星と☆形【2】
西村昌能(京都府立洛東高等学校)&TENKYO-ML☆形チーム
第2章 星はなぜ☆形に見えるのか?
第1章では、古今東西の人類がどのような形に星の姿を記録してきたのか
を概観しました。今回は、生理学の話です。
なぜ、星は☆(*)に見えるのかを考えてみたいと思います。
1)私の実験
第1章に書いたように☆形の起源は、その光条の様子から星をアステリスク(*)に
描いたからだと想像できます。
確かに明るい星や点光源をみますと星形に光条(光芒)が見えます。
「かつて私は、それはまつ毛の回折説を唱えて、実験に挑みました。
まつ毛を通して星を見たときは、光条が明るくはっきりと見えました。
図2−1(金星をまつ毛を通して見る。眼鏡で矯正している。)
そこで、まぶたを指で大きくあけて、まつ毛が瞳にかからないように
して、星を見たのでした。
結果は幾分、光条は小さくなりますが、まだ、見えます。何度試みても同じ結果です。
図2−2(金星をまぶたを押し開けて見る。まつ毛の影響は無い。
眼鏡で矯正している。)
最近、星の光条は、瞳の光彩部分にギザギザがあって、
それが原因で出現するのだという説を科学雑誌で見て、
自分の光彩をしげしげと見つめましたが、その様なギザギザは観察されず、
その光彩説はちょっと眉に唾をつけているところです。」
こんな風にMLに流しましたら、すかさず、福江純さんは
「これはストッキングなどをかぶせると、点光源が十字にみえるのも同じ理屈ですか?
#そういう意味では、星型として、×(十字)印はないのかなぁ。
肉眼の生理学的な構造によるという説は、なかなか納得できるものがあります。
それ以外に、人の目がパターンをみてしまうという、錯覚説のようなものはないのでしょうか?」
と返されました。

図1
図2
2)皆さんの考え
福江さんの問いかけに
「上記の件、人間の目(水晶体)は完全な光学系ではないので、
必ずある程度の非点収差があり、それで光芒が見えるのだという説明を読んだ記憶があります。」
と岡山の大島修さんはMLで述べられました。
茨木孝雄さん(杉並区立科学教育センター)は
「私もかつて『ビニール傘と天使の輪』と題する所内ニュースに、
光芒と“偽りのかさ(アイコロナ)”の話題を書いたことがあります。
[...『星にヒゲが見えるのはなぜですか?』という疑問があり,
観望会の折,たびたび質問される.
これには,『それは,あなたのまつ毛のせいです.
指でまぶたを開けてみればわかりますよ!』と答えることにしている.
点光源からの光が隙間を通る時,その隙間の形によっていろいろな模様が見える.
この現象は“フラウンフォーファー回折”と呼ばれている.
瞳孔をさえぎる一番大きなものが,まつ毛なのだ.
しかし,さらに詳しく観察すると,どんなにまつ毛を排除しても,細いヒゲ光が消えることはない.
明るい人工光で試すと,細い線が実は無数の点の集まりから成ることに気づく.これは,何だろうか?
観望会の帰りは,どうしても遅くなる.遠距離通勤者の私にとって,凍てつくような冬の夜はつらい.
そんな時,清冽な光を放つ月の周りには,黄白色と緑色の2重のコロナが見え最縁部に虹の輪が認められる.
何十年も前から,このことは気になってはいたが,大気が生み出す“かさ”の一種だろうとしか考えなかったのだ.
しかし,これほど澄み切った空に,氷晶やダストのようなものが浮かんでいるだろうか?“疑問を感じたら試して
みる”べきだった....]
以下、探求は続くのですが、ミナートの実験(Dover版ではp.221, Springer版ではp.245※)でもわかるように、
水晶体の放射状繊維構造に起因することがまず1点。
まつ毛を排除したときの細いヒゲ光に関しては、角膜上皮のハニカム細胞が原因かと思ったのですが、
水野有武氏(東京慈恵医科大学)に問い合わせたところ、涙液中のタンパク質等の散乱物質が効いているようです。」
と発言されました。
大阪府堺市の秋山晋一さんからは次のようなメールがきました。
「星の光芒・まつ毛説は反射望遠鏡の副鏡スパイダーの回折を思い浮かべましたが、
さらに私なりに想像してみました。
まず簡単に思いつく角膜乱視の影響は?
・・・ご承知のように乱視の影響でお月さんを見ると影が出るわけですが、
この乱視はごく微量なものを含めると恐らく90%以上の人にあるみたいです。
乱視により点像が焦線となるわけですが、その方向は左右の眼で異なる場合も
よくありますので夜間の瞳孔の開いたときには調節力が落ち、
両目で見ると星の異なった方向の光条が重なるのではないでしょうか。
乱視は多くの場合、角膜の表面が球面からずれているアスのようです。
昔の人が乱視を光芒として表現したかどうかは分かりませんが・・・・
次に光の通る媒体を考えますと、網膜に届くまで眼球の中を占める硝子体というゲル状を通ります。
20才をすぎるとゲル状が中心と網膜に近い部分から徐々に液化し、60歳ころにはほぼ液状になるそうです。
ゲル状のときは規則正しいその組織も、液化とともにみだれていくわけです。
ゲルと液体の共存する不安定な中を星の光が通ったら、散乱は無視できるほど小さいものか?という疑問が浮かびました。
この液化した部分は眼球の中で動いています。
自分のことで恐縮ですが、数年前この液化するときにゲル状が、くっついてる網膜の一部をはがしかけ、
はがれた組織が何十個も残り飛蚊症になりました。液化した部分に残骸がありますので、
眼を動かすとあちこちに動いています。(レーザーでの早期治療で治りましたが、
ほっとくと数日内に網膜剥離を起こします。 突然の飛蚊症にはご注意ください)
星がギザギザに見える原因なのですが、西村さんの説も含めいくつかの要因が複合してる可能性ってどうなんでしょうか?」
3)ミンネルトの説明
茨木孝雄さんのメールにあったミナートとはMinneart先生のことです。
Minneart先生はオランダ人で、太陽大気の大先生です。
我々分光屋はミンネルトと発音しています。
ミンネルトの本(1)には夜間近視(night myopia)の説明があって、
暗くなると瞳孔が開くために、水晶体の収差が効いてくるとあります。
また、このような状況の時は不完全な像が作られ、
光線が点から放射されるような形に見えるとしています。
(図2-3 メガネをかけないで夜、星を見る。夜間近視で光条が見える。ミンネルトによる(1)。)
どちらか片方の目で明るい惑星や恒星を見ますとそれらの光条は、どの星も同じような形に見えています。
しかし、光条の出方は、人によって違いますし、また同じ人でも左右の眼で光条の形が違うのです。
ミンネルトは、眼が点光源をきちんと点に再現できず、空が暗いほどに光条が大きくなるのは、
瞳孔が開くからだと説明しています。
それを証明する実験があり、テレホンカードのパンチ穴などの直径1mmの穴で星を見ると光条がなくなり、
星が丸く見えるようです。私も金星で確かめましたが、確かに光条はなくなり点光源にみえました。
その一方で金星の明るさは暗くなりました。
昔、漫画本で、伊賀や甲賀の忍者、暗いところで物を見る術を紹介していたのを思い出しました。
全く、この原理だったのです。しかし、単に針穴写真機の原理で、被写界深度が深くなっただけなのかもしれません。
ある研究者は水晶体の端は筋肉のために変形し、瞳孔の端から入る光は不明瞭な像を結ぶことを立証しているようです。
水晶体非点収差説はおおよそミンネルトの考えと同じであったのです。
なお、三日月の角が何個も見えるのは、角膜表面の変形が原因であるともミンネルトは書いています。
これは次の項目で秋山さんが述べられる事と同じです。
4)眼の解剖と水晶体と角膜の変形
ところで、私は生物の授業も担当しています。その生物の授業の時に牛の眼の解剖を毎年行っていますが
(昨年末からは牛の眼の解剖は、さる筋のお達しにより禁止されてブタの眼の解剖になりました。理由は、BSEのためです。)
図2-4(ブタの眼の解剖)
秋山さんの書かれている硝子体(ガラス体)は、コラーゲンというタンパク質でできていて
沸騰したお湯の中に入れても透明のまま、固まりません。
一方、透明の水晶体は湯につけると白濁して固まります。焼き魚の目玉を思い出してくだされば、結構かと思います。
固まった水晶体を取り出して、さわりますとざくっと言う感じで簡単に短軸方向に割れて細長い繊維が取り出せます。
その構造は水晶体の中心から渦を描くように外側へ向かって(銀河の様に)巻き付いているように見えます。
これは発生段階でその様な形成の仕方をすると授業で説明しています。
わかりにくいのですが、鉛筆を何本もたててそれで円を作ると言う感じでしょうか。
この構造を通ってくる間に光条が発生する可能性もあるのかと皆さんのメイルをみて感じました。
また、光条が乱視に影響されるという秋山さんの見解や私の実験(金星をみて首を傾げると光条も同じように傾きます。)
や光条は再現性があることから、涙液での散乱過程だけではないと思います。
大島さんの非点収差もあり得る話だとおもいますが、これを乱視というのは、近似しすぎた話でしょうか。
なお、秋山さんのメイルの中に乱視は角膜のアスであるとありますが水晶体の変形はないのかと疑問にました。
なお、私はひどい乱視ですが裸眼で金星等をみていますと、強い光条の方向が右目と左目で90°近くずれて見えます。
これは、ミンネルトの説明にもあります。
乱視については、秋山さんに次のように説明してくださいました。
「よく例えるのに、通常は角膜が表面ボールのような球面なんですが乱視の場合ラグビーボールのように曲率が異なっています。
そのため一点でピントがあわず像に影が出たり、輪郭がぼやけたりしますね。
このラグビーボールの長径・短径方向を乱視の軸(経線)といいます。
そのために、ご存知のように乱視は円柱レンズで矯正します。
またハードコンタクトレンズでの矯正は、角膜との間に涙を介してコンタクト表面が球面ですので乱視を矯正してくれます。
おっしゃるように勿論、水晶体の歪みによる水晶体乱視もあります。
先日書いたように数の上では角膜乱視が多いわけです。また角膜乱視と水晶体乱視を両方持つ人もあるようです。
ところで、人間の水晶体の屈折率って中央が高く周辺へ低くなってるんですね。こんなレンズって理想的ですね。
カメラのように高い非球面レンズを磨かなくても
球面に磨くだけで非球面効果があるから収差補正が楽ですね。
また、ご存知のように水晶体は単体では色収差がありますが、
屈折率の異なる角膜とあいまって色消し効果があるだろうと昔習いました。
屈折率は逆ですが、スタインハイルタイプのアクロマートを連想しました。」
5)アイコロナ
茨木さんの言われているアイコロナは、たしかに見えます。
月などの明るい光源でよく見えます。
気象光学現象のコロナ(光冠)によくに良く似ています。
しかし、コロナは月を指などで隠しても見えますが、アイコロナは、月の光が見えなくなると消えてしまいます。
明るい点光源で観察するとアイコロナはたくさんの細かな長円形の点の集まりの様にも
見えます。これは、明るい光源からの光が、水晶体や硝子体で回折や散乱をしているからなのでしょうか。
ミンネルトはアイコロナに関して、「光源のまわりに見える光輪には2種類あり、
一つは、眼球中のある液体に浮かんでいる微粒子の回折が原因で、
白色光なら、線状に見え、ナトリウムランプの様な単色光なら点の集まりに見える。
次に、背景が暗いところで、月などの明るい光源を見ると、6度の半径で外側が赤く、
内側が青いそれで光輪が見える。
簡単な実験からこれは放射状に配置されたフィラメントが原因であることがわかる。
このアイコロナは瞳孔の収縮と同時に消えるので、水晶体表面部でつくられている可能性が高い。
中には水晶体が白濁して、アイコロナが見える人もいる。
さらに、光源から1.5°の半径のアイコロナを見ている人もいますがこれは角膜や水晶体を包む膜の細胞の核による回折が原因である。」
と書いています(2)。
夜、自動車のヘッドライトをみると光条がまぶしく広がって見えます。
これもアイコロナです。ですから、このアイコロナを作る過程も*形の原因になるでしょう。
6)星形に見える理由
以上の事から次のことが明らかになりました。
☆1 星形の光条の第一の原因はまつ毛による回折ではないか。
☆2 しかし、まつ毛の影響を除いても、まだ光条は観察される。
その原因は水晶体の放射状繊維構造もしくは、短軸方向に巻き付く
繊維構造が大きな原因になっているのではないだろうか。(アイコロナ)
☆3 夜間には瞳孔が開き、水晶体や角膜の収差(非点収差)がはっきりしてくる。
それで*に見える。
それは、暗いところでは、瞳孔が開くため、点光源でも完全に点に結像できないからだ。
☆4 眼球中の微粒子の回折が関係している。これも光条の一因であろう。
星は明るいと明るく長い光条を出します。暗くなると光条ははっきりしません。
本当に暗い星は、点に見えます。
ということから、星の明るさによって☆4→☆2→☆1→☆3の順で眼は光の影響を受けて
光条が小さくなるのでかもしれません。
☆4は月など、☆2と☆1は金星や木星、シリウスなど、☆3はそれ以下の明るさの星に効いてくるのでしょう。
こう考えると、西洋の古い星図で明るさを星の光条の数や星の周りの模様で表すも
故があったのだと思ってしまうのです。
以上のように、星が*形に見える理由はやはり、
一筋縄ではいかない、複雑怪奇なもののようです。
引用文献
(1)Minnaert 1993 Light and Color in the Outdoors p114−116 Springer-Verlag 1993
Translated and Revised by Len Seymour
(2)Minnaert 1993 同書 p245-246
※上記Minnaertの著書は同じオランダ語で書かれた原著からの英語への
翻訳本です。Dover版は "The Nature of LIGHT & COLOR in the open air"
translation H.M.Kremer-Priest revision K.E.Brian
Dover Publications,Inc. 1954 です。
オランダ語の原著は"De natuurkunde van't vrije veld. I. Licht en kleur in het landschap"
です。図版はSpringer版の方がきれいです。英語の読みやすさはどっこい。
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