
「みんな、僕が夏が好きだと思っているようだけど、僕は夏が大嫌いです。モノは腐るし、暑いし」と、1983年のコンサートで達郎独特の早口で話していたのを、僕は今でも覚えている。
達郎のチケットを手に入れるのは大変で、「僕がチケットを2枚頼んだらスタッフに『ない』と言われて、ここに座っている人たちはどうやってチケットを買ったのでしょうか。教えていただきたい」と、ステージ上で達郎が言っていたくらい人気あるコンサートだった。確かその日は、クリスマスだったと思う。
クリスマスなのにコンサートのテーマが夏っぽかったのは、当時、山下達郎からイメージするのは、「夏」だったからだ。
会場では『LOVELAND ISLAND』のホットな演奏を僕たちは期待していたし、達郎は完璧に僕たちの期待に応えてくれた。小気味よくカッティングする繊細な達郎のギターがとても心地よかったのも覚えている。
そのコンサートは辺りの空気が張りつめるくらい、隙のないできだった。「達郎は完璧主義なんだよ」と、隣に座っているガールフレンドが自分のことのように自慢するくらいに。
モノ作りには、オタク的要素がある程度必要だ、と僕は思っている。
1983年には、まだ、オタクという言葉が一人歩きしていなかったけど、達郎には自分の世界を大切にしながら完璧な作品を目指す凄みのようなものがあった。興味のない人には『オタク』の一言で片づけられてしまうようなこだわりが、彼の持ち味のひとつだとも思う。
テープレコーダーがモノラルだった時代。友達からもう一台レコーダーを借りてきて、簡単な多重録音をしてひとりアカペラ遊びをした経験がある。 山下達郎というアーティストが、まだ、存在していなかった頃だ。試してみると分かるけど、自分の声を使ってアカペラを録音すると驚くくらい綺麗にハモルのである。まるで、ピアノの鍵盤で表現したように和音を作ることができる(もっとも僕の場合は調律がおかしいピアノだったけど)。きっと同じ楽器(同じ声紋)で和音を作るから、美しく聞こえるのだろう。
達郎もこの現象に気づいて、ひとりアカペラを好んで録音する。もしかすると、同じ頃、似たような遊びを彼もしたのかも知れない。
自分の世界を大切にしながら完璧なものを目指す達郎にとって、ひとりアカペラを作るのは、ご機嫌な作業なのかも知れない。でも、これってとてもオタクな行為だと思う。
好きなことを追求し、完成させ発表すれば、オタクはアーティストになる。
最近では、1999年11月に発売された『ON THE STREET CORNER』でひとり達郎のアカペラを聴くことができるから、ぜひ、手に入れてみてください。
山下達郎から夏をイメージすることはあまりなくなったけど、初期の「クールな夏」を感じる達郎作品が、僕はわりと好きでalbum『FOU YOU』は1980年代の夏を感じることができる貴重なCDのひとつだ。つい、クリスマスの時期に手に取ってしまうのだけど・・・。
album『FOR YOU』の緊張感は、その完成度の高さや細部のこだわりから来ているのかも知れないけど、緊張感が漂う「クールな夏」なんて達郎ならではだと思う。チューブやサザンでは、味わえないキリっと冷えた夏。他にもalbum『RIDE
ON TIME』なんかも、そんな「夏」の雰囲気を持つアルバムだろう。
エアコンが効いたようなクールな「達郎の夏」は、暖かい部屋で冬に聴くと、結構いいです。