
「メリークリスマス、ミスターローレンス」と、スキンヘッドのハラ軍曹(北野たけし氏)が、笑顔で告げるシーンが印象的だった映画、『戦場のメリークリスマス』(大島渚監督)。『Merry
Christmas Mr.Lawrence』は、そのメインテーマに使われた映画音楽である。
日本人にはノスタルジックに、欧米人にはファンタスティックに感じるように作曲された、華麗な旋律が美しい。
『戦場のメリークリスマス』を見たことがない人は、今からビデオをレンタルして見ても、損はしない作品だと思う(名作じゃないけど)。古い映画だから、料金も安いだろうし。
作品の中の捕虜の人たちには申し訳ないけど、缶ビール片手に観るとビールが美味しい映画だった。なにしろ、暑いジャワでの話だから。もちろん、コカコーラ片手にポップコーンでも、いいです。
南アジアな曲調は、cdega(ドレミソラ)の5音音階で、作曲されているためだろう。YMO(イエローマジックオーケストラ)の時代から、坂本氏はアジアな音楽にこだわった作品が多いから、この曲もその延長上にあると思う。YMOを一躍有名にした『ライディーン』もアジアな曲だけど、これは高橋幸宏氏の作品。坂本龍一氏より「花」のある作曲をする才能が、高橋幸宏氏にはあるのかも知れない、と僕に密かに思わせる曲である。
テクノが流行った80年代は、YMOと言えば『ライディーン』だった。
アジアな雰囲気で曲を作るのは、実は、誰でもできる。1オクターブで5つある、ピアノの黒鍵だけで曲を作ればいいのである。もし、手元に鍵盤楽器があったら(そんな人いるのだろうか?)試してください。中国風の曲、日本風の曲、沖縄の曲、でたらめに弾いても、アジアな雰囲気でいっぱいの曲ができあがるから。
では、『Merry Chrismas Mr.Lawrence』を、黒鍵だけの5音で演奏できるかというと、これはうまくいかない。正確に言うと、近い演奏はできるけど、どこか気の抜けた曲になってしまう。
現在、CDを買う世代はteen-agerから大学2年生にかけてだそうだ。
このため、日本のポップスは、その年代に向け制作され続けている。大学3年生を超えると、男の子なら音楽を聞くより、仕事や車、ゴルフ、あるいはインターネットなどに夢中になる(ならないか)。
「だって、次々と発売される新曲を聞く暇なんてないから」なんて、大人になってしまう。
でも、本当は、暇がなくなるわけではなくて、聴ける日本のポップスがなくなっているのだ。音楽を聞かない(買わない)大人たちには、すぐれた作品も新しい作品も供給されない。大人たちが買わないから、ますます、十代に向けた作品ばかりが提供され続ける。僕たちにとっては、悪循環である。村上春樹氏じゃないけど、「やれやれ」と言いたくなる。
アーティストたちも、同世代に新人賞レベルの作品を提供し続ける。新人賞レベルとは、語弊があるかも知れないけど、作品が成熟する前に多くのバンドが消えるから、結果としてそうなってしまう。ファンが大人になる頃、人気がなくなって(彼らがCDを買わなくなって)、アーティストは「やってられねーよ」と辞めていく。これが現在の、日本のポップス環境である。ヤレヤレ・・・・
そんな日本の音楽環境の中で、坂本龍一氏は、大人たちに作品を提供できる数少ないアーティストだと、僕は思っている。
さっき『Merry Chrismas Mr.Lawrence』を、黒鍵だけの5音で演奏すると、どこか気の抜けた曲になってしまう、と書いた。原因は、坂本氏がアジアの音階「5音音階」に、西洋世界の半音階を巧みに混ぜ、緊張感を高め印象深く聴こえる手法を使っているためである。僕たちは、坂本氏が仕掛けたテクニックによって、耳に一生消えない印象を刻みこまれるわけである。きちんと音楽を身につけた坂本氏には、何をいまさらという基本的な手法だろうけど・・・・・。
こうした技術に裏付けられたアーティストの出現を僕はずっと待っているけど、バランスの取れた人は発見できずにいる。難解すぎても、楽しくないしね。
最近、才能有るアーティストがいなくなったと感じた人は、とりあえずビールでも飲みながら『Merry Chrismas Mr.Lawrence』を聴くと、「なるほどね」と考えさせてくれる作品です。
いろんな意味で・・・・・。