影響ないが振れが悪く、私の好みに合わない。 取扱説明書に基づき調整。但しSSGがないので強い信号の局を複数聞きながら、好みの振れに 調整。 6.VFOのドリフト ドリフトが大きいとの話を聞くときがあるが、本機は電源とヒーターONの8分後で-0.2KHz。 15分後も変わらない。(温度25度の環境) 今後問題が顕在化すればその時に対処することとする。 7.SSBやCWの受信音がチャピル これが一番の問題のようだ。送信時は不明。 原因を調べてみるがなかなか見当がつかない。いろいろ触っているうちにをFIXスイッチを いじくると周波数の表示も聞こえる音も不安定な時があることが分かってきた。 このスイッチを何回も触っているうちにこの症状も無くなった。回路図と照合すると、原因は FIXスイッチの接触不良でVFO電源の電圧が変動していたのだ。 その後調べるとSurvival Guideに同様の記述があった。外部VFOのための8Pコネクターに内臓さ れいるスイッチの接触不良でも同じ問題が出るとのことで要注意である。 8.RF ATTスイッチの接触不良 いわゆる受信時の20dBアッテネータであり、この切り替えスイッチが接触不良を起こしてい る。 当面このまま使用する。(経験的には10dBのアッテネータが望ましいので、その時同時に改造 しよう) 9.CWフィルターの取り付け 本機にはSSBフィルターしかついていなかった。同じ某オークションで購入したCWフィルター を追加した。(YK-88CN、270Hz) 作業は取扱説明書に基づき実施。(必ず電源コンセントを 抜いてから作業すること) 今まで500Hzのフィルターに慣れていたので狭すぎるように感じる。もっと使いこなすつもり。 その後の使用ではやはり、スプリット運用をしているDX局を射止めるには(DX局が聞い ている周波数を探すには)270Hzは狭すぎる。YK-88Cに交換した。 10.18と24メガ帯の送信 本機はこれらのバンドは受信はできるが送信はできない仕様になっている。 これを送信できるように変更した。 このためには、RF UNITの抵抗R42のリード線をニッパーでカットすればよい。 作業は 上ケースをはずす→COUNER UNITのビスを4本はずし、左にずらす。
→RF UNITのR42のリード線を写真のようにカット。
の手順で行う。必ず電源コンセントを抜いてから作業すること。 11.RTTYインターフェースの製作 PCを使用したRTTYやPSK31の運用を行う場合に必要となるインターフェースを製作した。 本機とPCの間に置く外付けとする。 その後、 2008年5月、低感度のマイクも使用できるようにマイクアンプを組み込み、 2010年1月、コンデンサマイク用の電圧供給回路の変更と回路図の見易さを改善。(Ver.1.5)
12.外部VFOの製作 DXペディションなどの時のスプリット運用には、特にスプリット周波数が離れている場合 に外部VFOが必要になる。(一般的に離れている運用が多い) TS-830の外部VFOとしてVFO-230が用意されているが、中古でもオークションで非常に高価 である。 そこで、オークションに割と多く出品されている他のVFOを改造して利用することにした。 周波数が5MHz前後のVFOでトランシーバー本体から取り外したVFOがねらい目であり、これを TS-830のVFO周波数である5.5〜6MHzに改造することとする。 オークションで入手できたのはTS-520から取り外したVFO(5.5〜4.9MHz)であった。 電源電圧をTS-520の回路図から調べると9VでありTS-830と同じで好都合。 リード線は3種類であった。 シールド線−−−VFO出力信号 赤−−−−−−−電源(9V) 青−−−−−−−RIT 改造のポイントは次のとおり。 a 周波数の変化方向を逆にしなければならない。(TS-830は右回転でVFO周波数が上がる) 対策 バリコン(VC)のローテータのストッパになっているビスを回して突起を短 くし、ローテータが360度回転できるようにする。 b 周波数を高めるために、ミニバリコン(TC1)を最小容量に回す c シャフトのボルトを緩め、VCを一番抜いた状態で目盛板がの数字0になるように回転位 置を調整して固定。 d VCを一番右に回した状態(抜いた状態)で6MHzが発信するように発振コイル(L1)の コアーを回して抜く。(入手したVFOの場合は約7回転抜いた) (ゼネカバ受信機で聞きながら) なお、RITのリード線はアースしておくこと。(アースしておかないと周波数が不安定) e 外部VFOをコントロールしTS-830本体と接続する回路を設計し製作した。
ただし、 ・RIT回路は設計は終了しているが未実装 ・CW送信時の800Hzシフト回路も未実装 これらはスプリット運用では必要ないと判断した。(将来必要になれば追加予定) f 回路図のDIN8Pを本体のVFO-230用コネクターに接続する。 g 出力周波数を本体のディスプレイで読みながら再調整する。 h 内部VFOと外部VFOの出力レベルを出力レベルをオシロスコープで比べると外部VFOが 強く、外部VFOの出力レベル調整(TC2)で最小に絞った。 完成後の全体写真。 TS-830本体の上の左のボックスがRTTYインターフェース、右が外部VFO(ケース未作成)。
13.CW送信時の800Hzシフトが機能していない 以下の現象が出ている。 a 受信状態において、MODEをUSBからTUNEに回しても、ディスプレイの表示周波数に変化 がない ←本来TUNEに回せば800Hz上がって表示されるはず (操作マニュアルのゼロインの方法の項や回路図から推定) b RITはOFFの状態で、MODEがCW.WやCW.Nでの送信時、ディスプレイの表示周波数に変化 がない ←CW.WやCW.Nでの送信時には800Hz上がって表示されるはず (回路図から推定) TS-830に詳しい某局に念のため問い合わせたところ、やはり私のTS-830がおかしいことが判明。 内臓VFOのRLC端子に所定の制御電圧(9V)が来ているかどうかの調査から着手。 TS-830のVFOは、正面パネルの6角ボルトを4本抜けば簡単に抜き出せる。高い保守性に感心。
本来なら上記のaやbにおいて制御電圧が来ているはず。 ところが、VFOへのコネクターを抜き、RLCへの線をテスターで調べたが電圧が来ていない。 しかし、EXT VFOの端子PIN4には所定の制御電圧が来ている。 VFOへのコネクターのRLCへの線を、線の束をかき分けて逆にたどって行くと、原因が判明。 MODEロータリーSW(S18-5)のところで線が切れている!(一度は半付けされた形跡があるが 切れている) これを接続。上記aとbで正しく動作することをテストし、完了。 14.LSBとUSBでキャリア周波数がずれている ホワイトノイズを受信中にMODE SWのLSB/USBを交互に切り替えるとホワイトノイズの高低 がかなり変化する。これの原因はキャリア周波数がLSB/USBで対称でないことと思われる。 調整は「SERVICE MANUAL」に基づき実施したが、MANUALによると、この部分の調整は 「RF VTVM」と「FREQUENCY COUNTER」を使用するよう指定されているが持っていないので 高周波電圧の測定は割愛し、周波数の測定は「ゼネカバ受信機」を使用して次の手順で実施 した。 a 準備 LSBで受信状態、IF SHIFTを中央、VBTを最大幅、ゼネカバ受信機のアンテナ線を IF UNITのTP3近くに接近 b MANUALでの調整ITEM3 ・MODEをLSB 8828.50KHzに合ってなかったのでPLL UNITのTC2を調整(for X2) ・MODEをUSB 8831.50KHzに合ってなかったのでPLL UNITのTC3を調整(for X3) ・MODEをCWでSEND 8830.70KHzに合っていたので触らず(必要ならPLL UNITのVR3を調整) c MANUALでの調整ITEM4 ・前項の周波数が、IF SHIFT最大と最小で+1.1KHz、−1.1KHz以上変化することを確認 (LSB USBそれぞれ) ・前項の周波数が、IF SHIFT中央、VBT最大から最小で周波数が−1.1KHz以上変化する かどうか調べたが-1.05KHzしか変化しない(LSB USBそれぞれ) →実害はないように思われ、OKとした d MANUALでの調整ITEM5 ・ゼネカバ受信機のアンテナ線をIF UNITのTP1近くに接近 ・8375.00KHzに合ってなかったのでIF UNITのTC2を調整(for X1) ・上記周波数が、IF SHIFT中央、VBT最大から最小で−2.4KHz以上変化することを確認 (LSB USBそれぞれ) ・SEND ON しても、VBTがどの位置においても、8375.00KHzの発信周波数がずれないこと を確認 上記の調整によりホワイトノイズの高低差が殆ど気にならないレベルに改善された。 まだ若干の高低さがあるが、キャリアポイントの違いの他にフィルター帯域特性の上下非対 称なども考えられ、これで良しとする。 愛すべきTS-830に今後もいろいろ不具合が見つかったり新しい問題が出てくることが予想される が、愛着をもって末永く保守していきたい。 蛇足 1 基盤のTCやVRを回すには調整棒が必須。グラスファイバー製釣竿の先の細いパイプを切り取 り、先にブリキ板を差し込んで自作した。 2 ゼネカバ受信機の周波数は予め校正しておくこと。経年変化でずれていることがある。 3 水晶の発信周波数を調整しても翌日には、5〜20Hz程度はずれている。温度や湿度、通電 時間などが影響していると思うが、微妙さを改めて実感するとともに、ある程度妥協せざる を得ない。 なお、上記の各回路図は水魚堂提供の「回路図エディタ」で作図した。感謝します。 参考文献 1 TS-830S,V 取扱説明書 トリオ株式会社 2 TS-830S,M SERVICE MANUAL TRIO-KENWOOD CORPORATION 3 TS-830 Survival Guide edited by Olaf Rettkowski DL9AI 4 TS-520S OPERATING MANUAL TRIO-KENWOOD CORPORATION 5 TS-520S Service Manual TRIO-KENWOOD CORPORATION 6 リグ・カタログ・ミュージアム By JG2KJU 7 水魚堂